NECソフトは、ユビキタスシステムインテグレーション(ユビキタスSI)事業を創出する。デジタル家電などのユビキタス領域と、基幹系システムを中心としたエンタープライズ領域とをシームレスに融合させることで、来るべきユビキタス社会においても高い競争力を保持する考えだ。次なる飛躍に向け、6月22日に就任した池原憲二社長は、システム開発プロジェクトの「上流工程から顧客をナビゲーションする」ことの重要性を何度も口にする。
新しい領域のシステム開発を進める。06年度には全体の4割弱に
──6月22日付で社長に就任されましたが、今後、さらに伸ばしていこうと考えている重点分野を教えてください。
池原 NECソフトの目指す方向は明確で、「ユビキタスシステムインテグレーション(ユビキタスSI)」と呼ばれる領域に向かって大きく前進していこうと考えています。昨年度(2004年3月期)の連結売上高1211億円のうち、およそ73%が顧客企業の基幹系システムなど「エンタープライズSI」の領域が占めており、引き続き拡大させていく主力分野です。実は現在、これにプラスして、さまざまな新しい領域のシステム開発を進めています。代表的なのが携帯電話やデジタル家電、自動車向けの組み込みソフトで、他にもバイオ解析や生体認証(バイオメトリクス)、ナチュラルインターフェイス、オープンソースソフトなど、今後拡大が期待される新領域のソフト開発で徐々に実績を増やしています。
こうした新領域のソフト開発の比率は、昨年度の連結売上高のうちおよそ18%を占めるまでに拡大しました。2年後の06年度(07年3月期)には、この新領域のソフト開発比率を2倍の4割弱にまで増やす計画を立てています。ユビキタスSIとは、既存のエンタープライズSIと、組み込みソフトや先端ソフトなどの新領域のソフト開発とが融合したシステムインテグレーションを指します。顧客企業の基幹系システムとユビキタス環境とが、密接不可分に統合されたインテグレーションをユビキタスSIと呼び、将来的に当社の競争力を高める核になると予測しています。
──昨年度は26億円もの大型不採算案件を出しました。企業としての信頼を勝ち取っていくためにも、不採算案件の撲滅は急務です。
池原 成長し続ける一流の顧客は、一流の企業としか取り引きしません。一流の顧客と取り引きするには、適正な利益を確保し、財務体質を健全に保ち続けることが不可欠です。こうした取り組みが信頼感の増幅につながります。何十億円も不採算案件を出しているようでは、顧客の信頼を勝ち取るのは困難だと認識しています。ただし、オープン環境が広がるにつれて、システムインテグレーションの選択肢は、限りなく広がっています。ハードウェアやOS(基本ソフト)、ミドルウェア、アプリケーションは何を選ぶのか、開発言語はJavaか.NETか、あるいはオープンソースソフト方式を採用するのか、無数の選択肢があります。
あるプロジェクトで成功した体験も、選択肢が多すぎて、次のプロジェクトでは生かせずに失敗するということもありました。ここで大切な点は、われわれの土俵に顧客をナビゲートするという点です。顧客にも迷惑をかけずに済みますし、われわれも失敗して赤字を出すリスクを軽減させることができます。顧客をナビゲートするにはプロジェクトの“上流工程”から参加しなければなりません。途中から参加しても、すでに何を使うか決まっていることも多く、うまくナビゲートできません。昨年度の不採算案件のうち、上流工程から参加していないプロジェクトが比較的多かったことが判明しています。今年度は、できる限り上流工程から参加し、失敗プロジェクトにならないナビゲートを心がけています。
──不採算案件撲滅に向け、独自の監視体制PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を設置するなどの取り組みをしています。
池原 PMOは、あくまでも側面からの監視です。監視は今後とも強化しますが、やはり事業の責任部門が上流工程から顧客をナビゲーションすることが本筋です。上流工程での顧客ナビゲーションの段階で、顧客との意見が合わないなどギクシャクしているシステムは、そのまま開発に移行しても決してスムーズにいきません。問題を含んでいる時は、必ず上流工程の段階で解決することが大切だと考えています。
NECとは“車の両輪”の関係、中国市場にも積極的に参入
──今年度、連結売上高に占めるNECソフトのオリジナルビジネスの比率は前年度比微増の38%を予測していますが、少なすぎる印象を受けます。
池原 NECソフトは、他のNECグループの販売会社やサービス会社に比べ特殊な位置付けだと認識しています。NEC本体のソフト開発の中心的な役割を担い、NECとNECソフトはいわば“車の両輪”として機能しています。NEC本体と一緒になって取り組むビジネスは「NEC連携事業」と呼び、独自に展開するビジネスは「自主事業」と呼んでいます。NEC連携事業は、巨大な基幹系システムの構築案件が多かったり、ユビキタスSIに通じる先端的な案件も数多くあります。誤解を恐れずに申し上げれば、NEC連携事業を通じて、あまり投資することなく最先端の技術を蓄積できることが、当社の強みであるとも言えます。こうして取得した技術を、今度は自主事業へと展開していくことで、連携と自主がそれぞれバランス良く伸びていく好循環を作り出すことに結びつきます。
──中国市場の開拓がNECの海外戦略で最も重要な位置付けとなっており、中国市場向けのビジネスを統括するNECソリューションズ(中国)の発足も決まっています。
池原 NECとNECソフトは車の両輪ですので、NECが攻める市場ならば、NECソフトも最優先で攻めます。NECソリューションズ(中国)と密接に連携して、中国ビジネスを展開していきます。中国市場は、日本にも増してシビアな市場だと聞いています。中国のシステムインテグレーション事業で利益を出していくには、上流工程で顧客の意向をしっかりと押さえ、当社の手慣れた土俵に顧客をナビゲートすることが欠かせない要素となります。
──国内14兆円と言われる情報サービス市場のうち、NECソフトの売上高が占めるシェアはわずか1%弱でしかありません。今後のシェア拡大策についてはどうお考えですか。
池原 今の延長線上で年率20─30%と売上高を伸ばしていくことは、まず不可能です。情報サービス産業の伸び率より少し上を行く、数%の伸びを維持するのが限界だと思われます。経営者として、今後の業界再編も視野に入れたM&A(企業の合併・買収)を模索していく必要があると考えています。情報サービス産業は現在、回復基調にあり、明るさが見えている段階です。よって、今すぐに大きな再編が起きるとは考えていません。しかし、産業の成長には必ず“波”があります。次回、マイナス成長や踊り場が到来した時に、一気に再編が進む可能性はあります。時代の要請に応えられる技術力を蓄積し、顧客企業からの信頼に足る利益体質の構築、それにユビキタスSIビジネスの創出に向け、これまで以上に力を入れていく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「実際のマシンを使ってのテストは、あくまでも動作確認であり、それ以外の何ものでもない」が持論。ソフト開発業界で繰り返される大型不採算案件の多くは、ソフトを組み上げた後に問題が表面化し、対応が後手に回る。顧客とともに設計し、開発の上流工程の段階で不具合を徹底的に潰していく。本格的に動き出す前なら損失は最小限に抑えられるからだ。「組み上げてマシンで動かす時は、動くことを確認するだけの作業であるべき」。「意志疎通がスムーズにできるはずの国内の顧客とでさえ、ソフト開発を巡る行き違いを防げないとしたら、今後、中国など海外へ進出した時は、さらに深刻な事態に直面する」と、上流工程の重要さを痛感する。(寶)
プロフィール
池原 憲二
(いけはら けんじ)1944年生まれ、東京都出身。67年、東京都立大学理学部卒業。同年、NEC入社。91年、第一基本ソフトウェア開発本部長代理。98年、理事。00年、NECソリューションズ執行役員。02年、NECソリューションズ執行役員常務。04年4月、NECソフト取締役専務。同年6月22日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
NECソフトは売上高全体のうち、NEC本体からの受注分が6割強を占める。自主的に展開するビジネスは全体の4割弱と、NEC本体への依存度が比較的高い。だが、NECとの連携事業の一環として大手企業の基幹系システムを多数受注。大規模システムを開発・構築するノウハウを豊富に蓄積している点が、逆に競争力の源泉にもなっている。デジタル家電やバイオ解析、生体認証(バイオメトリクス)システムなど、NECグループが手がける最先端のソフト開発も多数こなしている。昨年度(2004年3月期)で、連結売上高に占める最先端ソフト開発の比率は2割弱に達している。2年後の06年度(07年3月期)には、こうした最先端ソフト開発の比率を現在の2倍にまで増やす計画だ。現段階では、基幹系システムなどエンタープライズ領域のシステムインテグレーションが売り上げの中心を占めるが、今後はエンタープライズ系と最先端ソフト開発との融合を進めることで「ユビキタスシステムインテグレーション(ユビキタスSI)」事業の立ち上げを目指す。