通信分野は予想を上回る速さでIP化が進む。富士通系大手ディーラーの都築電気は、市場環境が激変しても国内有数のソリューションプロバイダであり続けるために、通信事業の一部で「マルチベンダー化を進める」(都築東吾社長)と、成長路線の堅持に向けた苦渋の決断を下す。一方で、コンピュータ分野では富士通製品の世界的な優位性に対する評価は高く、今後も富士通ディーラーであり続ける。
通信で強い製品を積極的に扱うソリューションプロバイダへ
──通信の世界でもIP化が急速に進んでいます。この動きにどう対応していますか。
都築 昨年度(2004年3月期)当社の連結売上高のうち、コンピュータ系の売上高は約6割を占め、残り約4割が通信系です。これまでの通信系ビジネスは、PBX(構内交換機)などの電話設備が中心でした。ところが、IP化が進むと従来型PBXの新規販売はほとんどなくなり、すでに納入したPBX機材に対する保守サービスのみが売り上げのベースになります。これでは通信系の事業は縮小均衡になりかねません。
今のところ、IPベースの電話設備はトラフィックが集中すると通話品質が劣化したり、停電時に通話ができなくなったり、あるいは110番や119番といった3ケタの番号や、フリーダイヤルなどの着信者払いサービスがうまくかからないなどの問題があります。しかし、こうした諸問題はいずれ解決され、猛烈に普及が進むと思われます。当社としては、普及のタイミングで受注シェアを伸ばし、通信分野に強いソリューションプロバイダとしての地位を確固たるものにします。
──都築電気はトップクラスの富士通系ディーラーとして有名ですが、富士通製品のみで通信のIP化需要に対応できますか。
都築 通信分野に限っては、ここ1-2年で富士通系ディーラーの位置づけから外れてきたように思います。10年ほど前から米通信機器メーカーのアバイア製品の取り扱いを始めました。今では、国内でトップクラスのアバイアディーラーになりつつあります。また、沖電気工業など国産メーカーの製品も扱うようになりました。当社は、戦後の焼け跡から電話設備事業を柱に、国内有数のソリューションプロバイダとして成長してきた会社です。電話設備がIP化した後も、通信に強いソリューションプロバイダとしての優位性を確保し続ける方針です。このためには、強いベンダーの製品を積極的に扱うマルチベンダー戦略が欠かせないと考えています。
──IP電話の分野では、世界的にシスコシステムズが有名です。シスコはコンピュータの分野で、富士通と競合関係にあるIBMと提携しています。
都築 通信分野でナンバーワンのソリューションプロバイダになるためには、シスコ製品の取り扱い強化を検討しなければなりません。アバイアは大規模なシステムに強くても、中堅・中小規模向けの品揃えが薄く、少々値段が高い傾向にあります。こうした手薄な部分を強化する意味でも、シスコを含めたマルチベンダー化を今後とも進めていく方針です。とはいえ、現状は通信分野においても、富士通製品を使ったソリューションが通信関連の売上高全体の8割を占めます。しかし、今後3-5年の間に、既存の電話設備の多くはIPベースの製品に置き換わるとみられ、この分野におけるマルチベンダー化は進むと思われます。最終的には、通信分野において富士通が5割、その他のベンダーが5割くらいの比率になる可能性があります。
──3-5年の間にIP化が急速に進むと同時に、競争も激化します。より高い技術的な優位性がないと、この競争を勝ち残れません。
都築 その通りです。IP化された電話設備は、従来型PBXとは構造が大きく異なります。PBXはスイッチで切り替える方式なのに対して、IP型はルーティングと呼ばれる技術を使います。こうした技術的な変遷に追随していくため、当社では年間1億円ほどを投じて、最新の通信機材を社内に取り揃えるようにしています。社員は、必要な時に必要なだけ、最新機材を使った技術検証ができる「ネットワーク検証センター」の環境整備に力を入れています。検証センターは東京だけでなく、名古屋や大阪にも設けています。主要拠点の技術レベル向上に取り込むことで、技術的な優位性を堅持していきます。IP電話の技術は、日進月歩で進化していることから、“タタミ水練”にならないようしっかり投資する必要があります。通信機材などのハードウェアだけでなく、JavaやXMLといったソフトウェアや、コンピュータ系人材育成の投資も含めれば、全社的に年間5億円ほどの研究開発費および教育費を投じています。
富士通とは“クール”な関係、都築でなければ売れない状況作る
──通信分野ではマルチベンダー化が進む様相ですが、売上高の約6割を占めるコンピュータ分野はどうですか。マルチベンダー化は進むのでしょうか。
都築 いいえ、マルチベンダー化は進みません。通信分野はともかく、コンピュータ分野では、富士通のハードウェア製品は非常に優れています。 これまでも、「外資系のハードウェアを販売しないか」と声をかけられたことはありますが、富士通以外は売りません。これは私のポリシーです。これから先も、これは変わりません。ただし、あくまでもハードウェアの話であり、ソフトウェアはマルチベンダー化することが考えられます。
1990年代の初めからオープン化やダウンサイジングの流れが起こり、われわれディーラーは、技術やノウハウを蓄えて独り立ちするようにメーカーから言われてきました。10数年経った今では、独り立ちするのが当たり前になりました。その分、血の通った親子のようなメーカーとディーラーの関係が、いくぶんクールになってきたように思います。ホットからクールへの変化です。富士通そのものが、巨大なソリューションプロバイダになりつつあり、ディーラーと比較の対象になることもあります。ディーラーを通じて売ると、その分、メーカーの取り分が少なくなるので、敬遠する部課長さんが増えてきたようにも感じます。よほど「われわれでないと売れない」という状況をつくり出さなければ、富士通から袖にされる恐れもあります。
──「われわれでないと売れない」状況とは、具体的にどのような状況ですか。
都築 顧客密着です。われわれが顧客に密着して離れないように努めることです。もちろん、富士通とわれわれの血の通った付き合いは、今もこれからも変わりません。ただし、顧客企業は昔と違って、1社のベンダーがすべて囲い込める状況はあり得ない話です。よって、富士通だけですべてを固めるにはどうしても無理が出てきます。また、顧客企業のホストコンピュータがNECやIBMであるとします。昔ならば富士通にリプレースすると多大なインセンティブが手に入った時期もありました。今は、そうしたインセンティブも減る一方ですから、派手なリプレースを展開するというよりは、マルチベンダー化の波に乗って、少しずつ顧客の中枢部分へ食い込んでいく営業手法が多くなっています。IP化で市場環境が激変し、メーカーとの関係に変化が起きたとしても、常に顧客企業に密着して、顧客本位のビジネスを展開することが、われわれソリューションプロバイダにとっての本分であり、最も大切なことです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
8月23日に本社を東京・品川区から港区に移した。新本社は都心に近く、交通の利便性が大幅に向上した。「本社を移したのは顧客密着の度合いを高めるため。足場が俄然良くなったので、午前と午後、これまでより1社ずつ多く顧客を訪問するよう指示している」と、営業強化に向けパッパを掛ける。これまではプッシュ型営業がほぼ100%を占めてきたが、「今後は顧客の方から引き合いが来るプル型も拡充させる」と、プル型営業を展開するための仕掛けづくりを急ぐ。すでに、企業ポータルや販売管理システムなど優れたオリジナル商材を多数開発しており、これら商材をプル型に仕立て、最後は「顧客密着のプッシュ型」で決める“合わせ技”も考案中だ。(寶)
プロフィール
都築 東吾
(つづき とうご)1934年生まれ、愛知県出身。57年、慶應義塾大学工学部卒業。59年、同大学院修了。60年、富士通入社。62年、長谷川電機製作所(現・富士通アイ・ネットワークシステムズ)入社。68年、都築電気取締役(非常勤)。70年、都築ソフトウェアを設立し、代表取締役社長に就任。83年、都築ソフトウェア代表取締役を退任し、都築電気常務取締役に就任。90年、代表取締役副社長。98年から代表取締役社長。
会社紹介
富士通系の大手ディーラー。昨年度(2004年3月期)の連結売上高は前年度比2.3%増の1106億円、経常利益は同167.9%増の23億円だった。売上高のうち、コンピュータ系の構成比が約6割、通信系が約4割を占める。コンピュータ、通信ともに富士通製品を中心にソリューションを構成するものの、通信分野の一部でマルチベンダー化が進む見込み。電話設備などのIP化が急速に進むなかで、顧客の要望に合致したIP製品を1社のベンダーですべて揃えるのは難しい状況になっているのが背景にある。コンピュータ分野では、依然として富士通製品の比率は高く、「富士通陣営にいてメシの食いはぐれはない」(都築社長)と、富士通ディーラーの強みを最大限に生かしていく考え。企業ポータルや販売管理システムを独自開発するなど、オリジナルのソフトウェア商材の開発にも力を入れている。