テンアートニが、オープンソースソフトウェア(OSS)をベースに業績を伸ばしている。開発コミュニティへの貢献や顧客企業に向けたソリューションの拡充など、オープンソース文化の尊重と顧客企業の投資対効果の最大化に努める。同社を率いる喜多伸夫・代表取締役社長は、労働集約型になりがちなシステム開発や従来型のソフトウェア開発とは一線を画し、世界中のオープンソースソフトをフル活用した収益性の高いビジネスを目指す。
従来型ソフト開発とは違う“文化”、商用利用に対する抵抗感は薄れた
──オープンソースソフトウェア(OSS)の開発コミュニティだけでは、開発者本位になりがちで、顧客である企業が100%満足するソリューションに仕立てにくいという指摘があります。
喜多 オープンソースソフトの世界は、従来型のソフトウェア開発とは違う“文化”があります。1990年代のオープンソースソフト発展段階では、開発者にとって開発意欲をかき立てるような環境づくりを重視するあまり、オープンソースソフトを商用で使うことに対して消極的な姿勢が見られました。現在では、商用利用に対する抵抗感は薄れたものの、開発者の意欲を引き出す環境づくりを重視する文化は、依然として強く残っています。
このため、顧客企業が100%満足でき、開発コミュニティがより良い製品づくりに集中できるようにするため、当社のようなオープンソースソフトを活用してビジネスを展開する事業者が求められているのです。開発コミュニティや顧客企業の双方から必要とされている点で、ビジネス拡大の可能性は大いにあります。たとえば、オープンソースソフトのLinuxを使っている顧客企業向けに、セキュリティを高めるためのソフトウェアの更新サービスがあります。これは積み上げ型のビジネスなので、顧客数が増えれば安定した収益を得られます。また、当社オリジナルのオープンソースソフト方式による開発プラットフォームも提供しており、関連する開発ツール類は有料で販売するビジネスも始まっています。
いずれも、ユーザー数が増えれば増えるほど収益性が高まるビジネスモデルです。当社は、とかく労働集約型になりがちなシステムインテグレーションビジネスに軸足を置くというよりも、オープンソースソフトをベースにしたソフトウェア開発およびサポート・サービスに重点を置いた展開を目指しています。サポート・サービスやコンサルティングなどは収益性が高く、ある一定数の顧客規模、顧客数に達し、損益分岐点を超えれば、収益性はぐんと高まります。今年度(2004年12月期)の売上見込み約34億円に対する経常利益率はおよそ6%台の見通しですが、2年後の06年度(06年12月期)は売上高50億円、経常利益率10%以上を達成する目標を掲げています。収益性の高いサポート・サービスに軸足を置くことで、07年度以降の早い段階で経常利益率20%を叩き出すことも不可能ではないと考えています。このように、ソフトウェアのライセンス料が発生しないオープンソースソフトをベースとしたビジネスにおいても、収益力のあるビジネスが可能だと確信しています。
大塚商会の戦略子会社、グループ外へも積極的に展開
──テンアートニは大手システムインテグレータの大塚商会の戦略子会社という側面もあります。大塚商会の強力な販売力を活用すれば、迅速な事業拡大が見込めます。
喜多 大塚商会の販売チャネルは非常に魅力的で重要です。ただ、これは大塚商会が販売会社、当社がソフト開発会社と見れば、大塚商会が販売チャネルという位置づけになりますが、一方で、当社は大塚商会のオープンソースをベースとしたソリューションを提供する戦略子会社であり、大塚商会グループはオープンソースのビジネスにも積極的に取り組んでいるという見方もできます。当社の売上高のうち約7割はグループ外に向けた自主ビジネスが占め、大塚商会向けのビジネスは約3割しかありません。グループ全体の連結経営の観点で見たとき、数字に表れてくるのは前者の約7割であり、後者は内部取引として相殺されてしまいます。大塚商会向けのビジネスも重要ですが、グループ外に向けたビジネスも従来通り、積極的に展開していきます。
中堅・中小企業市場に強い大塚商会グループとして、中堅・中小企業の顧客がオープンソースソフトの恩恵を最大限に享受できる仕組みづくりを進めています。昨年10月には、中堅・中小企業が導入してすぐに活用できる用途特化型のアプライアンスサーバーを製品化しました。インターネットサーバーや電子メールマーケティング支援サーバーなど、用途を特化したことで特別な知識がなくてもフルに活用できます。これらのアプライアンスサーバーの基本ソフトにはLinuxを採用しているため、ウィンドウズなどを採用するよりも価格優位性があります。これまでに4種類ほどのアプライアンスサーバーを製品化しており、販売数も順調に伸びています。アプリケーションを開発しているソフトベンダーと組んで、今後も順次アプライアンスサーバーの種類を増やし、中堅・中小企業に向けたオープンソースソフトの普及に力を入れます。
──10月4日からJavaで開発するウェブアプリケーションのフレームワーク「ニンジャ-VA」をオープンソース方式で出荷開始しました。
喜多 Javaのフレームワークである「ニンジャ-VA」はミドルウェアですので、開発者の最終製品に組み込まれて出荷されます。この部分はオープンソース方式で誰でも自由に使うことができます。ただし、「ニンジャ-VA」をベースにソフトを開発するためのツールは有料で販売します。「ニンジャ-VA」の名前は、忍者とJavaを組み合わせた造語です。国内でのビジネスのみならず、海外で覚えられやすい名前を採用しました。このフレームワークはオープンソース方式で開発しているため、世界中の誰でも自社の製品に組み込むことができます。この製品の知名度を世界的に高めていくことが、今後、本格的に海外へビジネスを展開する時に有利に働くと期待しています。
──オープンソース方式は誰でも自由にコピーができるため、直接的な収益に結びつかない可能性があります。
喜多 オープンソース方式といえども、大本のソースコードはバラバラにならないように当社が管理しますし、最新の技術を駆使した質の高いサービスを提供し続ければ、自ずと顧客からの引き合いも増えると考えています。ご指摘の通り、オープンソースソフトは誰でもコピーが可能です。同時に、コピーが自由であるため、普及するのが早いとも言えます。音楽やビデオゲームソフトなど、現実問題として、違法コピーによって世界の隅々まで広く普及し、市場が形成されるという皮肉な現象も一部に見受けられます。
ただし、コピーは所詮コピーです。たとえば、クラシック音楽の演奏を聴きに行くとします。タイムマシンか何かでモーツァルトの生演奏が聴けるチケットが1枚10万円で販売されているとします。一方で、モーツァルトの生演奏と寸分違わぬアマチュア演奏家がモーツァルトの曲を演奏する演奏会のチケットが500円だったとします。本物志向の人なら迷わず10万円のチケットを購入するでしょう。この点、オープンソースソフトの世界で、当社はとことん本物です。本物を志向する顧客ならば、当社にオープンソースを活用したシステム構築やサービス・サポートを発注していただけると確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「世界の名だたるITベンダーは巨額の資金をオープンソースコミュニティに提供している」と、大手の動きを指摘する。「大手に比べればまだ規模は小さい」としながらも、同社はブラウザとして知られるモジラを開発する米モジラ財団の日本支部「Mozilla Japan」の設立に全面協力した。「資金以外にも人的・物的支援など、オープンソース活動が活性化するために貢献することが、オープンソースを使いビジネスを展開している事業者の作法」と、オープンソース文化の振興に積極的に取り組む。オープンソースソフトは、無限に湧き出てくるわけでなく、テンアートニのような開発環境の保全に努める事業者の存在が欠かせないものとなっている。(寶)
プロフィール
喜多 伸夫
(きた のぶお)1959年生まれ、大阪府出身。82年、京都工芸繊維大学卒業。同年、稲畑産業入社。93-99年まで米国に駐在し、稲畑産業のシリコンバレー支店長や稲畑産業グループの半導体製造装置メーカー、シナックステクノロジーズ米国法人副社長を歴任。帰国後の99年、Linuxシステムメーカーのノーザンライツコンピュータ代表取締役。02年1月、LinuxとJavaの普及を目的とする大塚商会の戦略子会社、テンアートニがノーザンライツコンピュータを吸収合併。これに伴い、テンアートニ代表取締役社長に就任した。04年、大塚商会特別執行役員(非常勤)就任。
会社紹介
オープンソースソフトウェア(OSS)をベースとしたビジネスが評価され、今年8月に東証マザーズに株式公開を果たす。今年度(2004年12月期)の売上高は前年度比31.0%増の33億9700万円、経常利益は同37.6%増の2億1500万円、当期純利益は同28.3%増の2億9100万円を見込む。今年7月28日付でオープンソースのネットワークコミュニケーションソフト「モジラ」の普及・啓蒙を目的とする「Mozilla Japan」(米モジラ財団の日本支部)の設立に参加するなど、オープンソースコミュニティの活動への貢献に力を入れる。10月4日には、Javaで開発するウェブアプリケーションを効率的に開発できるオープンソース方式のフレームワーク「ニンジャ-VA」の出荷を始めた。オープンソース方式であるため、世界中、誰でも同フレームワークを組み込んだ製品づくりが可能。世界のオープンソースコミュニティとの関係を強化しつつ、顧客企業の投資対効果を最大化させるソリューションの拡充に力を入れる。