日本コムシス、三和エレック、東日本システム建設の持ち株会社として、2003年9月に発足したコムシスホールディングス。NTT向け通信エンジニアリング事業をメインに成長してきた3社は、ホールディングカンパニー制への移行を機に、IP電話システムをはじめとするITソリューション事業へも大きく足を踏み出そうとしている。事業領域の拡大に向けて島田博文社長は、「連結業績が重視される今の時代、持ち株会社のもとでの展開が最良」と説く。ホールディングカンパニーのメリット、そしてコムシスグループのIT事業の強みとは。
既存ビジネス継続し相乗効果を発揮 顧客別に役割を明確化した体制確立へ
──通信エンジニアリング事業を軸に成長してきた3社が、持ち株会社「コムシスホールディングス」のもとで新たにスタートされてから約1年4か月が経ちました。統合効果は表れてきましたか。
島田 財務などの3社共通業務を統合し、効率的な業務を行えることがまずメリットです。ただ、持ち株会社を設立することの利点はこれだけではない。持ち株会社のもとで事業展開することは、さまざまな可能性を秘めていると感じています。
持ち株会社を設立した狙いは、NTTの通信建設工事を手がける同じような企業が、同じような仕事を、同じようなやり方で競争しているのは効率的ではないというのが発端です。
合併だと、社名が変わり、新会社で既存顧客を引き継ぐのに時間がかかってしまうことが多い。それぞれの企業の強みを生かし、既存のビジネスを継続しながら相乗効果を発揮するには、持ち株会社のもと事業展開することが最良の方法と判断したのです。
──今後取り組むべき課題は。
島田 共通業務を最適化するだけでなく、この1年4か月間に進めてきた取り組みとして、3社の役割分担の見直しがあります。日本コムシスと東日本システム建設が信越エリアにおけるNTTから受注する工事を担当し、首都圏を基盤とする三和エレックはNTTからの仕事は日本コムシスに移管して、NTT以外の顧客を担当するといった事業再編を行っています。ユーザーとの関係もあり、すべての顧客を分担できている状況にはまだありませんが、来年度には顧客別に役割を明確にした体制をしっかりと確立していきます。
また、社員を3社の枠組みを超えて自由に配置できる仕組みを作っていきます。連結業績が重視される今の時代、親会社は子会社を事業部のようにマネジメントしなければなりません。ですが、本当の事業部なら事業部間で、社員をスキルに合わせて自由に配置できますよね。でも、法人が違うとそうはいかない。退職金や給与の違い、福利厚生の差など、法人の枠を超えて社員を自由に配置することは簡単ではありません。「あのプロジェクトにはあの技術者を配置しよう」と思ってもなかなかできないわけです。これは、現在の持ち株会社のルールでは、会社を作るルールの方が先行してしまって、事業運営することに起因する問題への法律が整備できていないことも影響しています。
──企業の枠組みを超えて自由に人材を配置する仕組みとは、具体的にどのような形になりますか。
島田 企業間で異動する場合は、もともと各企業の間に給料の格差が存在しますから、企業ごとに違う給料の差額5年分を転籍一時金として社員に保証する制度を作りました。これにより、社員には向こう5年間納得してもらう。社員には、「この5年以内に、コムシスグループのなかで、自由に企業を異動できる仕組みを私が考えるから」と話しています。関連する法律も出てくると思いますし、この5年以内には柔軟なルールが作れると思っています。
トータルソリューションを提供 セキュリティビジネスでも強みを発揮
──NTTから受注する通信エンジニアリング案件が多いなか、民間企業をターゲットとしたITソリューション事業も強化する方針ですね。
島田 NTTから受注する仕事は継続的かつ安定的で魅力がありますから、NTTからの仕事を減らす気はありません。ただ、今後大幅な拡大が見込めないと思いますし、その分を他の事業でカバーしなければなりません。そこで、民間企業をターゲットとした事業を拡大する方針を打ち出しました。
民間企業から受注するには、これまでのようにハードだけ、保守サービスだけというスタンスでは駄目です。ネットワークや情報システムの提案・構築から保守まで、トータルで提供できなければならない。ハードの設置工事だけでは、ITベンダーの下請けとしてしか仕事は受注できなくなり、利益は小さくなるでしょう。元請けとして受注するには、トータルソリューションを提供できる体制が必要です。
コムシスグループとしては、NTTからの仕事が多かったこともあり、このトータルソリューション提供のための事業体制の整備が遅れていました。ソフト開発を例にみても、日本コムシスでは1967年からソフト開発を手がけていますが、その大半は顧客からの要望に沿ったアプリケーションを開発するだけでした。良い意味で何でもこなせるのですが、特色がなかったわけです。
──民間企業からの受注を増やすための武器は。
島田 IP電話システムはその筆頭と言えます。日本コムシスは昨年8月、千葉県我孫子市で市役所と関連施設34か所を結ぶIP電話システムを受注した実績があり、このシステムこそ当社の強みが裏付けられたと自負しています。PBX(構内交換機)を、ソフトスイッチ(サーバー)とルータによるシステムに切り替え、それをリース契約とすることで、ユーザーは安価な費用で導入できるようにしました。システムは徹底した低コスト設計で、OSにはLinuxやTRONを採用しました。このシステムは当社のIP電話の戦略商品として、積極的に民間企業にアピールできます。
また、IP電話は、音声通話のIP化によるコストメリットだけでなく、情報システムとの融合を提案できる点で、大きなビジネスチャンスがあります。アプリケーションによって音声とメールが融合し、不在時に残された留守番電話の音声情報を、メールの添付データとして受信できるようなことも可能になるわけです。IP電話システムでは、イントラネットの再構築や、情報と通信を融合したアプリケーションなど、提案範囲が幅広い。当社には、IP電話システムでしっかりとした商材がありますから、今後さまざまな提案を行っていきます。まずは、当社がPBXの保守サービスを提供している顧客企業をターゲットに、IP電話システムや関連製品、サービスを販売していきます。
また、光ファイバーのような高速回線を常時接続で利用できる環境は、ビジネススタイルを大きく変える起爆剤になると考えています。たとえば、自宅でも社内のイントラネットに自由にアクセスできる環境が整えば、仕事はさらに効率的に進められますよね。まだまだこの分野は未開拓な領域だと感じていますので、研究開発は進めていきたいですね。
──広範囲なイントラネット環境が実現すると、セキュリティはさらに重要性を増しますね。
島田 ご指摘の通りです。セキュリティを熟知していなければ、もはやITビジネスは手がけられない状況だと感じています。当社が「情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)適合性評価制度」の認証を全社的に取得した狙いは、「セキュリティに強いコムシスグループ」をアピールしたかったからです。まだまだ民間企業の間には、「コムシスグループは工事会社」とのイメージを持っておられる方が多い。このイメージから脱却し、ITビジネスで後発のコムシスグループが、民間企業にITサービスを提供するためには、アピールできる分野が必要です。それがセキュリティです。セキュリティビジネスは、各ITベンダーの提案内容に、それほどレベル差が無い分野だと捉えています、IP電話同様にセキュリティでも強みをアピールしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
人材教育には一貫して力を入れている島田社長。シスコシステムズの技術者認定資格のなかで、最高資格の1つにあたる「CCIE」の取得者数は、今年度末には10人に達する見込み。2007年度末には70人まで増やす計画だ。この優秀な技術者達が大きな武器となる。
「人材教育には以前から力を入れていただけに、IPやLinux関連など先進分野の技術者には恵まれている。ただ、これまではユーザーの要望に沿った開発案件が中心だっただけに、優秀な技術者のスキルを生かせていなかったのかもしれない」。
「民間企業を攻めるには、ブランドが重要」と、IP電話やセキュリティといった強みとなる分野で戦略商品の開発を急ぐ。「優秀な技術者たちの発想でブランド商品を次々と投入していきたい」。「これまで隠れていた技術者」のスキルを発揮できる環境を作れるかが、ブランド商品創出の行方を左右しそうだ。(鈎)
プロフィール
島田 博文
(しまだ ひろふみ)1940年生まれ、東京都出身。67年3月、慶応義塾大学大学院工学研究科電気工学修士課程修了。同年4月、日本電信電話公社(現NTT)入社。94年、取締役信越支社長。99年1月、日本情報通信顧問に就任後、同年6月、代表取締役社長に就任。02年6月、日本コムシス入社、代表取締役副社長。03年6月、代表取締役社長に就任。同年9月、コムシスホールディングスの設立に伴い同社代表取締役社長を兼任。
会社紹介
コムシスホールディングスは、通信エンジニアリングをメイン事業とする日本コムシス、三和エレック、東日本システム建設の持ち株会社として2003年9月29日に設立された。グループの社員数は約7100人。
03年度(04年3月期)の連結業績は、売上高2489億6000万円、営業利益107億8600万円、経常利益114億円、当期純利益65億9100万円。今年度(05年3月期)の中間期は、NTT向けの通信エンジニアリング事業が好調に推移したことや、事業再編に伴うコスト削減効果などにより、実績は期首予想を上回り、売上高が1117億2700万円(期首予想1100億円)、経常利益が42億3300万円(同21億円)、当期純利益が14億6100万円(同9億円)となっている。
コムシスグループのなかで中核をなす日本コムシスは、従来の電気通信設備事業、電気設備事業に加え、ITソリューションビジネスの拡大を目指し、02年に経済産業省のシステムインテグレータ認定の取得、また03年にISMS認証取得をはじめIT分野で他社とアライアンスを組むなどITサービス、システム構築事業を本格的に開始した。通信分野で培ってきた強みを生かし、SIP技術を駆使したIP電話システムの開発・販売に力を入れており、05年度(06年3月期)にはIP電話を中心とするITビジネスで820億円の売上高を見込んでいる。