プロシップの基幹業務パッケージソフトが順調に販売を伸ばしている。導入企業数は大手企業を中心に1500社を超えた。固定資産管理やリース資産管理など高度な知識や経験が必要とされる分野にフォーカスを当て、専門性を追究し続けている。外資系、国産問わず競合メーカーが多数ひしめき合う激戦市場で、高い専門性を武器に老舗パッケージメーカーが市場を席巻し始めた。
固定資産やリース管理に強み1500社を超える企業に導入
──競争激しい基幹業務パッケージソフト市場のなかで、好調を維持しています。
鈴木 会計業務に関する高い専門性が他社との差別化につながり、好評価を得ているからでしょう。
プロシップの基幹業務パッケージ「ProPlus(プロプラス)シリーズ」は、特に固定資産管理やリース資産管理、減損会計分野に力を入れています。この分野は非常に複雑な領域で、高い専門性と知識、経験が必要になります。プロシップは、20年以上にわたり、この分野に焦点を当て、研究し続けています。この歴史のなかで培った知識と経験が、好調な理由だと感じています。
競合のパッケージ商品を持つITベンダーが、顧客先と話を進めるなかで、固定資産管理の部分が難しいと判断した場合、固定資産管理パッケージは「プロプラスシリーズ」を活用するケースもあります。競合他社も、プロシップの高い専門性を認めざるを得ないわけです。
導入企業数は、大手企業や中堅企業を中心に1500社を超えました。導入企業の業種はさまざまで、あらゆる業種に受け入れられています。IT調査会社の調べによると、基幹業務パッケージ市場の規模自体は昨年は横ばい、今年も数パーセントの伸びしか見込めないと予測しています。ですが、「プロプラスシリーズ」は市場環境に左右されることなく、順調に販売を伸ばしています。
企業の会計業務は、M&A(企業の合併・買収)が活発化している影響や四半期ベースの情報開示の浸透などから、さらに複雑になっていくでしょう。専門性の高いプロシップのパッケージを必要とする企業が増えると思いますので、今後も期待できます。
──営業担当者やシステムエンジニア(SE)にも、会計業務に関する専門知識が必要になりますね。
鈴木 その通りであり、人材育成には力を入れています。プロシップの営業担当者やSE、そしてコンサルタントは会計業務に関する高い専門知識を持っています。社員約150人のうち7割は会計業務に精通しています。ITスキルだけでなく、会計業務の知識も持つ営業担当者やコンサルタントが、顧客先を訪問することで、顧客が今本当に何を悩んでいるかを聞き出し、それを理解することができます。
この専門性を生かす営業戦略として、プロシップは他社とは違う手法をとっております。営業先となる部署は、情報システム部門ではなく経理部門としています。
経理部門の悩みや問題点を聞き出し、「プロプラス」と顧客ごとのカスタマイズ機能を、直接のユーザーである経理担当者に提案します。情報システム担当者は会計業務に精通していないことが多く、経理担当者の要望をシステム構築に生かすためです。結果的には、情報システム部門からお金は出るのですが、経理担当者にアプローチする方が効果的なのです。情報システム担当者ではなく、経理担当者としっかり話ができる営業担当者とコンサルタントを数多く保有しているからこそ実現できる営業手法だと思いますし、他社には真似できないでしょう。
また、専門性の高さが顧客に受け入れられている証拠として、私が考えたユニークな営業方法も実践しています。
遠方の顧客先に営業に出かける際は、交通費を顧客に負担してもらうのです。普通では考えられない話です。「顧客は当然、何を考えているんだ」と思います。ですが、プロシップの専門性を理解してくれた顧客は「それでも良いから来てくれ」と、交通費を負担してくれます。
単純に経費を削減できるだけでなく、交通費を払ってでも話を聞きたいと思ってくれる顧客ですから、当然受注にもつながりやすい。効率的に営業が行えるわけです。これも、当社の専門性の高さがあるからこそ実現できると感じています。
「プロプラスシリーズ」の中国語版開発、来年度から本格的な営業展開へ
──「プロプラスシリーズ」の顧客は大企業・中堅企業が中心です。中小企業へのアプローチは。
鈴木 ニーズはあると思いますが、考えていません。やはり、ターゲットは従来通り大企業・中堅企業です。企業規模が大きく、会計業務が複雑な顧客でなければ、「プロプラスシリーズ」の強みは発揮できないと考えているからです。加えて、中小企業向けに安価なパッケージを開発・販売している競合他社が複数ありますから、この市場にこれから真っ向勝負を挑むつもりはありません。大企業・中堅企業市場でもまだまだ開拓先はありますので、この市場を引き続き攻めます。
──販売管理機能を提供するパッケージも、「プロプラスシリーズ」のラインアップに加えました。
鈴木 販売管理パッケージは5─6年前から企画・開発に着手し、今年4月にリリースしました。まだ導入企業は20社程度ですが、会計業務系パッケージの10倍以上の市場規模があるとみており、将来は会計業務系パッケージの販売本数を上回るレベルまで伸ばしたいと思っています。競合も多数ありますが、会計業務関連パッケージ同様、専門性を追究し、他社と差別化を図ったうえで、機能拡張を進めていきます。
──今年4月、中国に現地法人を設立されました。中国市場にはどういうアプローチをしますか。
鈴木 今年度(2006年3月期)は準備期間として、「プロプラスシリーズ」のローカライズを進め、中国語版を開発します。本格的な営業活動は来年度から始めます。
営業体制は、日本同様に直接営業を中心に展開していく計画です。会計業務の知識・経験に長けた当社の営業担当者とコンサルタントが、中国企業に直接アプローチしていく体制を整えます。
具体的な販売目標は明かせませんが、販売開始後は年率2倍で売り上げを伸ばしていき、現地法人の人員もそれに合わせ、2倍ずつ増やしていく計画です。中国のIT化は急速に進んでおり、企業の情報システムも高度化し、会計システムも今以上に複雑化してきます。日本で認められた高い専門性は、必ず中国でも通用すると感じています。
──中長期的な計画については。
鈴木 中期経営計画を作成している最中で、今年8月までには内容を固めます。具体的な中身はこれからですが、主な骨子は3つです。
まず、「プロプラスシリーズ」の会計業務系パッケージ本数を年率30%増で伸ばしていくこと。第2に、販売管理系パッケージをプロシップの第2の柱となる商品に成長させること。最後は、中国市場へのアプローチです。年率2倍での成長を持続させ、将来は大連市に設けた現地法人が中国株式市場での上場を果たすことができればと思っています。
また、M&Aも含めた資本提携にも積極的に動こうと思います。優秀な開発者を多数保有する企業があれば、M&Aも含め協業していきたいと思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
来年度から本格的に動き出す中国での事業に期待を示す一方、不安も感じている。その1つが“コピー文化”の浸透だ。
中国ではソフトの違法コピーが蔓延しており、「中国に訪問した際、マイクロソフトの『オフィス』のコピーが8元(約110円)で売られていた」という。ソフトメーカーにとっては、ビジネス展開するうえで大きな障害になる。
また、「目に見えないモノには金を払いたくない」という中国人が持つソフトに対する認識の低さも気にしている。
それでもマーケットサイズの大きさから中国市場に参入を決めた。専門性をアピールしていくとともに、中国特有のソフトビジネスの壁にも立ち向かう。
「中国でのビジネスは気を配らなければならない。でも、数十年前の日本のように、急速なスピードで成長している国でのビジネスに大きな期待をかけている」と思い入れは強い。(鈎)
プロフィール
鈴木 勝喜
(すずき かつよし)1941年生まれ、愛知県出身。64年、法政大学法学部卒業。同年、工作機械メーカーのミヤノに入社。76年、日本エム・アイ・エス(現プロシップ)入社。80年、取締役。87年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
プロシップは、会計機能を中心としたパッケージソフト開発・販売事業がメインのソフトメーカー。1969年に設立され、78年には初めての会計業務パッケージ「ASPAC-Ⅰ」をリリースした。94年には、現在の主力商品であるパッケージ「ProPlus(プロプラス)シリーズ」を発売。
「プロプラスシリーズ」では、給与、減損会計、固定資産およびリース資産管理、販売管理などの基幹業務システムを構築するためのカテゴリーをカバーする。特に、固定資産管理、リース資産管理など、会計業務のなかでも専門性の高い分野に強みを持つ。固定資産やリース資産管理などの知識に長けた営業担当者やコンサルタントを育成・保有することに力を入れ、直接販売を中心に大企業・中堅企業のユーザーを増やしている。これまで約1500社に納入した実績を持つ。
今年4月15日には、中国・大連市に全額出資の現地法人を設立。来年度(07年3月期)から「プロプラスシリーズ」の中国語版を販売する。
昨年度(05年3月期)の業績は、売上高が前年度比12.7%増の22億8900万円、営業利益が同51.1%増の7億2300万円、経常利益が同49.0%増の7億2100万円、当期純利益が同0.7%減の3億9900万円。「プロプラスシリーズ」の販売本数の増加に加え、付随する受託ソフト開発事業、保守サービスも伸びた。従業員は148人。今年3月1日、ジャスダック証券取引所に上場した。