神奈川県に拠点を置く中堅システムインテグレータ(SI)、アイネットの存在感が増している。創業時からの強みである石油業向けビジネスでは、ITアウトソーシングサービスで利益率を向上。さらに、新たな注力市場として消費者金融業にも目を向け始め、実績を上げつつある。陣頭で指揮を執る池田典義社長は、アイネットの成長戦略を推し進める一方で、神奈川県情報サービス産業協会(KIA)会長も務め、神奈川県のIT産業の底上げにも精力的に動いている。
セルフタイプのガソリンスタンド向けに、クレジットカード決済システムを展開
──石油販売業向けの情報システム構築およびアウトソーシングサービスでは、長年にわたり市場を席巻していますね。
池田 創業時から石油販売業向けの情報処理サービスとシステム構築を手がけてきた実績、ノウハウが認められていることが大きいでしょう。創業時は、ガソリンスタンドから受注する案件が100%で元売り企業からの受注はゼロでしたが、今は元売り企業からの受注案件が全体の30%を占めています。元売り企業から信頼を勝ち取ることができました。このことは、石油業界でアイネットの地位が確立できた証だと思います。
また、システム構築やソフト開発だけでなく、システム運用までも手がける体制を整えていることが大きな強みです。石油の元売り会社10社のうち6社からシステム運用サービスを請け負っていますし、ガソリンスタンドでは全国にある全ガソリンスタンド約4万5000店舗のうち、5000店舗以上に運用サービスを提供しています。
──石油業界でも厳しい市場環境からリストラが進み、ニーズに変化が起きていると思いますが。
池田 1つの大きな流れは、セルフサービスでのガソリンスタンドが増えていることです。アイネットにとって追い風なのは、セルフサービスのガソリンスタンドが増えてきたことで、クレジットカードシステムの処理サービス需要が非常に増えていることです。
セルフサービスによるガソリンスタンドの支払い方法は、クレジットカード決済が主流で、全体の60─70%を占めています。セルフサービスのガソリンスタンドは当然販売員が少ないですから、なるべく店舗に現金を保有しておきたくないわけです。ガソリンスタンド側もクレジットカードでの支払いを推進するため、クレジットカードで支払った場合は割引するなど、さまざまなサービスを提供しているのです。セルフサービスでないガソリンスタントの場合、クレジットカードでの支払いは全体の15%程度にとどまっており、カード決済の比率が高いのがセルフサービススタンドの特徴ともいえます。
ガソリンスタンドとしては、約35種類もあるクレジットカードの決済システムを自社で構築するのは当然費用もかかるので、ITベンダーに任せたいと思っており、ニーズが生まれているわけです。アイネットは、ガソリンスタンド数でこの決済システムサービスを8000か所に提供しています。
セルフサービスでのガソリンスタンドは、海外ではおよそ90%を占めているといわれています。一方で、日本は徐々に増えてきたとはいえ、まだまだ少なく、全体の10%にも至っていません。今後も徐々にだとは思いますが、セルフサービス化は進んでいき、全体の40%程度にはなると思います。ですので、今後もこのクレジットカードシステムのアウトソーシングサービスは期待を持っています。
──消費者金融業向けビジネスにも力が入っていますね。
池田 昨年11月、ソフトバンク系消費者金融サービス会社のイコール・クレジットから、ソフト開発・システム構築および運用アウトソーシングを一括受託しました。イコール・クレジットは、実際の店舗を持たず、インターネットだけでビジネスを展開する企業です。情報システムの重要度がかなり高い企業から、システム構築から運用までを請け負うことができたのは大きな意味があります。石油業向けで培ったノウハウが、消費者金融業にも受け入れられた証拠ですから。今年4月には、全国に220店舗を持つアエルからもシステム構築と運用アウトソーシングを請け負いました。日本国内だけでなく、海外市場にもアプローチしており、消費者金融業向けの総合融資パッケージソフト「ローンレンジャー」は、台湾で3本出荷した実績があります。
今後、一般消費者はお金を貯金するのではなく、運用して増やそうとするニーズが生まれてくるでしょう。そのため、今は消費者金融サービスを提供していない企業も、消費者金融サービス事業に参入してくることが予想できます。市場は必ず盛り上がり、システム構築からアウトソーシングサービスまで請け負えるアイネットの強みを生かせるので、今後も力を入れていきます。
消費者金融業向けビジネスは、昨年度(05年3月期)16億2000万円でしたが、3年後には20億円規模のビジネスに成長させます。
商談会開催や開発案件情報を提供、若手経営者の勉強会、社会貢献活動も
──神奈川県情報サービス産業協会(KIA)の会長として、神奈川県内の情報産業活性化にも積極的に取り組んでいますね。今年度は特にどんな施策に力を入れていますか。
池田 昨年度までは、会員企業同士の情報交換や親睦を深めてもらう場を設けるといった取り組みが主だったのですが、今年度は会員企業のビジネスに直結する施策に力を入れています。
日本情報技術取引所(JIET)の協力を得て、JIETが開催している商談会を、KIAとしても会員企業に向けて開いています。また、ソフト開発の案件をメールで会員企業に紹介するメーリングリストを作成し、案件情報を迅速に提供する体制も整えました。
また、会員企業がオフショア開発を容易に活用できるようにもしたいと思っています。
顧客からの低価格化要求は今後も強まるでしょう。ソフト開発会社は、中国やインドなどの安価な技術者を活用して、開発コストを削減しなければ利益を出すことがもっと難しくなってきます。アイネットは、昨年5月に中国企業との合弁会社「上海啓明聯和計算機技術有限公司」を上海市に設置しており、オフショア開発の実績があります。10月には横浜市に日本支社を設け、連携を取りやすくしました。この日本支社をKIAの会員に入れ、会員企業が合弁会社の技術者を活用できるようなパイプ作りを進めていくつもりです。
また、若手経営者が経営の勉強を行うための場や、新技術に対して会員企業が意見を交換し合う会合を開いたりもしています。IT産業全体のステータスを上げる意味で、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいますよ。小・中学生から自分の描く将来の夢をテーマにした絵を募集し、優秀な作品を表彰する「夢絵コンテスト」というイベントも開催しています。「社会貢献活動をしたいと思っているけれども、1社では無理」という会員企業もいたので、「だったらKIAとしてみんなでやっていこう」という声から生まれました。この夢絵コンテストは昨年4776点もの募集があるなど、好評を得ていますよ。
このような施策が奏功しているおかげで会員企業も順調に増えており、現在は230社が集まっています。今年度には250社まで増やし、将来は神奈川県内のソフトハウスの70%をカバーする350社まで増やしたいと思ってます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
力を入れている消費者金融業向け事業には大きな期待をかけている。
「今後は一般消費者が貯めているお金を投資に回し、お金でお金を稼ぐという、本格的な投資の時代がやってくる」と予測する。「日本人の貯蓄志向は次第に薄らいでいく」と、消費者金融サービス市場が今後拡大するとの読みに、絶対の自信を示す。
石油販売業向けの情報処理サービスでスタートしたアイネットだが、組み込みソフト開発事業、パッケージソフト販売事業などへ事業領域を広げてきた。
数々の事業が育ち、「“石油業界に強いアイネット”という冠を脱いでも良い時期にきたのではないか」と、池田社長の表情も明るい。
重点ビジネスユニットに位置付ける消費者金融業向けビジネスの成長力に、冠が外れるかどうかがかかっている。(鈎)
プロフィール
池田 典義
(いけだ のりよし)1940年生まれ、栃木県出身。63年、埼玉大学文理学部卒業。同年4月、モービル石油入社。71年4月、フジコンサルト(現アイネット)を設立、代表取締役社長に就任。03年4月からは、社団法人神奈川県情報サービス産業協会(KIA)の会長も務める。神奈川県内のソフト開発企業やITサービス企業のビジネス促進活動などにも積極的に取り組んでいる。
会社紹介
アイネットは、1971年に設立された中堅システムインテグレータ(SI)。石油精製販売会社向けの情報システム構築およびITサービスに強みを持つ。最近では、消費者金融業向けのシステム構築やITサービス、電子機器への組み込みソフト開発事業などにも力を入れている。
消費者金融業向けITサービスでは昨年11月、ソフトバンク系個人向け金融サービス会社、イコール・クレジットの情報システム構築と運用アウトソーシングを受託した。ソフト開発事業では、日本国内だけでなく中国市場にも進出。顧客情報管理パッケージソフト「顧客工房」の販売を今年度(06年3月期)から始めている。
昨年度(05年3月期)の連結業績は、売上高が前年度比0.6%増の253億300万円、営業利益が同53.6%増の12億6900万円、経常利益が同60.8%増の11億9500万円、当期純利益が同140.9%増の6億円。
売上高はほぼ横ばいだったものの、ソフト開発事業の元請け契約の増加や、ITアウトソーシングサービスなどのストックビジネスが伸びたことで、利益率が大幅に向上した。今年度は、売上高で前年度比7.3%増の271億5000万円、当期純利益で同18.2%増の7億1000万円を見込んでいる。
97年、東京証券取引所第2部に上場。従業員は約1000人。連結子会社は、パッケージソフト開発・販売のプロトン、ソフト開発事業のソフトウェア、3次元ソフト開発のスリーディーの3社がある。