ミラクル・リナックスが、中国と韓国のLinuxディストリビュータとともに「Asianux(アジアナックス)」の最新バージョンを完成させた。市場を席巻する欧米のLinuxディストリビュータに対抗するために、佐藤武社長はなぜアジア地域に目を着け、アジア企業との協業の道を選んだのか。Linuxに対する期待とニーズが高まるなか、ミラクル・リナックスが2社との協業関係を武器に存在感を示し始めた。
最新カーネルで信頼性や可用性が向上 より広範なシステムで利用可能に
──8月下旬にミラクル・リナックス、中国レッドフラッグ・ソフトウェア、韓国ハーンソフトの日中韓3社で共同開発したLinux「Asianux(アジアナックス)」の最新版「アジアナックス2・0」を発表しました。旧バージョンに比べ、ユーザーはどのようなメリットを受けられますか。
佐藤 最新のカーネルである2.6を実装したことで、信頼性、可用性、保守性が旧バージョンの「アジアナックス1.0」に比べ、はるかに向上しました。従来よりも、ミッションクリティカルでハイエンドな分野での利用に耐えうる製品となり、顧客はこれまで以上に広範なシステムで利用できるようになったと思います。
──日中韓のITベンダーが国の枠を超えて集まり、共同開発する動きは多くありません。なぜ、このような企業連合体を組んだのですか。
佐藤 アジアの標準Linuxを作りたいという思いからですが、発端は「1社だけでは生き残れない」という危機感からでした。レッドフラッグに協業を打診した約2年前、ミラクル・リナックスはビジネスを継続するうえで、大きな問題を抱えていることを強く感じていました。
サーバー用Linux市場でビジネス展開するためには、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)とIHV(独立系ハードウェアベンダー)の支持を受けないと成り立ちません。いかにたくさんのハード上で動作するか、いかにたくさんのアプリケーションが自分たちのOS上で走るかが大きな要素になります。動作が保証されているハードとソフトの数が少なければ、顧客からは相手にしてもらえないですから。
しかし、ミラクル・リナックスは、日本のローカルなディストリビュータの1つとしてビジネスをしていたので、ISV、IHVの動作保証を受けることが難しく、特にグローバルにビジネスを手がける大手ISV、IHVに対応してもらうことが極めて困難でした。当社の主要出資会社である日本オラクルの親会社、米オラクルからでさえもミラクル・リナックスに対応してもらうことが難しかったのです。
ISV、IHVにとっては、対応するOSの数が多いほど、手間もコストもかかりますから、なるべく対応するOSは少なくしたい。顧客から要望のないLinux、力のないディストリビュータには当然目を向けないわけです。こうした状況から、このままではミラクル・リナックスを成長させることはできないと限界を感じ、「生き残っていけない」とさえ思いました。
そこで、アジアに活路を見出したのです。日本だけでなくアジア地域で広く受け入れられるLinuxを作れば、多くのISV、IHVから動作保証をしてもらえると思ったのです。そのためには中国や韓国などアジア各国で実績のあるディストリビュータと組むことが最適だと判断しました。
約2年前に中国でナンバーワンのLinuxディストリビュータであり、中国政府も支援しているレッドフラッグとの協業をスタートし、昨年6月にはバージョン1.0をリリースしました。10月には韓国のハーンソフトも仲間に入りました。
今ではたくさんのISV、IHVから支持を受け、多くのグローバル展開するISVからも動作保証を受けています。あの時、レッドフラッグに話を持ち込んでいなかったら、今のミラクル・リナックスは極めて危ない状況だったと思いますよ。実際、米オラクルは、対応するLinuxはレッドハットとノベル、そしてアジアナックスだけだとはっきり言っています。
──アジア地域を選択した理由は。
佐藤 レッドフラッグに初めてコンタクトを取った約2年前、サーバー用Linuxのマーケットは、米レッドハットと独スーゼリナックス(現・米ノベル)の2社が市場を席巻していました。「このままでは米欧企業にアジア地域の市場も染められてしまう」。そう感じていました。
20世紀は米欧諸国がOSだけでなくIT技術全般をリードしてきましたよね。しかし、21世紀はそれじゃだめだ。21世紀はアジアから先進技術をどんどん発信して、アジア諸国が先導役になってIT産業を引っ張っていかなければならないと感じたわけです。
ISV向けパートナープログラムを刷新、迅速で質の高いサポートを強みに
──他のアジアの国のLinuxディストリビュータと協業する可能性はありますか。
佐藤 十分にあります。すでにアプローチもしており、参加したいという要望もいくつかあります。次期バージョンを発表する時期には、何社か加わっているでしょう。
──3社の共同開発OSであり、3か国で販売されていることで、ISVとIHVにとってはどのような利点がありますか。
佐藤 手間をかけずに3国にアプローチできることが大きなメリットです。3社はそれぞれの国でアジアナックスを自社のブランドで販売していますが、元は当然一緒です。ですから、ミラクルでもレッドフラッグでもハーンソフトでも、1社から動作保証を受ければ、自然と3社の各ブランドに対応できるわけです。3国の市場にアプローチする場合、各国のローカルディストリビュータにアプローチして、いちいち何度も動作保証を受けなくて良いのです。
また、日本のISV、IHVが韓国や中国の市場に参入を計画している場合は、私たちの協業関係を活用して、地元のパートナーを紹介するなど、販売面での支援も可能になります。
──動作保証されているソフトを増やすために、ISV向けパートナープログラム「with MIRACLE(ウィズミラクル)」を7月下旬に刷新しました。立ち上がりは順調ですか。
佐藤 好調ですよ。まだ、発表してから2か月経ちませんが、目標200社に対し、すでに50─60社が集まっています。主要なISVがどんどん入ってくれていますし、目標数値はクリアできると感じています。技術支援、販売支援の両面で以前の内容より大幅に厚みを持たせましたので、たくさんのISVから評価されていると自負しています。
──今後力を入れなければならない分野は。
佐藤 サポートはとても重要になります。Linuxはオープンソースソフトウェア(OSS)だけに、サポートに不安を抱いている顧客が多く、それが普及の足かせになっていると感じています。ウィンドウズ以上のサポートを提供することが必要となります。もしOS上で問題があれば、迅速にセキュリティパッチを提供し、問題の詳細なレポートを提出するなど、しっかりとしたサポート体制を築くことが大切だと考えています。
「サービスパックが出るまで待って下さい」という考え方は、Linuxでは通用しないと思っていますので。ミラクルは日本にカーネルのディベロッパーがいるわけで、欧米ディストリビュータの日本法人とは対応の速さが違う。迅速で質の高いサポート体制を大きな強みにしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日中韓のディストリビュータが「アジアナックス」を生み出すまでには、「大変な時間がかかり、開発がなかなか進まず議論の場を数多く設けて乗り越えた」という。
決めたことをいきなり変える中国人の特徴や、日本人よりもエネルギッシュな韓国人の考え方に驚かされることも当初は多かったとか。
協業関係が始まって約2年。友好な関係を継続的に築く秘訣を聞くと、「酒」だと佐藤社長は笑う。
「一緒にお酒を飲むことで、信頼関係が生まれる機会が何度もあった。友好関係を築くために、少なくともお酒を飲む機会が貢献したことは事実かな。中国人と韓国人は酒をものすごく飲みますから、付き合うのは大変ですけどね」。
試行錯誤を繰り返しながら誕生した「アジアナックス」。標準Linuxの確立に向け、強固な協業関係を武器にミラクル・リナックスがさらに加速する。(鈎)
プロフィール
佐藤 武
(さとう たけし)1951年3月5日生まれ、千葉県出身。74年3月、立教大学法学部法学科卒業。同年4月、日本ユニバック総合研究所入社。80年1月、CSK入社。81年4月、エリック入社、営業部部長。86年9月、システムネットワーク入社、常務取締役。94年4月、日本オラクル入社、PC事業部営業開発担当部長。95年6月、クライアントサーバー事業部マーケティング部長。96年6月、マーケティング本部ビジネスシステム部兼企画推進部統括マネージャー。97年6月、ビジネスパートナー事業本部営業開発部統括マネージャー。98年6月、Linux&NT事業推進部統括マネージャー。99年6月、研修本部ヴァイスプレジデント。00年8月、執行役員研修本部長。01年1月、上席執行役員エデュケーションサービス本部長。01年8月、常務執行役員エデュケーションサービス本部長。02年6月、常務執行役員CEOオフィス室長。03年6月1日、ミラクル・リナックスに移り、代表取締役社長に就任。
会社紹介
ミラクル・リナックスは、2000年6月の設立。独自ブランドのサーバー用Linux「ミラクル・リナックス」を商品化。「ミラクル・リナックス」のライセンス販売と、導入コンサルティングや保守サポートなどのサービスビジネスを事業の中心に据える。日本オラクルが株式の58.5%を所有するほか、NEC、オービックビジネスコンサルタント(OBC)、大塚商会などの大手ITベンダーも出資する。
04年1月に、中国のLinuxディストリビュータであるレッドフラッグ・ソフトウェアと提携してサーバー用Linux「Asianux(アジアナックス)」を共同開発することで合意し、開発に着手。その後、同年10月に韓国のハーンソフトが参画し、日中韓による共同開発体制が整った。今年8月下旬に最新のバージョン2.0を発表した。「アジアナックス」は3社がそれぞれのブランド名で販売することになっており、ミラクル・リナックスは「MIRACLE LINUX V4.0 - Asianux Inside」として、日本市場で販売する。
昨年度(05年5月期)の業績は、売上高が前年度比約30%増、経常利益は同約60%増と増収増益を達成。売上高、利益ともに過去最高を記録した。ライセンス販売が伸びるとともに、導入支援などのコンサルティグサービスが同約140%増となるなど、サービスビジネスが貢献した。