東芝情報機器(TIE)が新しいビジネススタイルの構築に向け動き出した。東芝グループが進める国内画像情報通信事業の構造改革を受け、TIEは複合プリンタ(MFP)の販売を担当する社内カンパニー「ドキュメントカンパニー社」を東芝テックに移管。今後は、パソコンを中心とした“ビジネスソリューション”の提供に力を注ぐ。主力事業の1つであるプリンタ販売を切り離す形となったが、6月24日付でトップに就任した小川暢久社長は「パソコンを中心としたソリューションの提案で利益を確保できる」と、揺るぎない自信をみせる。
プリンタ事業を東芝テック子会社へ移管 情報交換など新会社との連携は密に
──今年7月にプリンタの販売を中心とした社内カンパニー「ドキュメントソリューション社」の東芝テック子会社への移管を発表するなど、6月24日の社長就任以来、激動の3か月でしたね。
小川 この3か月間は販売パートナーや顧客企業などへの挨拶回りに時間を費やしていました。何しろ、社長就任からわずか1か月でドキュメントソリューション社を切り離すことが決定しましたからね。各地方を回り、社長就任の挨拶と同時に当社の方向性をパートナーや顧客企業にきちんと説明することが先決だと考えました。
なかでも、パートナーに伝えなければならないのは、10月1日に設立された東芝テックの100%出資子会社「東芝テックビジネスソリューション(TTBS)」が、当社のパートナーで構成される「TIE会」の機能を継承するという点です。TIE会の会員は、8割程度が複合プリンタ(MFP)を販売する企業で占めています。これらのパートナーは、東芝テックビジネスソリューションのパートナーとなり、システムインテグレータ(SI)を中心とした残り約2割が当社のパートナーとして存続してもらう形になります。
TIE会は、とにかく販売台数を達成してもらうという“ボリューム重視”のパートナー制度でしたので、東芝グループが画像情報通信機器市場でのシェアを拡大するという点で、TIE会を新会社に引き継いでもらうことが最も良い方法だと判断しました。東芝テックビジネスソリューションでは、11月をめどにパートナープログラムを立ち上げる予定だと聞いています。
──パートナーからは、どのような声があがってますか。
小川 製販一体にした方が画像情報通信機器を拡販するのに最適と東芝グループ全体で判断したので、十分に理解してもらえたようです。
──東芝テックビジネスソリューションとは連携していくのですか。
小川 もちろんです。TIE会員の約8割はプリンタの販売が中心ですが、プリンタを中心としたソリューションを提供する際に、パソコンも販売するケースもあります。そのため、パソコンの拡販という意味では、東芝テックビジネスソリューションとの連携は欠かせないと考えています。
東芝テックビジネスソリューションは東芝テックの子会社ですが、当社から約500人が東芝テックビジネスソリューションに出向します。しかも、新会社のオフィスは、当社と同じビルに置かれることになります。情報交換を行うなど密な連携が取れますから、お互いの利益に結びつくアライアンスが実現できるのではないかとみています。
──TIEのパートナー制度については。
小川 当社のパートナー制度については検討課題になっており、年内をめどに固める予定です。というのも、当社のパートナーとして残るTIE会の約2割の企業はソリューション中心のビジネスをしています。そのため、台数を多く売れば良いといった制度では成り立ちません。このため、パートナー制度という枠で固めるよりも、各システム案件でプロジェクトチームをつくったり、協業するなどといった方向も検討しています。パートナー制度を創設するのであれば、各パートナーにメリットをもたらすプログラムにするよう、慎重に策定していきます。
──パートナー数は増やしていくのですか。
小川 当面は増やさずに既存パートナーとの関係を深めることに専念します。しかし、既存パートナーだけで当社が提案するソリューションを実現できなければ、パートナー数の増加も視野に入れます。
製品とシステム提案をアピール 売上高は年率2ケタ成長を狙う
──主力事業の1つであるプリンタ事業を切り離したわけですが、パソコン販売とソリューション提供で業績を伸ばしていけるのですか。
小川 今回のプリンタ事業移管は、画像情報通信機器を拡販することが前提にありますが、当社としてはパソコンおよびシステムソリューションの提供に集中できることになります。当社がターゲットにしている中堅企業では、基幹業務のオープン化やセキュリティを切り口としたニーズが高まっています。そういった点では、当社が顧客ニーズに合ったソリューションをいかに提案できるかで、パートナーとさらに強い関係を築けます。ソリューション案件が増えれば、システムの構築に加え、サービスやサポートの提供など利益率が高いビジネスが展開できますので、利益を増やせると確信しています。
──具体的な拡大策は。
小川 プロダクトとソリューションの両面でビジネスを拡大していきます。
まず、プロダクト面については顧客対象となる企業に東芝製のパソコンを理解してもらうことを徹底します。東芝製パソコンには、電導効率をアップすることで低消費電力を可能にした「低損失基板」や、ビア同士を垂直に重ねて配置することで多層配線基盤の形成を可能にした「スタックビア構造」を採用するなど、他社にはない技術を多く搭載しています。こうした差別化技術を顧客に分かりやすく丁寧に説明していくことがパソコンの購入につながります。機能性を訴えて顧客に良い製品だと認識してもらうのは、営業を行う上で基本的なことですが、差別化技術をアピールするには基本スタンスを改めて知ってもらうことが重要だといえます。
ソリューション面では、当社が得意とするマーケットを分類し、そのマーケットでのシェアを伸ばすことに力を注いでいきます。マーケットに合ったソリューションを当社が提案し、パートナーであるシステムインテグレータがアプリケーションソフトの開発を行う。こうしたサイクルを早急に構築することを目指します。例を挙げれば、当社は文教分野を得意としています。そのマーケットでシェアを伸ばすためにパートナーとアライアンスを組むことを考えています。
このほか、ウェブ販売との連動でいかにパソコンの拡販に結びつけるかも模索しています。eビジネス担当者には、ウェブを活用した新しいサービスの創出など、ウェブを絡めることで実現できるソリューションを積極的に提案するように指示しています。現段階では、どのようなサービスを提供していくかは申し上げられませんが、年内をめどに新しいサービスを構築できる可能性が高く、その際には新しい組織を設置することを計画しています。
──パソコン市場でのシェアや業績の成長率については。
小川 パソコンについては、現段階で15%未満で推移しているマーケットシェアを、できるだけ早い段階で20%まで引き上げます。売上高については、プリンタ事業を切り離したため減少は避けられませんが、パソコンおよびソリューションビジネスは最低でも年率2ケタ成長を目指します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
東芝時代に国内パソコンビジネスの責任者を経験。東芝情報機器でも、社内カンパニーのPCソリューション社社長として、東芝グループの法人向けパソコンビジネスの中枢に立って手腕を発揮してきた。パソコン拡販のプロフェッショナルが、東芝情報機器の社長になったわけだ。
「法人向けパソコンビジネスは、製品そのものを売るというよりも、業務の効率化や情報漏えい防止などを切り口に販売する“ソリューションありき”のビジネスになった」とみる。その一方で、「当社はこれまで、プリンタを中心に旧態依然としたビジネス形態だった」と認める。こうした反省のもと、プリンタ事業を切り離したのにともない、パートナー制度「TIE会」をいったんリセット、新しいビジネススタイルの構築を決断した。
パソコン中心のソリューションビジネスを確立できるかは、小川社長の舵取りにかかっている。(郁)
プロフィール
小川 暢久
(おがわ のぶひさ)1945年11月生まれ、神奈川県出身。東京大学経済学部卒業後、69年7月、東京芝浦電気(現東芝)入社。情報処理システム機器事業本部で電算機の営業、情報システム事業本部でオフィスコンピュータ(オフコン)の販売推進、流通・金融システム事業部で流通・金融システムの企画などに携わり、93年10月からパソコン事業部グループ(国内事業企画担当)担当部長としてパソコンビジネスに携わる。98年4月、北関東支社長に就任。03年10月、東芝情報機器常務取締役に就任。社内カンパニーのPCソリューション社の社長を経て、05年6月に代表取締役社長に就任。PCソリューション社の社長も兼務する。
会社紹介
1954年9月、川崎航空機工業と磐城セメントとの共同出資により、「川崎タイプライタ」の社名で創立。58年5月に東京芝浦電気(現東芝)が全株式を取得して東芝傘下となり、東芝製プリンタの販売を中心としたビジネスを手がけるようになる。84年10月、東芝ビジネスコンピュータを合併したのにともない、社名を「東芝情報機器」に変更した。
03年10月、東芝がパソコン事業の立て直しを図るため、国内直販部門を東芝情報機器に統合。国内における法人向け東芝製パソコン販売の中核会社となる。これを受け、社内カンパニー制を採用。パソコンを販売する「PCソリューション社」、プリンタ販売が中心の「ドキュメントソリューション社」、システム事業の「システムソリューション社」の3カンパニーを設けた。
10月1日付で、プリンタ事業を画像情報通信機器の開発・製造を手がける東芝テックに移管。これにより、東芝製パソコンおよび周辺機器の販売が主力ビジネスとなった。6月24日付で社長に就任した小川暢久氏は、PCソリューション社の社長も兼務している。