アルゴ21のトップに、野村総合研究所(NRI)で要職を務めてきた太田清史氏が就任して4か月が経った。プライムコントラクター(元請け企業)としてのビジネスを他社が追い求めるなか、太田社長は「エンドユーザーとの直接取り引きには固執しない」と言い切る。それよりも、元請け企業にとってアルゴ21が、「下請け先としてではなく、一緒にプロジェクトを動かすパートナー」となることを重視。アルゴ21にしかない確固たる“強み”の創出に力を注ぐ。太田社長の理想とするITベンダーとの協業体制、そしてアルゴ21の強みとは何か。
「プライムコントラクターにはこだわらない」元請けをパートナーと位置付け「一緒にやる」
──日本の情報システム構築とソフト開発産業は、何重にもなる下請け構造が一般的です。アルゴ21も大手ITベンダー数社からの下請けビジネスが大きな割合を占めています。下請け企業の多くは、エンドユーザーとの直接取り引きを増やそうとしていますが。
太田 私は、顧客がエンドユーザーであろうとITベンダーであろうと、関係ないと思っています。
ITベンダーは一般的に、どんな案件でも“自前主義”で情報システム構築の上流工程から下流まですべて面倒見ようとしていますね。私は、それは間違っていると思います。
通信ネットワークとコンピュータが融合され、技術もすさまじい勢いで相変わらず進歩しています。多様化・複雑化しているシステム構築事業のなかで、すべての領域で先進的な技術を持ち続け、自社のリソースだけで顧客の全要望を満たすには無理があります。小規模なプロジェクトなら可能かもしれませんが、大規模案件ではアルゴ21でも無理ですし、野村総合研究所(NRI)などの大手ITベンダーだって1社で完結することは不可能なんです。
複雑化・大規模化してきたシステム構築やソフト開発事業で、自前主義に固執し、どの分野でも並のレベルで事業展開するのではなく、「ここで勝負する」と決めた分野にリソースを集中し、確固たる強みを持つ必要があると思います。そして、それぞれの分野で強みを持ったITべンダーが集まり、各社の強みを組み合わせるための協業体制を構築し、1つのプロジェクトを動かすのが最良だと考えます。
アルゴ21もエンドユーザーから直接受注する仕事よりも、NRIや電通国際情報サービス(iSiD)などのITベンダーからの仕事の方がボリュームは大きい。しかし、この比率を問題視してはいません。顧客先がどこかを気にするのではなく、複雑なシステム構築事業のなかで分野を選択し、「このカテゴリーであれば完璧に仕事ができます」と、自信を持って言える強みを持つことの方が重要だからです。だから、プライムコントラクター(元請け企業)にはこだわりません。大事なことは、どこにも負けない領域を作ることです。
──下請けでも構わないと。
太田 「下請け」ではなく、元請けのITベンダーをパートナーと位置付け「一緒にやる」ということです。
たとえば、1つのシステム構築案件があった場合、A社が元請けとしてプロジェクト管理を担当し、B社はインフラとアプリケーションを担当。C社は運用・保守を担当するというように、それぞれに強みを持った企業にプロジェクトを分担して任せる構造が好ましいと考えます。
そのなかで、真っ当な利益配分をするのです。元請け企業は、システム構築にかかるコストに自社の取り分と下請け先への外注費をプラスして、エンドユーザーに請求しますよね。今の下請け構造では、元請け企業が一番の大きな利益を得て、下にいくほど利益は徐々に減っていく。これではダメです。この構造は完全に変える必要がある。
担当したプロジェクトに合わせ、元請け企業から仕事に見合ったお金をもらえるようにするのが当然ではないでしょうか。私が言う強み、つまりアルゴ21にしかできない部分や、完璧に仕事をしてくれるという信頼感を、元請け企業に与えることができればこの構造は必ず作れると感じています。今はNRIなど数社のITベンダーと友好な関係を築けていますので、10社くらいのパートナーとこのような関係を今後築ければ良いと思っています。
組み込みソフトは数兆円規模の市場に、オフショア開発やM&Aで取り組む
──アルゴ21の勝負する領域とは。
太田 それはまだ決められません。私個人としての希望はすでにありますが、もう少し考える時間が必要です。3─5年後の姿ではなく、10年後のアルゴ21を見越した経営戦略になりますから、相当緻密に練らなければなりません。アルゴ21の強みとIT産業全体の市場環境を的確に把握したうえで、今後の成長分野は何かを考え、今年度(2006年3月期)末までには目指す方向を決断したいと思います。
アルゴ21は、1000人程度の会社で決して規模は大きくありません。ですが、今でも強みをしっかりと持っている。自社パッケージソフトや組み込みソフトは代表例で、いち早く取り組んできた先見性もある。それ以外にも、アルゴ21のDNAと呼べる事業がいくつもあります。既存の資産をじっくり見極めながら、中長期的な成長戦略を決めていきたいと思います。
──人材不足が慢性的に叫ばれるなか、人材育成も重要になるのでは。
太田 優秀な人材の確保は、これまでは新卒者を採用し、5─10年かけて教育して一人前に育てるのが基本的な考え方でした。しかし、この急速に変化するIT産業のなかでは、必ずしもそのやり方が得策ではないと感じています。今の社員の育成も重要ですが、その一方で、早期に優秀な人材を確保するには、M&A(企業の合併・買収)が1つの戦略となります。情報サービス産業が成熟期を迎えたなか、成長戦略を描くためには、M&Aは必須の考え方となるでしょう。
──組み込みソフト開発ビジネスは実績もあり、成長も期待できます。長期経営戦略のなかで、どのような位置付けになりますか。
太田 正直に言いますと、私は社長就任前、アルゴ21が組み込みソフト開発を事業化しているとは知りませんでした。ですが、この事業は非常に成長性を感じますし、高い技術がアルゴ21のなかに蓄積されています。
私は、00年にユビキタス社会が5年後に現実になると予測し、ユビキタス関連のセミナーを開催したり、書籍を発行するなどの活動をNRI時代に行っていたのですが、5年経った今、やはり現実になり、これからはもっと加速します。そのユビキタス社会を支える技術が組み込みソフトです。注目を集めている組み込みソフトですが、今はまだ始まったばかりで、ハードも含めると今後、数兆円規模のマーケットになると確信しています。
アルゴ21としては、このビジネスを重点事業に挙げ、開発体制を強化していきます。社内のリソースだけでなく、今年度から始めた中国のIT企業へのオフショア開発体制を強化しますし、また、この領域でM&Aに取り組む可能性も十分考えられます。
ただ、海外に出す場合には細心の注意が必要です。自社の強みとして何を残すかをしっかりと見定めたうえでオフショア開発を使わないと、社内に技術やノウハウ、そして経験が蓄積されません。
中長期的に見て、ここがアルゴ21の強みとする開発分野だと思える領域は絶対に外には出しません。これは組み込みソフト開発だけでなく、他の分野でもいえます。
プロフィール
太田 清史
(おおた きよちか)1943年2月6日生まれ、三重県出身。70年3月、早稲田大学大学院商学研究科修了。同年4月、野村総合研究所(NRI)入社。87年12月、取締役。90年6月、常務取締役。93年6月、専務取締役。97年6月、代表取締役副社長。02年6月、取締役副会長。05年6月23日、アルゴ21代表取締役社長に就任。
会社紹介
アルゴ21は、1984年4月設立のシステムインテグレータ(SI)。03年度(04年3月期)に不採算案件の発生などから最終赤字に転落したが、昨年度(05年3月期)はプロジェクトマネジメントの強化やコスト削減策が奏功し、6億5200万円の営業利益、6億5300万円の最終利益を計上。V字回復を果たした。
売上高の半分以上を占めるシステム開発事業は、デジタル家電向けの組み込みソフト開発が特に好調。人員確保のために中国のITベンダーとのアライアンスを検討中だ。一方、総合サービス事業では、子会社のアルゴインテリジェントサービスが手がける人材派遣事業が伸びている。
従業員は約1000人。連結子会社は、アルゴインテリジェントサービスやERP(統合基幹業務システム)パッケージ「スーパーストリーム」開発・販売のエス・エス・ジェイ(SSJ)など4社。99年5月に東京証券取引所第2部に上場。00年9月に同1部に市場変更した。