「過去2年間は売り上げを追うことをやめていた」と、梶川茂司社長はいう。2003年10月の設立以来、金額の大きいシステム案件でも、利益が確保できなければ手を出さないという方針で利益体質の改善をはかってきた。付加価値こそが、顧客の満足度を生む。こうした姿勢が、短期間での業績の向上に結びついた。「儲からないものは売らない。売り上げを伸ばさなくても利益は確実に伸ばせる」と、利益重視の企業体質を築きつつある。
ようやく実を結んできた、07年度に最終利益率を5%に
──今年6月に前社長からバトンを引き継がれて、真っ先に取り組んだのはどんなことですか。
梶川 顧客満足度でナンバー1になること。これを一貫して言い続けています。ご存じの通り、当社は東芝からIT関連部門を分社化し、東芝ITソリューションの開発部隊と統合して2年前に設立した会社です。発足当時はIT景気の低迷もあり、正直いって立ち上がりは苦しかった。しかし、お客さんと一緒に、新しいソリューションを追求することで、ようやく利益が出るようになりました。ですから、いつも顧客と一緒に新しい価値を追求していく姿勢を大事にしなければならないと思ってます。
──分社化した時は、ちょうどIT不況のど真ん中でしたね。設立当時、一番大きな課題は何でした。
梶川 利益体質が弱かったね。売上拡大指向が強かったので、営業がパソコンばっかり売ってくる。当然、付加価値が少ない。だから、2年間は売り上げを追うのをやめた。付加価値のないものは売るなと。お客さんがどうしてもパソコンを欲しいといえば、東芝情報機器を紹介する。我々はSUN、HP、IBMのサーバーにソリューションを組み込んで売っていくんです。付加価値のあるものだけに特化したことで、利益はずいぶん改善できました。
──業績は上がってきましたか。
梶川 初年度(04年3月期)の、連結売り上げは3200億円で、黒字ではあったが微々たるものでした。今年度上半期は、売り上げが1500億円弱で、営業利益が20億円。うちは官公庁関係に強いので、上期と下期の差が激しい。下期は、さらに伸びると思います。中期的な目標としては、08年3月期に売り上げ3500億円、最終利益ベースで150億円くらいを狙いたい。
──利益率を引き上げるのに必要なことは。
梶川 開発のロスをなくすこと。現段階では、まだかなりのロスがあることは否めない。私は、技術畑の出身で入社以来20年、大型機の開発をやってきました。ハードのロスは、おかしいと思えば一部を直すだけで済む。ところがソフトは、全部やり直さなければならない。ここのロスをなくせば、開発コストは確実に下がる。そのためにも、人材教育をもっと深くやらないといけないと思っています。
──ソリューションビジネスも、なかなか競争は厳しいですね。
梶川 新規顧客を開拓するには、斬新な発想で自分たちにしかできないソリューションを提案することです。うちは新聞業界に強い。5年前、中日新聞社にウィンドウズベースのサーバーで組み版システムを提案して評価された。それがきっかけで、いろんな新聞社が導入してくれるようになった。実は、うちの社員は年齢構成が若いんです。30歳から45歳くらいまでが一番多い。だから若さと勢いで顧客に大胆な発想で提案できる。もちろん、提案した時点で最初から断られる時もあります。しかし、うちと同じ感覚をもった顧客であれば、価値を認めて契約してくれる。そういうお客さんは、既存顧客でなくてもまだまだたくさん眠っている。こうした努力をコツコツと積み重ねることで顧客を増やしていけると考えています。
──自社製の大型サーバーをもっていないことがハンディになりませんか。
梶川 メインフレームなんかもっていると、逆にそこから離れられないでしょう。オフィスプロセッサのTPシリーズは、やめて5年になりますが、その頃の技術は、今でもしっかり生きています。だから、システムにトラブルが起きても、供給メーカー以上に詳しいことがある。そうしたノウハウを生かしてサーバーで斬新な提案をすると、レガシーシステムの周辺部分から切り崩していくことができる。それに官庁も含めて、レガシーをなんとかしなければという風潮がありますね。これまで1社独占だったところも、次第にそうはいかなくなってくる。我々にとっては、絶好の機会ですよ。
高まるニーズに備え、プロジェクトチームを設置
──SOX法の関連で、社内文書データの管理を強化するドキュメントソリューションが注目されていますね。文書管理のノウハウを生かせるチャンスになりますか。
梶川 確かにドキュメント管理に絡んだシステム導入は、広がってくると思いますよ。ただ、今のところはまだ、対象となる企業にとって最適なシステムがどんなものかが見えてこない。顧客の業務の流れをどう変えようと提案すればよいか。ここのワークフローが難しい。需要があるのは確かなのだけれども、これまでのソリューションで果たして十分なのか。それを考えなければなりません。
しかし、ニーズは必ずくる。そのため、今期から内部統制関連のビジネスを手がけるためのプロジェクトチームを設置しました。現段階では、4─5人のワーキンググループで、どのようなソリューションを提供していくかを模索しています。来年度から、本格的に提供できる体制が整います。
──米国ではSOX法でIT需要が急速に高まったらしく、日本でも1兆円程度の市場があるのではないかといわれます。
梶川 どうだろう。アメリカで本当にどの程度のビジネスになったのか、ちょっと疑問も感じますね。IBMが成功したとはいえ、それは彼らが強引に押し込んだからじゃないですか。まぁ、うちは、確実に利益を出すことを念頭に、自分たちのソリューションを考えていきます。
──今年半ばに発表したXMLデータベースは、文書の統合管理を狙ってますね。
梶川 そうなんです。新聞やカルテのデータベースをXML化すると、階段状にデータを整理できて、より低コストで柔軟な統合が可能になる。非定型的な文書を表現し、共有する仕組みとしては、これから本格的に導入が進むと思います。ただ問題は検索に時間がかかった。当社のXMLデータベース「TX1」は、この検索時間を大幅に短縮しました。従来、100万件のXMLデータだとIAサーバーが動かないくらい重かったのを、「TX1」なら1秒以内で検索できる。これをエンジンにして、新聞やカルテなどのシステムのアプリケーションにつなぎ込んでいけば、様々な形式の異なる文書が統合的に管理できるようになる。内部統制やe文書法対応などのビジネスで、他社にないソリューションを展開することができます。
──ところで、この社長室にはミニチュアカーがたくさん並んでますね。
梶川 そう、私の趣味なんですよ。昔のリンカーン、メルセデスから、一番新しいものでは高橋国光が最後にドライブしたスカイラインGTRまで、全部気に入ったものを並べてます。ミニチュアカーを見ていると、今日もひとつ頑張るかという気分になってきますからね。撮影するなら、車も一緒に撮ってもらえるとうれしいな。
眼光紙背 ~取材を終えて~
利益を重視して「薄利多売のパソコンは売らない」ことや、新規顧客を開拓するうえでも「当社の価値を分からない顧客企業には無理には売らない」とはっきりとものをいえる人物。社長の理念は、東芝ソリューションのビジネスに直結する。こうした方針を前面に出せば、失う部分もあるに違いない。業績を伸ばせるのかとの見方も出てくる。しかし、「既存顧客と深く付き合っていく」と、顧客満足度の向上を徹底させて、「顧客が本当に望んでいることを積極的に“価値”として提供することが真のソリューション」と訴える。
社長に就任し、トップの立場から受けた印象は、「売り上げを重視するあまり、ハード売りばかりを行っていたという設立当初のスタイルは、もう残っていない。社員のマインドは確実に変わっている」ということ。社員すべてが1つの方向に進んでいる企業は強い。(郁)
プロフィール
梶川 茂司
(かじかわ しげじ)1951年2月16日、埼玉県出身。73年4月、東芝入社。ハードウェアを中心としたシステム開発などに従事し、03年4月、同社e-ソリューション社のプラットフォーム事業部長に就任。同年10月の東芝ソリューション設立にともない、同社の執行役員に就任。04年6月、同社の取締役執行役員プラットフォームソリューション事業部長を経て、05年6月、社長に就任。現在に至る。
会社紹介
東芝グループのIT事業強化策の一環として、03年10月1日に設立。東芝e-ソリューション社と東芝ITソリューションを統合した。
情報系アプリケーションを中心としたソリューションの提供に力を入れていることに加え、社会インフラや半導体のエンジニアリング、運用・保守サービスのビジネスも手がける。顧客別の売上構成比は、東芝関連で25%、官公庁で25%、法人で50%。05年度上半期(05年9月期)の売上高は約1500億円だった。
法人向けビジネスでは、製造や流通、メデイア・テレコム、金融などを対象に、各分野に合わせたシステムを提供している。情報系アプリケーションビジネスでは、ERP(統合基幹業務)やCRM(顧客情報管理)などを得意とする。
他社との差別化として目立つのはXML技術。XMLデータベースで課題となっていたテラバイト級の大容量データの高速検索技術を独自に開発。XML対応のパッケージ型システムを提供している。「XML分野でトップベンダーになる」(梶川社長)との目標を掲げる。