コールセンターやデータセンターへの通信機器提供でトップレベルの日本アバイアが、企業オフィス向けのビジネスを本格化させた。国内IPビジネスは、PBX(構内交換機)メーカーなどがIP-PBXへのリプレースに躍起になっているが、「まだ市場にサイは投げられていない」と、藤井克美社長は言い切る。国内ニーズに合ったアプリケーション開発や組織再編などに力を入れ、「この1年が勝負」と主導権奪取に意欲を燃やす。
企業内オフィスへの提供を本格化、キラーアプリケーションの開発へ
──今年9月30日付けの社長就任から、約3か月になりますが、日本アバイアにとって、今の課題は何ですか。
藤井 オフィス向けのIPビジネスを拡大することです。当社は、コールセンターやデータセンターなどの分野ではトップレベルのシェアを確保しています。しかし、これらの分野はコスト削減などの理由からIP化が進んでおり、業績を伸ばすうえで大きな成長が望める市場とはいえない。もちろん、シェアを維持する努力は続けますが、新しい柱となる事業にシフトするために、オフィスへのIPビジネスを本格化させる必要があると判断しました。
問題は、オフィス向け市場にどうやって入っていくか。我々は、音声とデータを融合させて提供していくことが望ましいと考えてます。統合ソリューションを構築するうえで、音声とデータの融合がどれほど重要かを企業に訴えていくことが、新規顧客の開拓に向けた大きな活路になると確信しています。
──法人向けIP市場で本格的にビジネスを手がけるうえでの競合相手はどこだと認識していますか。
藤井 はっきり分からない状況です。当社はコンタクトセンターやデータセンターに強いですから、IP電話機市場でみても20%以上のシェアを獲得しています。これは逆に見れば、一般企業のオフィスでIP電話を使用しているケースが、いかに少ないかを物語っています。一方、PBXに関しては大手PBXメーカーが牛耳っている。ちなみに、PBXにおける当社のシェアは5%未満です。これは、IP電話機が企業内オフィスで、ますます伸びる可能性があるということだと思います。
──日本では、IPのインフラ部分となるPBXを構築するメーカーが最終的には有利なのでは。
藤井 それは違います。最後は、音声とデータを融合できるキラーアプリケーションがモノをいいますね。PBXメーカーが音声とデータを融合させたビジネスを手がけているとは言いがたい。十分にチャンスはあります。IP電話の世界は、まだまだ現段階でサイは投げられていない。ゲームを終わらせるような圧倒的に強いベンダーはいないということです。
──オフィスへのIP化についても主導権を取る自信はあると。
藤井 結果的には、そういうことですね(笑)。しかし、ハードウェアだけでは顧客に価値を提供しているとはいえない。アプリケーションの開発に力を入れていくことが、シェアを拡大する要になると判断しています。企業によってキラーアプリケーションは異なるため、現段階ではどれが決め手とは断定できませんが、ビジネスプロセスのなかにコミュニケーションを入れ込むことで社内業務の効率を高めるソリューションのベースは構築できる。そのうえに各顧客ごとに最適のシステムを提供していくことが重要だといえます。しかも、特定のハードウェアに依存しないアプリケーションを開発できれば、IP市場での主導権は握れます。現在、キラーアプリケーションとなりえるソフトウェアをワールドワイドで開発している段階です。
──アライアンスについては。
藤井 積極的に行っていきます。日本は、携帯電話が普及しているだけに、音声通話やデータに関しては先進的な技術があると米国本社が認めています。顧客ニーズに合ったソリューションを提供するため、日本独自の提携も進めていく計画です。販売パートナーについては、現在13社とディーラー契約を結んでいます。こうしたパートナーがいたからこそ、コンタクトセンター分野でトップシェアを確保できたのだと確信しています。
──現在の販売パートナーで十分ですか。
藤井 難しい質問ですね。増やすことを考える必要もあるでしょうが、チャネルが増えればビジネスが拡大できるわけではない。しかも、コンタクトセンター分野で販売してきたノウハウは、オフィス向けビジネスでも十分通用します。むしろ、現状の販売パートナーとの関係を深めていくことが重要だといえます。
チャネルを増やすのであれば、お互いのメリットになることを考えなければならない。パートナーが売りやすい環境を維持するという意味では、当社がコンサルティングやサービスなどを一段と強化して販売支援策を積極的に行っていきます。そのためにも、コンサルティング部門の人員を増やしています。
──売り上げの見通しは。
藤井 日本法人は、売上高が年率20%以上の伸びで、ワールドワイドよりも上を行っています。これを確実に維持していきます。
日本独自の体制を敷く 横断的な組織の設置へ
──他社との差別化を図るうえで、組織変更や社内体制の整備も必要ですか。
藤井 日本法人独自の組織体制を敷くことは必要だと考えています。現段階では、米国本社に直結した組織など、外資系企業にありがちな縦割りの組織構造になっています。そこで、縦割りの組織に横串を入れるような部門を設置する予定です。新しい方向に進むための基盤をつくるためには、多少の無理を行わなければならないと考えています。
──米本社の体制とは全く異なる組織になる可能性もあるのですか。
藤井 IP市場の状況を見て、今後は現状の組織を壊す必要性が出てくる可能性もあるかもしれません。しかし、縦割りには縦割りの利点もありますから、全く異なる組織になるとは考えていません。縦のラインで強く管理されている営業部門や開発部門などを、業界や業種、企業規模など、さまざまな方向から日本市場に合った視点で横断的に串刺しできる組織を編成し、ビジネスが行いやすい環境を整えるということです。まずは、いくつかのプロジェクトチームをつくることから始めて、じっくりと市場やニーズに合った組織を構築していきます。
──じっくりと組織を編成している間に、他社より出遅れるという心配はないんですか。
藤井 それはないでしょう。先ほどもいいましたが、まだ日本ではIP市場が確立しているとはいいがたい。一般企業におけるIP電話の導入率は10%未満といわれています。それは、従来の固定電話に既存の機能をIP化するだけというケースが多いからです。市場でのシェアを伸ばすために、単にIP電話を導入するだけのビジネスモデルを構築しても大きなビジネスは確立できないんです。IP化することによって付加価値を提供できなければ意味がない。日本のIP市場で他社がキラーアプリケーションを出すというようなことがあれば話は別ですが、現段階ではそんな気配はありませんね。そのため、まずは業界や業種ごとのニーズを収集し、IP化によるメリットを訴えていくことが重要になってきます。
日本では、ますますIP化が進行し、ここ2─3年で急激に普及するといえます。その時に慌てないようにしなければなりません。この1年が勝負です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
藤井社長は、三菱商事で通信事業に従事したほか、ネットワーク機器メーカーのノーテルネットワークス副社長、日本アルカテル社長を経験した。通信関連ビジネスのスペシャリストが日本アバイア社長に就任して真っ先に感じたのは、「電話機の開発や販売をはじめ、スタッフ全員からコミュニケーションに関するビジネスが非常に好きだという雰囲気が滲み出ている」ことだそうだ。“好きこそ物の上手なれ”という諺の通り、「非常に能力が高い人材が多い」と評価。「スタッフ一人ひとりが能力を最大限に発揮できる“場”を提供することが重要」と、社内体制の整備を模索しているというわけだ。 社員が活動しやすい環境づくりが、「需要が眠る企業オフィスのIPビジネスを拡大させることにつながる」と言い切る。優秀な人材を一段と育て上げ、IP市場でのシェアを拡大できるかは、藤井社長の舵取りにかかっている。(郁)
プロフィール
藤井 克美
(ふじい かつみ)1952年8月31日、福岡県出身。75年に早稲田大学理工学部電子通信学科卒業後、三菱商事に入社。同社で新通信戦略ユニットマネージャー、通信戦略室長、通信事業ユニットマネジャーを歴任するなど、通信・ネットワーク事業に従事する。00年1月、ノーテルネットワークスに入社し、01年4月に副社長に就任。01年11月、日本アルカテルに入社、社長に就任。05年9月、日本アバイア社長に就任する。
会社紹介
日本アバイアは、米アバイアの100%子会社として00年8月に設立した。米アバイアは、ネットワーク機器メーカーである米ルーセントテクノロジーからスピンアウト。ベル研究所から派生した企業として、同研究所の1600種類にも達する技術がアバイア製品に生かされているという。アバイア研究所では、100以上の特許技術を持っている。
PBXやコールセンターシステムなどの提供を主力ビジネスとしていたが、IP化が進むなかでIP電話や関連ソフトウェア、CRMソフトウェアの開発を加速することを急いでいる。アプリケーションソフトウェアの開発を主軸に置き、IP電話端末で業務効率化を図る“インテリジェント・コミュニケーションズ”をベースとしたシステム提供に力を注いでいる。アプリケーション開発では自社製のハードに加え、他社製品との互換性を追求。同社を中心としたマルチベンダー化の推進で、ワールドワイドのIP市場で確固たる地位を築き上げようとしている。日本でも、IP市場でのシェア拡大に向けた布陣を進めており、今年9月に藤井克美社長体制となった。