電通国際情報サービス(iSiD)の瀧浪壽太郎社長は、「SIerの勝ち組と負け組が今後よりはっきりする」とみる。旧来のSIerのビジネスモデルに強い危機感を抱く。勝ち組となるための条件は「オンリーワンであること」とし、昨年度から今年度にかけグループ企業の再編も含め、強みとする分野への選択と集中を図ってきた。iSiDが目指すオンリーワンとは何か──。
日本市場を狙う外資系SIerの脅威 厳しい淘汰は待ったなし
──瀧浪社長は以前から「SIerの『勝ち組』と『負け組』が鮮明になって、淘汰が進む」と、話しておられましたね。今もその見解は変わりませんか。
瀧浪 変わりません。淘汰は確実に進むと思いますよ。顧客のITスキルや知識は、数年前に比べてはるかに上がっています。SIerに求めるレベルは相当高くなっているんです。中途半端な品質では顧客は評価してくれない。
また、別の要素として、今後海外のSIerが日本市場で存在感を増してくる。これまでもEDSやキャップジェミニなど世界市場で名だたるSIerが日本に進出してきましたが、今は結果が出ていません。ただ、彼らも無能じゃない。日本で成功するにはどうしたらよいかを、しっかりと学習しています。日本のSIerは、日本企業だけでなく、外資系SIerとも競い合わなければならない時が必ずきます。今よりも競争がずっと激しくなる。力のないSIerは淘汰されます。
──勝ち組の条件は。
瀧浪 スペシャリストであることです。さまざまな分野があるIT産業のなかで、この領域なら誰にも負けないというオンリーワンの製品・サービス、技術力を持つことだと思います。
だから、顧客と直接取引する元請け企業は生き残って、下請け企業は衰退していくというわけでは決してない。2次請け、3次請けでも得意領域を持って、元請け企業から「この企業になら安心して任せられる」という信頼を勝ち取ることができれば、生き残っていける。逆に、特徴もなく言われたことだけをただこなすだけのSIerは、消えていくでしょう。
──電通国際情報サービス(iSiD)の“オンリーワン”とは。
瀧浪 いくつかありますが、そのなかでも当社にしかない強みの代表例は2つです。
1つはやはり電通グループのSIerであること。電通という会社には、さまざまなマーケティングのノウハウがぎっしり詰まっています。マーケティング業務を進めるためには、情報システムが不可欠ですよね。当社はそのシステムを開発、運用している実績がある。このノウハウを顧客に横展開できます。電通とのコラボレーションをさらに強めながら、マーケティングプランの策定を推進できる情報システムの提案ができることは、電通グループのSIerであるiSiDにしかない強みです。
そして、もう1つがグローバル対応力。日本の大手企業は、製造業を中心に急速にグローバル化を進めていますよね。海外に多くの生産拠点や販売拠点を持っています。そうなると、日本本社だけの情報システムだけを考えていれば良いわけではない。国が違い、拠点が複数にまたがっていても、その拠点を横串しで支える共通したシステムが必要になってくる。
iSiDは、米国、欧州、アジアを中心に8社の海外拠点を持っており、海外の商習慣や文化にも慣れている。日系企業の海外ビジネスを支える情報システムの構築、運用面でお手伝いができます。
iSiDは、この強みとする分野に経営資源を集中し、オンリーワンに磨きをかけていきます。
本業の儲けを表す営業利益を重視 利益率の高いパッケージに力点をおく
──昨年は、グループ企業の売却を進めたり、一方で新たな資本提携に乗り出すなど、グループ企業の再編を図ってきた。これも強みを伸ばす戦略の一環だと。
瀧浪 そう。強みとする分野にリソースを集中し、相乗効果を出すためには本社だけではダメ。だから、昨年は当社の強みとしていく分野で相乗効果を期待できない企業については売却し、一方でマーケティングや海外展開についてシナジー効果が見込めると感じた企業とは積極的に提携を進めてきたんです。
──海外については、BRICsが有望市場ですね。海外ビジネスでは、BRICsを中心に事業展開する計画ですか。
瀧浪 当面は日系企業相手のビジネスですから、日系企業が進出している地域がターゲットになります。そうなると、今はやはりアジアです。中国にはすでに複数の現地法人を設置しているので、次は、まだ計画はしていないですが、検討項目としてベトナムは視野に入れていこうかなと。
──iSiDは、一昨年度(04年3月期)、昨年度と不採算案件の発生などから業績が低迷しました。とくに利益面では、昨年度最終赤字に転落するなど深刻にみえます。
瀧浪 うーん、確かに03年度、04年度は厳しい環境だった。ご指摘の通り、利益確保に苦しみました。私は、経常利益や純利益よりも本業の儲けを表す営業利益を企業経営で重視しているだけに、反省すべき点はたくさんありました。
過去2年の経験を材料に、たとえ市場環境が悪くても、それに左右されることなく利益をしっかりと出せる企業体質にするための基盤作りとして今年度を位置づけていました。
利益率を引き下げる要因はいくつかありますが、大きな要素は開発案件の不採算化です。これについては、人材教育や開発プロセス見直しのためのツールの準備などの施策を打ってきました。利益を捻出するための体制は今年度で整いました。
──利益率向上に向けて、具体的にはどのようなコンセプトで開発を進めていくのですか。
瀧浪 パッケージソフトを中心としたSIビジネスに集中します。顧客の要望に従って、一から開発をスタートするスクラッチ開発よりも、パッケージを使った開発のほうが利益率は高い。パッケージは他社製、自社製にこだわりませんが、基本的なコンセプトとしては、パッケージソフトを中心に事業展開していくつもりです。
──今持っているパッケージ以外の案件は断るということですか。
瀧浪 そうではありません。案件次第です。スクラッチ開発には良い部分もたくさんあります。たとえば、スクラッチ開発は、顧客と二人三脚になって開発しますから、手間はかかるが、その分顧客の業務ノウハウを身につける良い機会になります。パッケージ中心にビジネスを展開しますが、すべて今のパッケージだけでやろうとは考えていませんよ。
──中期経営計画では、07年度(08年3月期)に売上高850億円を計画しています。ここ2─3年の売り上げの伸び率を考えれば、来年度以降、大幅に売り上げを伸ばしていかねばなりません。
瀧浪 利益を出すための体制は整いました。これからは従来以上に営業力を高めます。売上高をアップするためには、マンパワーが必要になります。来年度以降は、新卒、中途採用を含め継続的に毎年100人以上の人を増やしていこうと思います。今年度までに、しっかりと利益を出すための基盤は作ったので、来年度以降積極的な営業展開で一気に刈り取っていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「IT産業界で、日本発世界一の製品・サービスを作り出したい」──。
海外勢に押されている感が強いこの業界のなかで、世界レベルで存在感を示せるSIerになりたいというのが瀧浪社長の願いである。
日本のSIerには珍しく、海外に10か所弱の海外拠点を持つiSiD。今後はこの拠点を武器に、グローバル展開する企業向けのビジネスをさらに加速させる考えだ。当面は海外進出している日本企業向けのビジネスになるが、将来的には海外企業への展開も視野に入れている。
SIerの淘汰が進むと、これまでのビジネスモデルに並々ならぬ危機感を持ってきた瀧浪社長。この2年、業績が低迷したが、苦しんだ経験を反省材料に業績を伸ばすための体制を作り上げたと自信を示す。苦しんだ時期を乗り越え、来年度以降世界レベルで一気に攻めに転じるつもりだ。(鈎)
プロフィール
瀧浪 壽太郎
(たきなみ じゅたろう)1941年9月28日生まれ、東京都出身。68年3月、国学院大学経済学部卒業。同年4月、日本事務器入社。72年2月、電通入社。タイムシェアリングサービス局に所属。75年12月、電通国際情報サービス設立に伴い同社に出向。営業業務に従事。85年6月、取締役。90年6月、常務取締役。91年7月、同社に転籍。94年6月、専務取締役。98年6月、代表取締役社長。04年6月、代表取締役社長最高執行責任者に就任。業界団体活動にも精力的で、財団法人金融情報システムセンター理事のほか、社団法人情報サービス産業協会常任理事、社団法人テレコムサービス協会副会長なども務めている。
会社紹介
電通国際情報サービス(iSiD)は1975年12月の設立。電通グループのSI事業者として、情報システム開発やソフトウェアパッケージ販売事業をビジネスの柱にする。製造業と金融業、サービス業向けビジネスに強い。営業利益率の向上を図るため、パッケージソフトを軸としたSI事業を開発コンセプトにおく。
一昨年度(2004年3月期)および昨年度は、不採算案件が発生したことなどから業績は低迷。昨年度は最終赤字に転落した。だが、今年度は不採算案件の減少などにより赤字幅が縮小。今年度中間期の連結業績は、売上高が前年度比9.0%減の322億800万円、営業損益は4600万円の赤字(前年度は3億6500万円の赤字)、経常損益は1億3900万円の黒字(同2億3500万円の赤字)、中間当期純損益は2000万円の赤字(同10億2000万円の赤字)。通期では、最終黒字を見込んでいる。中長期的には、07年度(08年3月期)に売上高850億円、営業利益率7%の確保を計画している。
連結従業員は約1800人。連結子会社は14社。そのうち海外拠点が8社。00年11月、東京証券取引所第1部に上場した。
瀧浪社長は電通国際情報サービスの設立から同社の中核的メンバーとしての職責を担い続けており、トップ就任以前は、主に営業業務に長く従事してきた。