沖データがグローバルビジネスの拡大に踏み切った。マーケットシェアが高い欧州地域に加え、アジア地域や日本などのシェアを高めていく。そのため、中国に販売拠点を設置するほか、国内チャネルの再構築にも力を注ぐ。また、プリンタを販売するだけの単なる“ハード売り”だけでなく、プリンティングをはじめとしたドキュメントやセキュリティを切り口としてシステム提案を徹底する。グローバル規模での知名度向上を当面の優先課題として取り組んでいく。
拠点増に積極的な投資 将来的には5000億円の売上規模へ
──「2×4(ツー・バイ・フォー)戦略」として05年度までに連結売上2000億円以上、連結営業利益200億円以上、カラープリンタのシェアをワールドワイドで20%以上、SIDM(シリアル・インパクト・ドット・マトリクス)で世界2位などを掲げていましたね。達成できそうですか。
前野 残念ながら、達成できそうにありません。「2×4戦略」を策定した時期と比べ、プリンタ市場の競争がさらに激しくなっていることもあって、そう簡単には事は運ばない。
そこで、成長率を一段と伸ばそうと、今年度は積極的な投資に力を注ぎました。とくに、下期以降は10月に中国でのソフト開発会社設立を皮切りに、韓国で販売会社の設立、11月にアラブの事務所を開設と続き、最後に英国のスコットランドで新工場の稼働などを実現しました。国内では、10月1日付けで消耗品の販売やプリンタのサポートを手がける沖電気カスタマアドテックと統合しました。今年度の投資は06年度に必ず実を結ぶと信じています。しかも、06年度には中国や台湾、マレーシアなどにも販売拠点を新設するので、連結売上2000億円以上は必ず突破します。
──販売拠点の設置や強化に投資することで、将来的な売上計画はどのように描いているのですか。
前野 まだ、具体的にいつどれだけの売上高を達成できるかはみえていません。ただ、1つの大きなステップとして5000億円にチャレンジしていきます。
──ほかに力を入れていくことは。
前野 プリンタソリューションの提供です。当社のカラープリンタはデスクトップ型のローエンドモデルが多い。低価格であるため、世界市場で10%程度のシェアは確保できる。しかし、単なる〝ハード売り〟だけでは顧客企業を満足させられません。
デスクトップ型を生かすためには、スモールワークグループ向けのシステム提案を行っていかなければならない。そこで、ドキュメントやプリンティング、セキュリティなどを切り口にシステムを構築できる体制を整えます。来年度早々には、ソリューションの提供に特化した組織として、仮称ですが「グローバルソリューション事業本部」を新設する予定です。今でも、「チーム」レベルの組織はあるのですが、ソリューションビジネスの売り上げが思うように伸びない。きちんとした「本部」を設置することで、ワールドワイドに通用する当社ならではのソリューションを持ちたいと考えました。まずは、ソリューションビジネスで06年度に最低でも全体の10%にあたる200億円規模の売り上げを達成します。
SIDMも拡販していかなければならない重要な製品と考えています。ここ数年、SIDMの販売台数は年間60万台前後で推移しています。この台数で、これまでは20%のシェアを確保していましたが、現在は14%程度にまで下がっています。これは、アジア地域でSIDMの需要が増え始めているのに、その地域でのビジネスに力を入れなかったのが原因です。ですので、アジアでの販売拠点を増やし、100万台規模の販売台数を目指します。何としてでも、競合他社に奪われたシェアを取り返します。
──海外のプリンタ市場を、どのようにみていますか。
前野 欧米は価格のたたき合いでめちゃくちゃです。年率20%程度で下がっています。これは、印刷方式の異なったプリンタが市場に出ているためです。安い4サイクル機の価格に合わせようと、タンデム機の価格を下げる。すると、4サイクル機も価格を下げる。その繰り返しで、価格下落が激しくなったのではないかとみています。ある特定のメーカーだけが低価格戦略を打ち出しているわけではありませんので、当面は価格低下は否めないと考えています。当社もタンデム機の価格を下げたので非がないとは言い切れない。しかし、市場は4サイクル機よりもタンデム機の需要が増えています。タンデム方式がベースになれば、価格が落ち着くでしょう。
主力の国内ビジネス拡大で、チャネル再構築へ
──国内の売り上げは、欧米より低いですね。
前野 確かに、国内は売り上げが200億円規模というのは低い。シェアに関しても、欧州は20%前後を確保しているのに、日本は10%にも達していない。これでは示しがつきません。ですので、まずは来年度に売上高300億円規模に増やします。
──大幅な増加ですね。拡大策はあるのですか。
前野 チャネルの再構築です。来年度から「スペシャルサポート7」というパートナープログラムを開始します。報奨金制度を設けたり、各販売代理店に応じたキャンペーンの実施、販売代理店への自営保守の教育支援策や営業面での教育プログラム、技術支援、ウェブ発注システムの提供、優秀な代理店を表彰する交流会など、7種類のプログラムを用意しました。
なかでも、報奨金制度が代理店の販売意欲を促進する1番のカギと考えています。来年度からは、プリンタ販売の年間取引額に応じて代理店をクラス分けし、クラスに応じて報奨率を算出する。加えて販売金額だけでなく販売台数に対しても報奨金を提供します。パートナーが設定した目標数値を超えれば、消耗品の販売に関しても報奨率増加の対象にします。消耗品も報奨金制度として策定している点は、競合他社のプログラムと比較して販売パートナーが必ずメリットとして受けとめます。
──組織変更など社内体制も強化するのですか。
前野 もちろんです。沖電気カスタマアドテックと統合しましたので、営業要員が120人から230人に増えました。これまでは、商習慣の違いがありましたので、沖データの営業はプリンタの販売、沖電気カスタマアドテックは消耗品の販売を行っていましたが、今後は各戦略に合わせて人員を振り分けます。遅くても来年度早々に組織を再編、早ければ今年度末から始動します。今は、最終的に詰めている段階です。
──チャネル強化や組織変更による効果は。
前野 新規顧客の開拓です。これまで顧客企業および対象顧客は、デザイン事務所や印刷会社などクリエイティブ業界がほとんどでした。しかし、特定業界だけではシェアが上がらない。ドキュメントを切り口にすれば、一般企業に攻め込めると確信しています。導入企業を増やすことで、カラープリンタのシェアはOEMを含め25%を達成させます。
──製品面での戦略は。
前野 日本は、ほかの国と比べカラープリンタでA3機の需要が多い。しかし、日本市場向けにはA3機を出していないので、ビジネスチャンスを失っていることになります。ですので、来年度上期中にはA3のカラープリンタを国内市場に投入する予定です。しかも、他社に負けない程度のラインアップも揃えます。価格や機能、ラインアップ数については、まあ発売するまで楽しみにしていてください。
眼光紙背 ~取材を終えて~
沖データが売上規模の目標として掲げているのは5000億円。「まだまだ先の話」と控えめだが、「今年度からワールドワイドで共通戦略を立てるようになった。これが軌道に乗れば、各地域の売り上げが一気に増える」とみている。
中国など新規地域を開拓していくのはグローバルビジネスを拡大するうえで重要なことだが、「一番の課題は、日本の売上高を伸ばすこと」という。本来ならば、主力地域の売上比率が高くなければならない。しかし、これまで国内ビジネス拡大の加速に向け抜本的な策は行っていなかった。「ビジネスの拡大は、自社だけで行うのは難しい。販売パートナーの協力が必要となる」と、国内チャネルの再構築を決断した。国内ビジネスの成長率がアップすれば、5000億円という売上規模はあながち机上の空論ではなさそうだ。(郁)
プロフィール
前野 幹彦
(まえの みきひこ)1945年1月27日生まれ、愛媛県出身。67年3月、京都大学工学部精密工学科卒業後、同年4月に沖電気工業入社。同社にて取締役、執行役員などを経て、01年4月に沖電気カスタマアドテック常務取締役兼執行役員に就任。02年10月、沖データ常務取締役兼常務執行役員に就任。03年2月、代表取締役専務兼CEOを経て、04年4月に代表取締役社長兼CEOに就任。
会社紹介
沖データは、沖電気工業グループのプリンタ事業を手がける会社として1994年10月1日に設立された。プリンタ事業は、同グループにとって情報通信事業と半導体事業に並ぶ3本柱の1つに位置づけられる。
カラーページプリンタとドットプリンタを中心に、世界120か国で販売活動を展開。各地域の売上比率は、欧州が最も高く50%程度を占めている。続いて米国が30%程度。日本は、全体の10%強と欧米に比べて比率は低い状況だ。そのため、国内チャネルを整備し、まずは来年度に現状の1.5倍にあたる300億円の売上規模を狙っている。
これまでは、各地域でそれぞれ戦略を立てていたが、今年度からはワールドワイド共通のビジネスを展開して売上高を伸ばしていく戦略に切り替えた。「沖プリンティングソリューション」というグローバルブランドも掲げている。なかでも、アジア地域のビジネス拡大を目指しており、来年度には中国や台湾で販売拠点を設置する予定。
今年度の売上高は、前年度比14%増の1610億円を見込む。来年度には2000億円以上の売上高を目標に掲げる。将来的には、5000億円規模の企業に到達することを目指す。