本来の「ユースウェア」とは何なのか──日本ユースウェア協会(JUA)が原点回帰しようとしている。昨年6月、組織や規約などを一新。2007年度(08年3月期)を達成年度とする「ビジョン2007」を掲げ、進歩著しいITや多様化するユーザーニーズに応えるため、藤井洋一・新会長(日本ナレッジ社長)を中心にした体制固めが緒についたところだ。設立当時の役割であった「『ユースウェア』は、導入から運用までを担うのが社会的な役割」(藤井会長)と、課題であった大手ITメーカーとの連携強化や地方開拓などを進める。
「ユースウェア」とは何かを、活動を通じて広く認知してもらいたい
──ITの変遷とともに、日本ユースウェア協会(JUA)が掲げる「(ユースウェア)ユーザー支援サービスビジネス」の役割も変わりましたね。
藤井 JUAがスタートした当時(1992年)は、パソコンの普及が進んだものの、ハードウェアが先行し、使い方が分からない利用者が多くいました。しかし、いまは、利用環境が大きく変わり、「パソコンを使えるのは当り前」になっている。JUA会員が支援するユーザーは、企業利用者や一般利用者、高齢者にまで広がっています。教える内容も、以前は「ウィンドウズ」が中心でした。これからは、オープンソース環境でパソコンを利用する人を対象にした支援も必要になってくるでしょう。
──JUAを取り巻く環境が大きく変化している。したがって、それに合わせて、協会のあり方自体を見直す必要があるということですね。
藤井 いままでは、企業が会員の大半を占めていました。しかし、地域に根づいて一般利用者を地道にサポートしている会員も多く、そういう方々を含めたJUAをつくろうとしています。最近は、ユーザー支援がコールセンターに集約されつつありますので、これを運営する事業社にも参加を促します。
──そのため、昨年6月に開いた「通常総会」では、協会が生まれ変わるために、規約や入会条件、基本方針などの改革を断行した、と。
藤井 それもありますが、15年も経てば、こうした協会はマンネリ化しますよね。JUAはこれまで、時代の流れに応じた改革をせずに、ただ昔の流れでやってきた。明確に「あれをやるこれをやる」という方針もなくスタートしていたので、今後は組織を小さくまとめ、できるだけ会員の実務につながることをしたいと思ったんです。
──JUAの活動がマンネリ化した原因は何だったんですか。
藤井 結局、ユーザー支援の内容が変化しているのに、何もしてこなかったということです。昨今は、マイクロソフトのワードやエクセルなどを使うだけでなく、個人でホームページを作成したり、マシン設定を自分でこなすユーザーが多くいます。だから、より突っ込んだサポートが要求されている。
──先の「通常総会」では、こうした点を考慮して、新たな指針として「ビジョン2007」を掲げられました。まずは何から改革するんですか。
藤井 真の「ユースウェア」とは何であるか、いまだ認知されていないと思うんですよ。まずは、JUAの活動を広く社会に認知してもらうことが必要と考えています。それと、ユーザー支援のニーズはどこにあるかが分からないので、一部の地域に偏っていた活動を全国的に広げたいと思っています。
──都市部と地方とでは、ユーザー支援のニーズがそんなに違うのですか。地方のニーズを知るために、何か活動をしていますか。
藤井 昨年夏には、JUAとして初めて、北海道・札幌市で「これからの時代のサポートサービス事業の運営」と題してセミナーを開きました。ユーザー支援ビジネスの最前線について、在宅の主婦などを取りまとめコールセンターを運営するNTTコムチェオの担当者から話を聞きました。
最新のユーザー支援について語ってもらいましたが、札幌市は政令指定都市でありながら、東京を含めた首都圏からのこういう情報に飢えていることを実感しました。札幌市内のJUA会員は、それまでゼロでしたが、これを機に、趣旨に賛同して地場のサポート会社10社が入会してくれました。こうした活動を通じて、地方を開拓するほか、地方ユーザーの声をつかみ、会員に提供したいと考えています。
メーカーの協力を得て、真に役立つ支援をユーザーに提供したい
──ユーザーのニーズに応じて、指導方法なども変革する必要があるということですね。
藤井 そうです。ただ現場に行って時間単位で指導料を受け取るだけの従来型のユーザー支援だけでは立ち行かなくなっている。教える側も「eラーニング」やウェブを活用したモノなど、効率的な指導にしていく必要があります。
──「ユーザー支援」という市場があるとすれば、そのなかで、いろいろなサポートのあり方を模索し、需要を探す必要があるわけですか。
藤井 いまのパソコン利用者のすべてが、使い方をマスターしているわけでなく、機能をフルに活用できていない人たちがまだまだたくさんいます。また、毎日のように新しいソフトウェアやツールが登場しますし、IT環境の変化も著しい。このような点に照らせば、ユーザー支援は永遠に無くならないビジネスだと思います。
──自治体向けのユーザー支援に力を入れていくとのことですが、その理由は。
藤井 自治体では電子申請の利用がかなり進んできました。しかし、電子申請といわれても、やり方が分からない中小企業がかなりあります。例えば、電子申請や電子入札などに際して、認証の仕方すら分からない中小企業が多いのです。さらに、電子自治体に関する企業向けのサポートだけでなく、電子申請などを受け入れる自治体内で、職員のスキルが電子自治体に追いついていない現状があり、これをサポートして欲しいという要求があります。
──今年度の大きなテーマとして、オープンソースソフト(OSS)のユーザー支援を強化するそうですが…。
藤井 OSSの普及には、サポート体制が課題となっています。ユーザー支援を掲げる団体としては、当然、力を入れて取り組むべきです。政府の調達方針で、自治体がOSSを搭載したクライアントPCも導入することになりました。クライアントPCとなれば、JUAがユーザーを側面支援する方向性を打ち出すべきでしょう。OSSのユーザー支援に取り組むうえでは、ハードウェアやソフト開発・販売のメーカーが密接に連携していく必要があります。
──ですが、実際にはメーカー系会員は減っていますよね。
藤井 ユーザーを支援するベンダーを集めただけの組織でなく、ハード、ソフトを扱う両メーカーが一緒の組織にいるのがJUAのはずなんです。しかし、最近になって、メーカーは、JUAから抜けてしまっているのが実情です。OSSの取り組みなどをきっかけに、こうしたメーカーを取り込み、同じ失敗を繰り返さないようにしたい。
「JUAです」と挨拶してメーカーを訪問すると、ヘルプデスク担当者が応対に出てくる。本当は、営業部門と会いたいんです。いつまで経っても噛み合わないままになってしまっています。使い方を教えるだけでなく、ユーザー企業の立場に立ってIT戦略を立てるのが、本当の意味での「ユースウェア」なのです。JUA会員はメーカーと一緒にビジネスができます。ユーザー企業の立場で、「導入支援」を含めたITシステム全体を考えるのがJUA本来の社会的な役割なのです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「何も改革をしてこなかった」--副会長を5年務めた藤井洋一・現会長は、日本ユースウェア協会(JUA)が危機に瀕していたことを暗に認めた。物腰は柔らかいが、インタビュー中は気骨のあるところを見せてくれた。
「ビジョン2007」を掲げ、「協会運営を抜本的に見直す」ことをアピールして、協会の存在意義を広く知らしめようとしている。それでも、連携を強化したい大手ITメーカーは、「なかなか振り向いてくれない」と悩みは深い。
藤井会長が社長を務める日本ナレッジは、ゴルフのスイングを分析するシステムを開発し、話題を呼んでいる。「スポーツ業界にITは無縁と思われていたが、そうではないことが分かった」。こうしたチャレンジを重ね、ITの利活用がさまざまな業界に浸透していけば、「JUAの活動もどんどん領域が広くなる」のだと、会長としての意気込みを示していた。(吾)
プロフィール
藤井 洋一
(ふじい よういち)1957年10月、東京都出身。80年3月、亜細亜大学法学部卒業後、同年4月、東京シティ信用金庫に入社。85年10月、1人で日本スペースソフトを設立し、社長に就任。88年6月、パッケージ開発も開始し、社名を現在の日本ナレッジにした。日本ユースウェア協会には92年8月に加盟。2000年に同協会副会長になり、05年6月、会長に就任した。
会社紹介
日本ユースウェア協会(JUA)は、パソコンが急速に普及した1992年8月に設立された。当時は、マイクロソフトのワードやエクセルなどの利用やインターネットの接続などの指導を中心としたユーザー支援を担っていた。しかし、ITのインフラ環境が激変し、旧来型のユーザー支援だけでなく、オープンソースソフト(OSS)に関するサポートや企業システムの「導入支援」などの需要にも応えようと組織改革に踏み出した。
昨年6月に開催した「通常総会」では、さらなる発展を目指すための新指針「ビジョン2007」を掲げた。同時に前会長が退き、藤井洋一・新会長体制になった。組織の規約や活動内容も見直した。個人事業者やSOHOの加入を勧奨するため、年会費を半額にしたほか、全国組織にするため、地方にも積極的に進出することを決めた。
まったく新しい枠組みと会員で、積極的な活動を展開しようとしている。これにより、一時的に会員数は減少した。「ビジョン2007」の計画最終年度(08年3月期)には、法人格を取得することを目指している。