コンピュータメーカーやSIerとコンサルティング会社が手を組むケースが増えている。だが、コンサルティングファームのヘッドストロング・ジャパンの殿村真一代表取締役はそうした戦略とは一線を画す。あくまで中立的な立場を堅持し、経営とITどちらにも精通するコンサル集団を組織して業績を伸ばす。IT戦略立案が企業にとって重要な経営問題になった今、「ヘッドストロングが活躍できる舞台が広がっている」という。
特定ベンダーとの連携によらず、競合とは一線を画す経営姿勢
──コンサルティングサービス業界のなかで、ヘッドストロング・ジャパンの位置づけは。
殿村 コンサルティング会社は、大きく2つのグループに区分けできます。ひとつはマッキンゼーやボストンコンサルティンググループのように、ビジネスプロセスの見直しなど経営戦略に強いグループ。一方は、アクセンチュアやアイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス(IBCS)のように、ITに強いグループ。ヘッドストロングはこのどちらのタイプでもない。つまり、経営戦略とIT戦略立案どちらの領域でも支援できる人材を集めたコンサルティングファームなんです。
企業経営にとって、ITは切っても切り離せません。それだけに、経営の目線に立った情報システムのデザイン力がこれまで以上に求められている。そのなかで、ヘッドストロングの特徴が今まで以上に生かせる市場環境になってきたと思います。
──最近、コンサルティング会社がメーカーやSIerと組むケースが目立っています。アビームコンサルティングとNEC、旧日本キャップジェミニ(現ザカティーコンサルティング)とNTTデータの資本・業務提携のような事例があります。こうした戦略的提携もひとつの方向だと思いますが。
殿村 確かに、ITと経営の両面から支援できるという体制は重要です。しかし、同時に、われわれには、特定のベンダーに偏らない中立的な立場を貫くことをモットーとしています。ですから、どこかのメーカーさんと1対1で組むという発想はありませんね。
──競合となる企業は。
殿村 実際の案件獲得競争の場面では、コンサルティング会社の強みや特徴を熟知して発注するユーザー企業というのは、案外少ない。そのため、表面上は、マッキンゼーやアクセンチュアなどが競合にはなります。
しかし、ヘッドストロングと同じように経営とITの両方をコンサルできる企業は数多くあるわけではないんです。ですから、われわれと特徴と強みがまったく同じで、「この会社が競合です」とはっきりいえるコンサルティング会社はないんですよ。
ヘッドストロングの特徴をお客さんにきちんと説明することができ、お客さんの要望が当社のできることとマッチすれば、案件は獲得できます。他のコンサルティング会社と価格で競い合うようなことはありません。逆に、特定の領域に強みをもっているコンサル会社は、その分野で当社よりもスキルが上回っている案件もあるでしょう。顧客の要望が当社の得意とする領域と合わないために、われわれができる範囲ではないと判断すれば、きっぱりとお断りします。トラブル案件の発生を防止するうえでも、そうした意思決定は大切ですから。
──ITと経営の両面を兼ね備えるとなると、コンサルタントの確保や育成は難しいのではないでしょうか。
殿村 現在コンサルタントは、40代を中核メンバーとして約60人います。でも、この体制では今取り組んでいる案件をこなすことも難しい状況です。今年度(2006年12月期)は20人増やして80人体制にし、中期的には100人体制まで広げるつもりです。
景気も回復しており売り手市場になっているので、ご指摘の通り、欲しい人材を採用するのは簡単ではない。中立的な立場でSIやモノ売りをせずに、上流工程だけを手がけたいと考えているコンサルティング会社が多いので、採用のレベルは下げずに、我慢強く採用活動を続けている最中です。
流通、食品の生産性向上に焦点 上流工程でSIerへの支援も
──情報システムの上流工程を手がける人材に求められるスキルとは何なのでしょう。
殿村 ITに関するある程度の技術的知識だったり、お客さんの業務知識を理解していることだったり、細かいことはたくさんあります。ただ、もっとも重要なのは、品質へのこだわりとコミュニケーション能力にあると思います。
本当に良いモノを作りたいという心を持って、粘り強くこだわり続けることができる力はとても大切です。また、お客さんの要望をしっかりと聞き理解していないと、その後の工程がすべてぶれますから、コミュニケーションを取れる力は必須です。コンサルタントは、お客さん、メーカー、SIerなど複数の人と連携を取る必要もありますから、調整能力も重要です。
──案件をさばききれないほど好調だということですが、どんな顧客企業が主要ターゲットなんですか。
殿村 基本的には大企業が多いですね。メガバンクの統合案件とか、総予算が500億円の大規模プロジェクトとか。ただ、大企業だけを対象にしているわけではありません。中堅企業以下でもIT投資を経営戦略のなかで重要視している企業はたくさんあります。SIerやメーカーの言いなりではなく、中立的な立場の人間から意見を聞きたいと考え、そこにお金を払ってもよいと思っている中堅、中小企業はあります。したがって、企業規模でターゲットを分けていることはありません。
──中堅以下の市場で、フォーカスする業種はありますか。
殿村 流通と食品業界は焦点を当てていますね。流通と食品業は生産性が海外に比べ極めて低い業界なんです。米国を100とすると日本は50か60程度でしょう。だからITを使って生産性を向上させるための支援を行っていきたい。
──SIerのなかでも、システム構築は得意だが、上流工程であるコンサルティングサービスが弱いという悩みを抱えている企業は多いと思います。
殿村 ご支援できる部分はたくさんあると思います。コンサルタントはどう使うかが重要で、1つのプロジェクトのスタートから終わりまで、べったりとコンサルタントを使っていたら、かなりの金額がかかってしまう。ですが、クイックアセスメントのような形で部分的にコンサルタントを使えば、金額もそれほどかからずに、中立的な立場から意見を聞いて、システム構築に役立てることができる。ヘッドストロングには、そういう形でSIerさんのビジネスを支援できる体制も整っているので、ご協力できることはあると思います。
──今年度の業績見通しは。
殿村 今年度の売上高は、前年度比20─30%増の20数億円で、営業利益率は15─20%ぐらいを見込んでいます。 今はとにかく人がいないので、売り上げは追い求めていません。採用のレベルを下げて人を増やし、売り上げアップに固執すると品質が悪くなりますから。米本社にも、「潰したら意味がないでしょう」と言って納得してもらっていますよ。売り上げを伸ばすのは、優秀な人材を採用し体制を整えてからでも遅くはありません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ユニークな社名に込められた意味を聞くと、「不確実なことが多い時代に、ストロングオピニオンを提案していく」ことだと殿村氏は説明してくれた。
前身であるジェームスマーチン・アンド・カンパニーの創業者であるジェームス・マーチン氏が変更を決めた。殿村氏は99年に入社。約1年後に社名が変わり、「その時は愕然とした」という。
「知人などに社名を話すと、ベンチャー企業でも作ったの?と聞かれることが多かった」とか。殿村氏自身は、「変えなくても良かったのではないか…」と、今でも気に入っている様子ではないが、一度聞いたら忘れないインパクトの強さは、知名度を上げるための好材料だろう。
何より、曖昧で不確実なことが多いIT産業界において、“強い意見”を求めている企業はきっと多い。社名に込められた想いと顧客の要望はマッチしているはずだ。(鈎)
プロフィール
殿村 真一
(とのむら しんいち)東京大学経済学部卒業後、1987年に新日本製鐵入社。経理財務、生産管理、新規事業企画、M&A、SIビジネス推進業務に従事。99年、ジェームスマーチン・アンド・カンパニー・ジャパン(現ヘッドストロング・ジャパン)入社。01年8月、代表取締役。06年から米本社の経営メンバーに名を連らね、米本社副社長も兼務する。米国スタンフォード大学経営学修士(MBA)取得。金沢工業大学知的創造システム専攻(社会人大学院)専任教授も務める。
会社紹介
ヘッドストロング・ジャパンは、米ヘッドストロングの日本法人。前身はジェームスマーチン・アンド・カンパニー・ジャパンで、2000年に現在の社名となった。経営とIT両面の戦略立案を手がけられることを強みとしているコンサルティング会社。
コンサルタントは、日本人のほか英国人、米国人、中国人など多国籍で、国をまたいだグローバルな情報システムの在り方などの提案を得意としている。コンサルタントの人数は現在約60人で、今年度内に80人に増やす予定。
殿村真一代表取締役は、新日本製鐵の新規事業部門で、経理財務、生産管理などを経験し、IT関連製品・サービスの事業企画、事業提携・買収業務、米国ベンチャーキャピタル投資などを担当しており、多彩な業務キャリアを持つ。
米国留学の経験もあり、米IBMと米アップルコンピュータの合弁でオブジェクト指向プラットフォームの開発会社タリジェントにて、事業企画マネジャーも担当した。