大塚商会の100%子会社、OSKは自社ブランドの認知度を高め、親会社に頼らない「自活路線」を歩み始めた。大塚商会のパートナー以外の自前の販売パートナーは約100社に達した。それでも「さらに増やす」と、3月に就任した宇佐美愼治・新社長は語る。昨年度9.8%だった外販比率を早期に20%にまで高める方針だ。一昨年度までは“黒子的存在”だったが、自社ブランドの情報系ソフトウェア「eValue(イーバリュー)」も好調で、自活の道は近そうだ。
外販強化策が好業績をリード“独り歩き”できる体制に手応え
──昨年度(05年12月期)を「アライアンス元年」として、「他流試合のできるベンダーへ変身する」と宣言しました。親会社の大塚商会から自活する路線に向けた動きは、進展していますか。
宇佐美 すでに自前の販売パートナー約100社と契約を済ませました。(大塚商会を経由しない)外販率が、一昨年度の8.4%から、昨年度は9.8%に高まり、金額ベースで4億円に達した。この数字はまだ低いと思っていて、外販率を20%に引き上げることを目標にしています。今年度(06年12月期)の計画では、外販の売上高7億円、外販比率15%を達成目標に置いています。
実際に、その勢いがあるんですよ。昨年度新設した「アライアンス営業部」の担当者が、ものすごくがんばり、右肩上がりで伸びています。
──昨年度は、売上高が前年に比べ25%も成長しています。外販強化が奏功した成果ですか。
宇佐美 そうですね。外販の勢いが、かなり業績に貢献してくれました。大塚商会が扱う当社開発のERP(統合基幹業務システム)「SMILEシリーズ」が中堅中小企業向けに急速に伸びたことも大きい。そのほかでも、OSKブランドの情報系ソフトウェア「eValue(イーバリュー)」が昨年度、前年比157%に伸長し、コンサルティングや受託開発も着実に成長しました。
──大塚商会というブランドがなくても、ビジネスが成り立つ状態になった、と。
宇佐美 必ずしも、大塚商会のブランドなしで成り立つというわけではありませんね。ただ、大塚商会のパートナーとバッティングしないようにする必要があるので、「ビジネスパートナー(BP)事業部」と上手く相談しながらやっています。
──大塚商会がバックボーンにあるから、それを期待してOSKと販売パートナーを組むベンダーが多いということですか。
宇佐美 それは違いますね。プロダクトを見たうえで、判断してもらっています。「大塚商会」という名前の入った製品を売りたくないベンダーも多かったんです。「SMILEシリーズ」は大塚商会が商標を持っています。結局、OSKが販売パートナーと商談をまとめると、製品は大塚商会から出ていく仕組みなんです。現場では、OSKと販売パートナーでビジネスを進めていますが、商流としては、大塚商会からモノが出ていく形なんです。でも最近は、その傾向にも変化が現れています。大塚商会を経由して製品を納入すると、根こそぎ取られるのではと懸念の声があった。そこは「不可侵条約」があることの理解が広がりました。
大塚商会がバックにいることの強みと弱みを把握して対応する
──OSK自体のビジネス戦略が大きく変わるなかで、今年3月に新社長に就任しました。
宇佐美 現状路線を突き進むことに変わりはないですよ。ただ、大塚商会グループとして内部統制を強化するうえで、グループ内で製品の品質が悪いと指摘されるとまずいので、品質強化から手をつけ始めました。具体的には、製品の検査工程を1工程増やすということです。検査工程にどこまで資金を投入するかは経営課題ですが、現在の販売量を考慮すると、もっと品質を上げるべきと考えました。
社内には開発部隊と品質部隊がある。昔は品質部隊はなく、部署を新設した経緯があります。それでもバグが出るので、さらに品質強化すべきと、大手SIベンダーに検査を委託しました。検査工程でどれだけバグをつぶすかが勝負になりますからね。
──販売パートナーをまだまだ増やそうとしていますが、OSKと手を組むメリットは何ですか。
宇佐美 私どもOSKが“普通のソフトメーカー”だったら、販売パートナーが手を組んでも特にメリットはない。当社が出す製品は、大塚商会の膨大なエンドユーザーの声が凝縮されているので、品質が成熟しています。新しい販売パートナーとビジネスを進めるなかで、場合によっては大塚商会のさまざまなリソースを活用することができる。ただ、このことをあまり前面に出すと、反感を買いますがね。
──ということであれば、OSK独自の販売パートナー支援策も強化すべきではないですか。
宇佐美 その体制はまだ弱く、私も強化すべきだと考えています。ただ逆に、販売パートナーの製品でいいモノがあれば、大塚商会ルートで販売することもできるでしょう。OSK製品と販売パートナーの製品を組み合わせ、大塚商会のチャネルで拡販することができます。足で稼ぐ販売パートナーの支援部隊の人員(現在約30人)も少ないのが実情ですので、きちんと仕組みをつくりたい。例えば、ある販売パートナーの受託案件があったとすると、足りない部分を別の販売パートナーに紹介して、手伝う形でビジネスを進めることも体系化する予定です。
──製品面では、情報系ソフト「eValue」の成長率が特に目立っていますね。
宇佐美 「eValue」は大塚商会ブランドではないので、やりやすいんですよ。いま特に自慢できるのは、承認システム「Advance─Flow(アドバンス・フロー)」と文書管理システム「Visual Finder(ビジュアル・ファインダー)」ですね。これは実際に見てもらうと、必ず皆さんに高く評価されます。
──情報系ソフトが急成長する理由は何ですか。
宇佐美 電子文書化するニーズが高まっていますよね。昔は、私もユーザーでしたが、電子ファイル専用機「光ファイルシステム」はスピードが遅く、故障も多く、非常に高価でした。「光ファイルシステム」を導入していた大企業では、安価なウェブベースの文書管理システムに置き換えている例はたくさんあります。当社の文書管理システムへの取り組みは、ある大手製造業向けに個別で安価に構築したのが始まりで、それが現在の製品になったのです。
──「SMILEシリーズ」も成長して、国内ERP市場でシェア上位が定着しましたね。
宇佐美 ちゃんとしたウェブアプリケーションとして開発したので、真剣に評価してもらえれば選択していただけるという自負はあります。ウェブベースのERPを、前から作りたいと思っていたけど、営業側から要望が上がってきませんでした。
「SMILEα」がクライアント/サーバーシステムとして成功していましたが、SAPやオラクルのERPと比較すると層が違うイメージがあったので、そこに向けて本格的な製品を出そうと、「SMILEie」の製品化が走りだしたのです。
──3─5年後のOSKは、どうなっていますか。
宇佐美 極端には変わっていないと思いますよ。でも、「物販」というイメージよりは、「サービスプロバイダ」の要素が加わる。例えば、ASPのようなモデルが増えてくるでしょう。販売パートナーが収益を上げるモデルを維持すべきですが、一方ではインターネット経由で製品を流すことも考えていく必要があると思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
IT業界で宇佐美愼治社長の評判は高い。新しい技術やプラットフォームなどに関する知識が豊富で、「話が早くまとまる」からだ。長年、技術畑を歩いてきた。新社長に就任して「品質強化」を打ち出したところは、技術者のプライドだろう。
「うちは、本当に売れる製品しか作らない」。OSKに根づく考えだが、その頭脳として、常に中核に居続けている。週刊BCN主催で開催した同業他社のトップを交えた座談会では、的を射たコメントが次々と出てきた。
いま注目しているのは、マイクロソフトの新OS「Vista」。半透明ガラスの外観を持ったインターフェイス「Windows Aero」に注目し、「どう応用するか知恵を絞っている」と、すでに研究が開始されている模様だ。あとは、販売網と販売支援の整備だけだが、容易にクリアしそうである。(吾)
プロフィール
宇佐美 愼治
(うさみ しんじ)1952年6月、東京都生まれ、53歳。76年3月、横浜市立大学文理学部卒業後、同年4月に大塚商会に入社。拠点第一号の神奈川県でSEのチーフ、「SMILEシリーズ」の開発、サポート本部の責任者などを務めた。00年から同社取締役、05年からOSK専務取締役を歴任したあと、06年3月に現職に就任した。
会社紹介
OSKは1984年、大塚商会の100%子会社であるソフトウェア研究開発拠点として設立。当初は「大塚システムエンジニアリング」の社名で、パソコンCADの草分け「PC-CAD」を発売した。88年には社名を「大塚システム研究所」に変更。90年には現在の主力製品、業務ソフトの「SMILEα」を発売した。
現在では、基幹系「SMILEシリーズ」、03年に発売した情報系ソフト「eValue」に加え、CADなどの専門分野、Javaなどのウェブ関連技術を駆使したシステム開発まで、幅広い製品に対応している。
社名は93年に「オーエスケイ」、04年に現在の「OSK」へと変わった。OSKに変更したと同時に、大塚商会に頼らない自活路線を歩む方針を宣言。
05年度(05年12月期)は、売上高が前年比25%伸び、初めて40億円を突破。セグメント別の構成比は、「SMILEシリーズ」が49%、「eValue」シリーズが16%、受託開発・コンサルティングなどが35%となっている。昨年度からは、大塚商会のパートナー以外の外販を強化。独自の販売パートナーは約100社に増加している。