通信事業者を中心に新しいネットワーク技術を取り入れたシステム導入の機運が高まるなか、ネットワンシステムズがサーバーとアプリケーションサービスを踏まえたネットワークシステムの提供に乗り出した。技術力や提案力、サービスの強化で事業拡大を図っていく。技術者の育成強化や検証センターの機能拡充、コンピュータベンダーとのアライアンスなどで同社独自のネットワークプラットフォーム確立を目指す。
昨年度は大幅な減収減益 NGNへの投資抑制が痛手に
──05年度は、前年度比20%以上の大幅な減収減益という結果でした。何が原因だったのですか。
澤田 これまで業績増に寄与してきた通信事業者などサービスプロバイダ向けのビジネスが大幅に落ち込んだことが原因です。次世代ネットワークである「NGN(ネクスト・ジェネレーション・ネットワーク)」の構築に向けて、ベンダー側はIPネットワーク構築の準備を進めてきました。しかし残念ながら、顧客側の通信事業者が投資を抑制した。プロバイダのほとんどが「NGN」に対する投資のタイミングを思案していたのです。このため当社は、ビジネス縮小の〝谷間〟に入ってしまったわけです。一方、第2の柱であるエンタープライズを中心とした法人向けビジネスは、厳しい環境のなかでも微減にとどまった。サービスプロバイダ向けビジネスと比べれば良く頑張ってくれたといえます。
それでも、全体をみると「残念な年だった」と言わざるを得ません。実は、昨年度期初の時点で通期業績は、前年度より10─20%程度は伸びると予想していました。しかし、期中に下方修正し、結果的に業績が不振になった。これは、大いに反省しなければならない。すでに業績回復に向け全社が動き始めていますから、確実に増収増益を達成できると思います。今年度は、売上高1200億円、経常利益80億円を狙い、08年度には売上高1500億円、経常利益110億円を目指していきます。
──どのような強化策で業績を拡大していくのですか。
澤田 各分野で業績を伸ばすため、4月1日付で組織を再編しました。事業本部を、エンタープライズ、サービスプロバイダ、地域、公共機関などに細分化し、それぞれの分野に特化した体制を敷きました。これにより、分野や地域などマトリックスでビジネスが行えるようになります。
また、アプローチの仕方も変えていきます。これまでは、高速化や新しい技術などをアピールしてネットワーク構築を受注するケースも多かった。しかし、今はNGNをはじめとしてネットワーク環境が次のステージに進もうと転換期を迎えています。そこで、当社はIPなどネットワーク技術の進展を見越して、最新技術に対応したネットワークシステムを構築できるという点を訴えていきます。
積極的な提案で現状を打開 先端科学分野での成功例も
──次世代ネットワークのメリットは、ユーザー側にも浸透してきているのでしょうか。
澤田 そう、そこが一番の問題です。顧客は新しいネットワークを構築するメリットを納得しなければ、リプレースを行わない。しかも、新技術を導入する不安もあると思います。その結果、インテグレータ側の当社と顧客側との間にタイムラグが発生したのが昨年の問題でした。まずは、その差を埋めることが先決です。
顧客が新技術の採用を決断するまで待つのではなく、当社から、ネットワークとコンピュータを融合させるメリットを積極的に提案していきます。
──具現化したソリューションはありますか。
澤田 大学共同利用機関法人の高エネルギー加速研究機構に提供した「Bファクトリー計算システム」が良い例です。このシステムは、共通基盤研究施設のひとつである計算科学センターの構築運用管理を行うのが目的です。大量のデータを収集、解析するために加速器と解析用コンピュータシステムを高速ネットワークで接続し、24時間365日連続で稼働します。当社がプライマリーベンダーとなり、デルとソニーブロードバンドソリューションとの協力で受注しました。当社のネットワークノウハウとコンピュータベンダーのノウハウを融合させ、ひとつのシステムとして提供できた成功例です。
──ネットワークとコンピュータの融合を本格的に進めるには、さまざまなアライアンスが重要になってきますね。
澤田 真剣に考えなければなりませんね。今後は、コンピュータ側からのネットワーク、ネットワーク側からのコンピュータ、と両面から見ていく必要があります。ベンダーとのコラボレーションを増やすためには、コンピュータのノウハウを高めていかなければならない。
──具体的にはどんな対策を。
澤田 ソリューションベンダーの日本ビジネスシステムズ(JBS)と、同社の子会社でテクニカルアウトソーシング事業を手がけるJBSテクノロジーを共同事業化することで合意しました。これにより、コンピュータとネットワークの両方に精通した技術者をJBSテクノロジーで育成します。共同事業化は、国内のSIerなどに派遣する技術者の増員に加え、技術やノウハウの相互提供による両社の技術者スキルを向上させることも狙いとしています。
リモートでシステムを検証 全社の情報共有が強みを増す
──ネットワーク構築で他社との差別化を図るポイントは何ですか。
澤田 ハードウェアとソフトウェアの検証です。今年4月には、テクニカルセンターの拡充を図りました。ここでは、製品やシステム、運用、障害などの検証を行うほか、リモート検証機能により当社の全事業所でシステムを検証できるようにしました。また、顧客やメーカーが利用可能な共同検証ルームを新設し、最新の技術情報やニーズをリアルタイムに共有できる環境を整えました。多くの顧客ニーズに対応していくには、さまざまなメーカーのハードウェアやソフトウェアをいかに組み合わせられるかが重要になってきます。こうした情報を当社の全事業所が把握することは、技術力や提案力の強化につながります。さらに顧客やメーカーとも情報を共有できれば、セキュリティや運用管理などの分野でも、いち早く最新のシステムを開発できるメリットがあります。
今後は、コンピュータだけでなく、ネットワークからもアプリケーション動作を考えなければなりません。そうした意味でも、テクニカルセンターをベースとした検証が他社との差別化になってくるといえます。
──ネットワーク機器の価格低下が業績の足を引っ張る心配はありませんか。
澤田 確かに、製品単体では低価格化が進んでいます。あくまでも、顧客ニーズに沿ったシステムの提供が大前提となりますが、それでも収益を伸ばすには売価と粗利が大きい機種を重視しなければなりません。また、コンピュータメーカーなど他社が獲得したシステム案件を請け負うよりも、当社がプライマリーベンダーとしてシステム案件を受注したほうが、顧客との関係が深まるなどメリットが大きい。
こうした基盤をつくるため、技術力や提案力、サービスを一段と強化しているわけです。そして、コンピュータシステムやアプリケーションサービスとの連携を踏まえ、他社にはまねできないネットワークにおける独自の“プラットフォーム”を確立すれば、さらに当社が成長していくと確信しています。
My favorite 還暦の祝いに家族からプレゼントされたセイコー・クレドールブランドの腕時計。毎日、欠かさず付けている。これを見ると、家族の顔が浮かび元気が出るという。力を与えてくれるアイテムだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
業界トップレベルのネットワーク系SIerとして、次世代ネットワークも構築できる高い技術力を持ちながらも、昨年度は業績不振だった。社長に就任して初めての減収減益。ネットワーク環境が転換期を迎えているため、「今は耐える時期であるかもしれない」と澤田社長は冷静に語る。しかし、顧客企業による新技術を搭載したネットワークシステムの導入意識が高まるまで待っていられない。そのため、コンピュータシステムを含めたシステム提案の徹底を決断した。
混沌とした市場環境のなか、同社が行わなければならないことを見定めた。しかも、社員の士気を高めることも怠らない。このほど開催した“キックオフ”と称した社員向けパーティでは、一致団結を掲げたという。会社の方向性をしっかりと社員に伝え、成長軌道に乗せる。業績回復に向け、今が澤田社長の腕の見せどころだ。(郁)
プロフィール
澤田 脩
(さわだ おさむ)1968年3月、関西学院大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。97年にネットワンシステムズの取締役に就任。02年、プロストレージ社長に就任。04年、ネットワンシステムズ社長に就任。現在に至る。
会社紹介
1988年2月1日に設立。大手ネットワーク系SIerとして、ルータやスイッチの販売に加え、IPテレフォニー、セキュリティ、ストレージなど、ネットワークに関連する分野でシステムやサービスを提供している。東京の本社をはじめ、関西支社や事業所、テクニカルセンター、サポートサービスなどを含め、全国に70以上の事業拠点を持つ。
ルータやスイッチの販売で、さまざまなネットワーク機器メーカーの製品を扱っている。現段階では、シスコシステムズやジュニパーネットワークスなど米ネットワークメーカー製の売上比率が高いが、ブランドにこだわらないシステム提供を徹底。アラクサラネットワークなど国内メーカーの販売比率も徐々に増えているという。
05年度の連結業績は、売上高が1073億8300万円(前年度比20.3%減)と減少、利益も営業利益が77億5200万円(同27.5%減)、経常利益で78億2400万円(同26.5%減)、最終利益で47億8300万円(同23.0%減)と落ち込んだ。「NGN」など新しい技術を搭載したシステム提供で、今年度は起死回生を図る。