業績回復に向けてドライブをかけるサン・マイクロシステムズ。主力のUNIX系サーバーの販売に手応えがあり、今年度は発熱を大幅に抑えた省電力型の高性能サーバーの売り込みに力を入れる。末次朝彦新社長の指揮のもと、ウェブサーバーやアプリケーションサーバーを運用するデータセンターを基軸として、ユーティリティコンピューティングの拡大を推進する。
省電力のサーバーを訴求 業績回復に好感触の出足
──ここ数年、米サン・マイクロシステムズを中心とするグループ全体での赤字が続いています。日本法人トップとして難しい課題に直面しなければなりません。
末次 業績については株主に対して申し訳ないという思いはあります。しかし、キャッシュフローに窮しているわけではなく、赤字の原因もはっきりしています。業績が伸び悩むなかでもあえて研究開発費を削らなかったことが赤字の要因ですが、これは明確なビジョンをもって投資を続けたほうが中長期的に見て正しい選択であるという信念に基づく施策です。
──昨年9月以降、相次いで国内販売を始めたサーバーの売れ行きは。
末次 当社オリジナルのプロセッサ「SPARC(スパーク)」シリーズの新製品とOSの「Solaris(ソラリス)」シリーズを搭載したミッドレンジサーバーが好調です。既存顧客の買い換え時期と重なったこともあり、今年に入ってから販売台数が伸びています。ウインドウズも動作可能なAMD製のプロセッサを搭載したサーバーも好評ですが、スパークとソラリスを組み合わせた製品が稼ぎ頭であることに変わりありません。
──UNIXと構造が似ているLinuxのシェアが拡大し、ソラリスを含むUNIX系のOSが不利になっているという指摘もあります。
末次 UNIXは価格が高くて、製品サイクルも長いというイメージからきているのでしょうか。実際はまったく違います。確かに以前はPCサーバーに比べてUNIX系の機種は高かったことがありましたが、今は下位機種を中心にPCサーバーと価格帯、製品サイクルともにほぼ同じです。PCサーバーと同じ土俵で商談が進んでいます。
──末次さんの社長就任は、業績回復を狙ったものだと思います。手応えを感じておられますか。
末次 よい感触があります。主力のスパークシリーズもさることながら、省電力が売りの新型プロセッサを搭載した「クールスレッズ」シリーズの本格的な立ち上がりが見込めるからです。同等性能のプロセッサに比べて4─5分の1ほどの消費電力で動作するというベンチマークも出ており、データセンターやインターネットサービスプロバイダなどから引き合いが急増している。今年度は明るい材料が揃っており、あとは伸びるしかないと思っています。
インターネットの爆発的な普及を例に挙げるまでもなく、サーバーに対する負荷は拡大し続けています。電力消費、発熱量が大きいプロセッサを搭載したサーバーを無計画に増設すれば、データセンターは電力供給や冷房設備の限界に突き当たります。現に世界のデータセンターの約8割は電力や熱、設置スペースの課題を抱えているとされ、高周波数のみを追い続けるプロセッサではいずれ立ちゆかなくなります。
すでにクールスレッズ技術による次世代省電力プロセッサの開発を表明しており、07年後半をめどに製品投入していく予定です。
──クールスレッズシリーズでデータセンターにおけるシェア拡大を目指すということですか。
末次 クールスレッズシリーズにソラリスを乗せて、ウインドウズやLinux機を駆逐していきます。ウェブサーバーやアプリケーションサーバーを運用していくうえで、ウインドウズやインテル、Linuxでなければならないという理由はありません。価格性能比が高く、省電力機能で電気代などデータセンター運営のコストを削減できるプラットフォームであれば、シェア奪還は十分可能だと思っています。
私見ですが、個人情報保護や企業ガバナンスにおける内部統制の強化などが重視される時代で、大企業から中堅中小企業に至るまで自社内でサーバーを運用するメリットがどれほどあるのか疑問に感じています。システムを自社で運用するセキュリティ上のリスクやコストを考慮すれば、いずれサーバーはデータセンターに集約されていく可能性が高いと見ています。
データセンター軸に展開 ASP活用が主流になる
──サンの販売パートナーでもある伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が今年10月にデータセンター事業を得意とするCRCソリューションズと経営統合します。また、野村総合研究所も今年4月にデータセンター事業を中心とするNRIデータサービスを吸収合併しています。この動きについては。
末次 データセンターを軸としたASPのようなビジネスモデルが本格的に始まる兆しなのかもしれません。ネットワーク環境の整備が進んでいるのに、ユーザーが個別にマシンを管理し、ソフトウェアを手直しする旧来型の手法で生産性が高まるとは思えないからです。業界にとってもハードウェア保守の収益性は悪化の傾向にありますし、メーカーにしてみればデータセンターへの納入のほうが販売効率を高められます。
ASPはコンピュータリソースを電気や水道のように、ネットワークを使っていつでもどこでも使えるユーティリティコンピューティングに結びつく可能性があります。すでに布石は打ってきましたが、業界大手の動きからしても方向性は間違っておらず、綿密な戦略に裏付けられた開発投資を今後とも続けていきます。
──ユーティリティコンピューティングが拡大してくれば、安定収益にも貢献しそうですね。
末次 数年後、今のようにハードウェアを販売するビジネスが中心であるのかどうか、個人的に興味があるところです。誤解を恐れずに言えば、ユーティリティコンピューティングの本格的な拡大によりビジネスモデルそのものが変わってくる可能性があります。
これまでは販売パートナーやユーザー企業に製品を納めて代金をいただいてきました。ところがユーティリティ形態が普及してくれば、ハードウェアなどの資産を当社が保有したままデータセンターに設置させてもらい、毎月の収益に応じて利益を、データセンターを運営するビジネスパートナーとシェアするモデルが考えられます。
──こうしたビジネスモデルは04年にすでに発表しています。
末次 確かにそうですが、これまではハードウェアなどをビジネスパートナーに売り渡していたのが実情です。最低限のコストで販売して、データセンターで運用して得られた付加価値の部分をシェアしていました。突き詰めていくとASPを立ち上げる初期コストすらも抑え、省電力などで運用コストを低減し、パートナーにしっかり稼いでもらう。その利益をシェアしていくことになるのかもしれません。
もしそうだとすれば、収益構造が大きく変化するので、現在に比べて売り上げが増えるかどうかは分からないにしても、より盤石な収益体質になることは確実だと思います。
My favorite 愛用のジッポーライターには「1932」と「1982」が刻印してある。日本IBMに勤めていた約20年前、出張先の米アトランタで購入。ふらっと立ち寄った名もない店で偶然見つけた。真鍮色のシンプルなボディーの輝きが一目で気に入った
眼光紙背 ~取材を終えて~
Javaに代表されるように自社で開発したテクノロジーを技術者が集まるコミュニティで公開し、共有する戦略を得意としている。「独占するよりも共有することで進化が早まる」と考えるからだ。
ウェブ2.0と称される次世代インターネット時代の到来により、ユーザーが一方的にコンテンツを引き出すだけの時代は終わった。ブログのような参加型コンテンツが急増している。
「参加・共有することで発展させる当社の企業文化は、時代を先取りしたもの」だと自賛する。場合によってはIBMやマイクロソフトなど競合他社と技術の共有を図ることもある。
「独占して、選択肢をなくしてしまった時点で進化が止まる。サンの企業文化はそういう状態を嫌っている」。
インターネット普及期の1990年代、同社は急成長した。ウェブ2.0時代、再度の躍進を目指す。(寶)
プロフィール
末次 朝彦
(すえつぐ ともひこ)東京生まれ。1978年、国際基督教大学教養学部理学科卒業。同年、日本IBM入社。99年、サン・マイクロシステムズ入社。取締役ソフトウェア&テクノロジー営業統括本部長。02年、常務取締役。04年、専務取締役営業統括本部長。06年4月、代表取締役社長に就任。53歳。
会社紹介
米サン・マイクロシステムズの2005年6月期連結売上高は前年度比約1%減の約110億ドル(日本円約1兆2700億円)。日本法人は同約706億円でほぼ前年並みだった。米本社の業績ベースでは05年6月期までの4期連続で赤字と厳しい状態だが、「伸び悩んでいるときこそ開発投資を削らないことが中長期的な成長に結びつく」(末次社長)と、次のステップに向けての試練だとみる。今年4月には22年間にわたって米本社の社長を務めてきたスコット・マクネリー氏が会長に退いた。国内では今年に入ってからは自社プロセッサのスパーク最新版とUNIX系OSのソラリスを搭載したサーバー製品の販売が好調で、これに加えて今年度(07年6月期)は省電力型プロセッサ「クールスレッズ」搭載サーバーの拡販を見込む。電力消費の増大に悩むデータセンターが主なターゲットになる見通し。