「巨人に挑み続ける一寸法師」。日本AMDトップのディビッドM.ユーゼ社長は自社をこう表現する。日本法人の設立から30年以上、巨人インテルに挑み続けきたAMDが2006年、エンタープライズ事業の強化を打ち出し、「年内にサーバー市場でシェア10%超え」という目標を明確に定めた。カギとなるのは、当然サーバーメーカーとのアライアンス。外資系との関係を強めつつ、日本メーカーに食い込むために、ユーゼ社長は着々と対抗策を遂行している。
ビジネスは「絶好調」信頼されるパートナーに
──グローバルでの実績に比べて、AMDの日本のサーバー市場におけるシェアは低い。この現状をどう受け止めますか。
ユーゼ グローバル市場では、ハイエンドやブレードサーバーでは50%以上、米国では4wayサーバーで45%のシェアを獲っています。それと比較すれば、日本のサーバー市場全体でのシェアはまだ数%ですから、確かに今は低い。しかし、このままでは終わらせませんよ。まずは年内にシェアを10%まで引き上げます。
──どう攻略していくと。
ユーゼ OEMパートナー(サーバーメーカー)とさらに緊密な連携を図っていきます。AMDの戦略は、「フォーチュン1000」にランクインするような大手企業のCIOやCTOが悪戦苦闘している問題を解決してみせることです。情報システムのTCO増加、電力消費量やデータセンターの維持コスト増大など共通の悩みがありますが、細かな部分で顧客企業の要望はそれぞれ異なります。NTTドコモが必要としているソリューションは、みずほ証券のそれとは違うし、日本航空とトヨタ自動車でも当然異なる。それぞれの顧客企業の要望に合わせたソリューションを提供するためには、サーバーメーカーとの協力が不可欠です。エンドユーザーは、AMD製品にサーバーという形で触れますからね。
AMDはOEMパートナーが、それぞれの顧客の要望に応えられるように各OEMパートナーの要求に合わせたソリューションや支援を提供します。そうすれば、OEMパートナーは顧客の要望に応えられるし、パートナーは他社との差別化も図れる。AMD製品を採用していないメーカーよりも競争優位に立てるよう連携を図っていくんです。
──社長に就任してからもうすぐ1年半が経ちます。パートナーとの連携も含めて、目標達成の手応えは。
ユーゼ ひと言でいえば、絶好調。私が社長になってAMDジャパンは、革命的な変化を遂げた。「Reinvent(再発明)」したといっても過言ではありません。CPUをただつくって売るだけでなく、ソリューションやセールスも手がけ、サーバーメーカーを支援できる会社に生まれ変わることができたと自負しています。
──うまくいっている具体的な例とは。
ユーゼ 「ビジネスディベロップメントエグゼクティブチーム」と呼ばれる専任チームの立ち上げがあります。この組織はサーバーメーカーのビジネスチャンスを見つけてくるための専門組織です。AMDのCPUを使ってくれるOEMパートナーのエンタープライズシステムを、AMDジャパン自らがエンドユーザー企業に提案し、案件発掘に結びつけようと活動しています。現在のAMDジャパンの重点施策と位置づけ、要員も1年前の1人から、現在は10人にまで拡大しました。来年末には20人体制を計画しています。
──日本IBMとは今年8月、販売目標や案件情報を共有する共同営業チームを立ち上げるなど、親密さを印象づけました。他のメーカーでも同様の展開があると。
ユーゼ 「ある」というより、現実にかなり進んでいる。一緒にイベントを開催して共同プロモーションを行う。コールセンターのトレーニングも手伝う。当然、一緒に話をしたり、食事をする機会も増えましたよ。
ただ、各OEMパートナーのニーズやビジネスモデルに合わせて、当然協業内容を変えています。IBM、日本ヒューレット・パッカード(HP)、サン・マイクロシステムズ、デルなどそれぞれ戦略は違う。NECや日立製作所、富士通も違うでしょう。パートナーの考えは、十人十色。AMDジャパンは、あくまでOEMパートナーのそれぞれの戦略に合わせた協業内容を考えています。
小さな体で巨人に挑む 国産サーバーへの搭載も
──テクノロジーの面で、AMDを使うことでのサーバーメーカーの優位点は。
ユーゼ 1つの例として、「Trrenza(トレンザ)イノベーション・ソケット」という新技術があります。これは、複数の異なるプロセッサを、単一のプラットフォームに搭載することを可能にするテクノロジーです。「Opteron(オプテロン)」のソケット情報を開示することにより、「SPARC(スパーク)」などサーバーメーカーの独自のプロセッサと連携させることが可能になります。
──今AMD製品を搭載しているのは外資系メーカーだけですよね。日本のサーバーメーカーはAMD製品を使っていない。日本でのシェア獲りのカギは、国産サーバーへの搭載ではないですか。
ユーゼ とても重要なことですが、AMDが日本のメーカーよりも海外勢を優先しているわけでは決してないということです。これまでの歴史で、日本メーカーが「オプテロン」ベースのサーバーを開発してこなかっただけです。AMDジャパンは今、日本のサーバーメーカーに何とかAMDを使ってもらおうと日々頑張っています。日本メーカーが当社の製品を使うことで、成功し収益を上げる仕組みづくりに情熱とエネルギーを注ぎ込んでいます。
──日本のサーバーメーカーがAMD製品を搭載する可能性はありそうですか。
ユーゼ 先ほどの「絶好調」という言葉が、その答えです。ひたすら頑張ってきたことがようやく実となり、収穫の時期を迎えることになるかもしれません。日本企業は、常に革新的で世界を牽引しているリーダーです。そして、AMDに対しては、日本企業からもCPUのリーダーだと認識してもらっているはずです。仮想化技術とかオプテロンのパフォーマンスなどで。AMDがリーダーであり続ける限り、日本のサーバーメーカーもAMDと仕事がしたいと感じてくれるはずです。
──AMDの戦う市場には、トップに座り続けるインテルがいます。
ユーゼ AMDは「一寸法師」に例えられると思うんです。小さな体で巨人に挑む一寸法師に。この精神はコーポレートアイデンティティでもあります。相手よりも俊敏に、そして賢くビジネスを進めていく。そして、独占を打ち砕き、得られた果実をパートナーとユーザーとでシェアしたいですね。
──市場環境はどう映りますか。とくに64ビットの普及は大きなテーマかと思いますが。
ユーゼ 実際に全てのユーザーに使ってもらうのは、現段階では難があるでしょうね。32ビットのアプリケーションをマイグレートしなければならないことがユーザー企業にとって大きなネックになっている。ただし、自動車産業や航空・宇宙産業などのハイエンド分野については、64ビット化が進んでいると思います。金融分野でも徐々に使われ始めている。私は、64ビット化の波が本格的にくるのは、来年以降とみています。
──起爆剤になるのは。
ユーゼ 「Windows Vista(ビスタ)」の登場です。ビスタが登場することによって、32ビットから64ビット環境への移行が一気に加速すると感じています。AMDはだからこそ、迫りくる64ビット本格普及のタイミングに合わせて、マイクロソフトをはじめオラクルやVMware(ヴイエムウェア)、SAPやフェニックステクノロジーズなどのISVとの連携にも力を入れているわけです。
My favorite 愛用するスノーボード。スノーボードは、夫人と2人の子どもとの共通の趣味で、家族と一緒に雪山に行き、何も考えずに滑るのが楽しみという。日本では白馬がお気に入りとか。自宅には写真の板以外に20枚ものスノーボードがある。社長に就き、忙しさからゲレンデに足を運ぶ機会は減った。だが、「優秀な仲間とエキサイティングな仕事ができているからストレスはない」
眼光紙背 ~取材を終えて~
予定より15分遅れて始まったインタビュー。英語下手の記者は、米国人トップの取材では通訳担当者を通じて進めるため、“会話”には日本人が対象の時より時間がかかる。日本人へのインタビューよりも「時間は実質半分」の感覚で臨んでいる。
時間的な不安を抱えたなかでスタートしたが、その不安は一掃された。大半は通訳を通じ英語で話していたものの、熱が入ったメッセージになると英語が日本語に変わり、会話がスムーズに。
ただ、日本語が英語に変わるのなら分かるのだが、「日本語のほうが慣れているのか」と不思議な印象を受けた。インタビュー中は、「郷に入っては郷に従え」や「十人十色」など日本の諺と四字熟語を交える。名刺の渡し方もどこか日本人らしさを感じる。日本の商習慣を熟知しよう、そして日本人を分かろうとしている努力をさまざまな点で感じとった。(鈎)
プロフィール
ディビッド M.ユーゼ
(ディビッド M.ユーゼ)1966年8月、米アイオワ州生まれ。1988年、コンチネンタル銀行入行。90年9月、デロイトトウシュトーマツインターナショナル入社。その後は10年以上にわたり、無線通信業界の数社で要職を歴任し、03年10月、デル日本法人入社。エンタープライズ営業本部グローバルグループ部長に就任。05年5月、日本AMD代表取締役社長に就任。米AMD上席副社長も兼務する。
会社紹介
親会社の米AMD(カリフォルニア州)は、1969年設立の半導体専業メーカー。モバイルPC、PC、サーバー/ワークステーション向けプロセッサなど複数のブランドを持つ。従業員数は全世界で約1万人。06年第1四半期まで11四半期連続前で年同期比20%以上の成長を遂げている。日本法人は75年設立。従業員数は約70人。
最近では、米本社が今年7月カナダの画像処理チップ大手のATIテクノロジーズを約54億ドルで買収した。06年第4四半期中に買収完了の予定で、従業員は約1万5000人規模となる。
最大のライバルであるインテルに対しては、05年6月、独占禁止法違反行為による損害賠償の請求訴訟を日本でも2件提起した。