システム開発系SIerのアイエックス・ナレッジが業績を順調に伸ばしている。製造、販売、調達の一元管理に向けた製販一体の事業部体制の徹底で、利益を拡充する体制が整ったためだ。次のステップは、売上増による企業規模の拡大。システム案件の受注先であるITベンダーのなかで取引額の高い企業と関係を深め、大規模プロジェクトを増やしていくほか、子会社の合併による事業領域の拡大でグループ経営の強化に力を注いでいる。安藤文男社長は、「3年後には、売上高200億円とともに、経常利益10億円を達成できる」と自信をのぞかせる。
製販一体の事業体制で 不採算案件の払拭へ
──今年度中間期は増収で黒字転換の見込みですね。しかも、期初予想を上回ることになる。業績が順調に伸びた要因は。
安藤 昨年度に導入した「製販一体の事業部体制」の効果が出ているためです。この体制で、営業担当者は利益の追求を念頭におき、無茶な案件を受注しない。開発担当者は、受注の見積額を超えない開発を徹底する。こうした意識の改善が図れるようになりました。
システム開発事業は、不採算案件の発生が業績に大きな悪影響を及ぼします。その案件が大規模プロジェクトで多くの人員を割いた場合は、ほかの案件を受注できないという事態が発生し、二重の機会損失になる。したがって、受注段階で絶対に失敗しないことが必須になります。営業と開発が連携を取り、受注会議でしっかりと検討する。これが、売り上げ・利益ともに増加した要因です。
それに、景気がよくなり、案件数が増えていることも大きく寄与しているといえます。
──課題と捉えている点は。
安藤 利益の成長に比べて売り上げが伸びていないことです。これまでは、利益の確保を最優先し不採算案件を受注しないようにしていました。売り上げが伸びても利益がとれないという状況よりはましですが、やはり売り上げの増加につれて利益が増える形が望ましい。製販一体の事業部体制を築いて“筋肉質”になった。今後は、中長期的な視野で売り上げ増による利益拡大を追求していきます。
──今年度下期に実施する強化策は。
安藤 受注先の上位20社の取引額を高めることです。売上全体の75%程度を占めていますが、これを早急に80%まで引き上げます。
上位20社を分類すると、大手のメーカー系グループ会社とユーザー系SIerで占めています。これらの企業から依頼される案件は大規模なプロジェクトが多いため、売り上げ増につながります。これまでは、大規模なプロジェクトが不採算案件に陥ることを考えて避けてきたケースもあった。しかし、製販一体の徹底で今では営業と開発ともに不採算案件になるかどうかを見極める能力が備わっています。そこで、上位20社とさらに良好な関係を築き、優良顧客として確保することが売り上げを増やす策と考えたのです。
──今後、新規には受注先を開拓しないのですか。
安藤 もちろん新規開拓はしていきます。しかし、それは長期的なビジョンですね。実は、アイエックスと日本ナレッジインダストリが合併した1999年、新規開拓に専念していた時期もありました。実際、口座を開いた企業は増えた。しかし、現在では取引を頻繁に行う企業が限られています。そのため、当面は優良得意先との関係強化が重要と判断しています。
──最近、ASP型モバイルマーケティングや、セキュリティ関連eラーニング、IT内部統制コンサルティングなど、サービスを増やしましたね。どのような効果があるのですか。
安藤 一般的なサービスとして体系化することでコスト削減につながります。
提供しているサービスは、これまで手がけてきた案件のなかでニーズが多かったために製品化しました。例を挙げると、ASP型モバイルマーケティングサービスは、東京都の第3セクターに提供し、ほかの団体からも要求があった。結果、27団体に導入しました。ニーズが高いものに関しては、プラットフォームの共通化で低コストで提供できる。サービスの体系化は、あくまでもシステム開発の延長です。現段階では、決して儲かっているとはいえませんが、サービスを体系化することでユーザー企業の獲得も図れます。
システム開発市場は拡大 売上高200億円を狙う
──システム開発の需要動向については、 どうみていますか。
安藤 法人市場を中心にシステムのリプレースが活発化しており、この状況が今後2─3年は続くのではないでしょうか。私がこうした見方をするのは、複数の成長要因があるからです。
要因の一つは、メガバンク化を中心に金融機関や証券会社でITシステムへの投資意欲が高いこと。もう一つは、携帯電話や銀行ATM(現金自動入金・支払機)、自動車の組み込みソフト開発に対するニーズが依然として高いこと。最近では、企業データの大容量化にともない、ストレージ機器に関するソフト組み込みの需要も増えています。さらに、法人市場で内部統制を切り口とした引き合いが出ていること。08年に施行予定のJ─SOX法に向け、コンサルティングからシステム構築までの要求が多くなるとみています。
──懸念材料はありますか。
安藤 IT特需に対応する人員が足りないことです。受注したはよいが開発人員が足りないというのでは品質の高いシステムやサービスを提供できないことになる。そこで、中国企業とアライアンスを組んでいます。
オフショア開発のために中国企業を使うベンダーは多いのですが、当社の場合は開発の質を高めるために提携しています。人材に関していえば、中国ではITが人気産業の一つです。しかも、ベンチャー企業は知名度を上げようと必死です。そこで、ベンチャーのなかでも成長することに意欲的な企業と組み、共同でPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を実施したり、コスト削減策を練ったりしています。当社にとっては、人手不足が解消できる。中国企業にとっては、ブランド力が上がる。双方にメリットのあるアライアンスだと自負しています。すでに15社以上と提携しており、売り上げ全体の4億円程度が中国企業を活用した開発になっています。今年度の売上高は6億円程度になる見通しです。
──独立系情報サービス会社である、ときわ情報と、子会社のアイ・ティ・ジャパンを来年4月に合併させる狙いは。
安藤 グループ全体の総合力を高めていく“連峰経営”の実現です。合併は、企業規模の拡大に有効な手段です。
アイ・ティ・ジャパンは、原子力分野の解析やシミュレーションといった特殊技術をベースに、研究機関などへの科学技術計算システム構築を得意としています。一方、ときわ情報は製造や流通、金融向けなどにアプリケーションソフトを開発しています。両社の顧客は全く異なっているので、研究機関に対してアプリケーションサービスを提供したり、金融向けに計算機システムを提案するなど、合併で事業領域が広がると判断しました。
両社の売り上げを単純合算すると25億円規模になります。これを、初年度となる来年度は30億円に引き上げます。
──当面の数値目標は。
安藤 売上高200億円が一つの到達点です。2010年度の達成予定でしたが、少し早まりそうです。というのも、今年度通期が08年度の計画に達する見込みだからです。ですので、3年以内に200億円を達成します。もちろん、売上規模の拡大で利益も増やす。最低でも、経常利益10億円を目指します。
My favorite 1979年に米国で購入したウィルソンブランドのゴルフパター。「27年間、パターはこの一本だけ」という。ハイスコアの継続に寄与している逸品だ。手に馴染んだパターだけに、グリーンでのパットを外した際、「パターのせいにできない」のがちょっぴりつらいところだそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長に就任したのは、「売り上げ200億円規模の企業に成長させるため」だという。しかし、「単に売り上げを伸ばせばいいというものではない」と判断。まずは、利益確保の体制を整えることに専念した。これが功を奏し、「利益を出せる“筋肉質”な企業になった」と自負する。
「売上規模の拡大を加速させる」と打ち出したのは、命題達成の機が熟したということだ。「これまでは、地道にこぢんまりとビジネスを手がけてきたが、これからはスケールにこだわり、少しアグレッシブに事業を展開することも必要」。新サービスへの着手や子会社の合併などは、売上規模の拡大を図る経営戦略の一環といえるだろう。
07年は、“飛躍”の年という。これまでは、基盤を整えることで「進化してきた」と振り返る。今後は、売り上げ200億円の達成に向けて「ジャンプするのみ」と構想を語る。(郁)
プロフィール
安藤 文男
(あんどう ふみお)1955年6月23日生まれ。神奈川県横浜市出身。79年、関東学院大学経済学部卒業後、アイエックス(旧データプロセスコンサルタント)に入社。取締役として米国駐在を経験。常務取締役や代表取締役副社長などを経て、96年に代表取締役社長に就任。99年、日本ナレッジインダストリとの合併にともないアイエックス・ナレッジが誕生、代表取締役副社長を経て、01年、代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
アイエックス・ナレッジは1999年、コンピュータ運用業務受託のアイエックスとソフト開発を手がける日本ナレッジインダストリの合併で誕生した。
今年度中間期は連結業績が売上高で83億6500万円(前年同期比6.2%増)と増収、経常利益は2億9700万円(前年同期は2億4200万円の赤字)、純利益は1億7000万円(同3億8200万円の赤字)と黒字に転換する見通し。期初予想の売上高82億5300万円、経常利益1億5700万円、純利益7200万円を上回ることになる。中間期が計画値以上に伸びたことから、売上高165億3200万円、経常利益6億3700万円、純利益3億4900万円と見込んでいた通期の連結業績を、売上高で172億9200万円(前年度比5.6%増)、経常利益で前年度の6.5倍にあたる8億3700万円、純利益4億7400万円(同34.3%増)と上方修正した。
業績が順調な要因は、主力事業のシステム開発で製販一体による収益責任体制を導入、利益率が高いシステム案件の獲得を徹底したため。不採算案件の撲滅につながったという。また、グループの相乗効果で同社や子会社の事業基盤を強固なものにする“連峰経営”を確立しており、企業規模の拡大に力を注ぐ。