ネットワーク系SIerのネットマークスが事業領域の拡大に踏み切った。コンピュータとネットワークを融合させたソリューションや新サービスの提供を図っている。新技術の開発にも力を注ぎ、他社に先行したい考えだ。国内ネットワーク機器市場が厳しいなか、同社も業績不振が続く。新市場への参入や新規事業の着手で、早急な増収増益の体制整備を目指す。大橋純社長は、「当社が持つノウハウの結集で必ず業績向上を果たせる」と断言する。
減収減益の打破へ 組織の再編を断行
──昨年6月の社長就任から、これまでを振り返り、どのような状況だったと認識していますか。
大橋 残念ながら、業績に関しては順調だったとは言いがたい状況です。昨年度は、増収だったものの大幅な減益で、計画値にも及びませんでした。ですので、今年度は是が非でも業績を向上させなければならない。
──今年度第1四半期についても、前年同期より売り上げが下がり、赤字幅も広がっています。立ち上がりの評価は。
大橋 計画値ベースでは達成しています。年度の前半が厳しいのはこれまでと変わりません。実は、今年度中間期までは赤字の見通しです。しかし、昨年度後半から今年度前半にかけて、さまざまな体制強化を図りました。これまでの取り組みが今年度後半から実を結ぶと確信しています。
──具体的に実施した体制強化策は。
大橋 多岐にわたる取扱製品やサービスのラインアップを生かすため、今年4月に「アドバンスドソリューション事業部」を新設しました。この事業部を中心に、さまざまな分野でトータルソリューションを提供することに力を注いでいます。ネットワークをテーマに自社のノウハウを結集する。これにより、新規顧客の開拓や既存顧客の掘り返しを徹底的に行っていきます。
当社では現在、「ネットワークとコンピュータの融合」「新サービスの創造」「顧客ベースの拡大」の3項目を掲げ、新規事業に着手することを進めています。アドバンスドソリューション事業部は、各事業部を横断的に包括する組織ですので、新しい事業領域を開拓するカギにもなります。
──アドバンスドソリューション事業部を通じて開拓した、新しい事業領域はすでにありますか。
大橋 「ネットワークとコンピュータの融合」のカテゴリーでいえば、アイデンティティ管理市場です。日本オラクルと提携しました。オラクルのアイデンティティ管理ソフトをベースに、当社のIPテレフォニーやVPN、ワンタイムパスワードなどの製品を組み合わせて提供する。こうしたソリューションについて、大規模案件の引き合いが金融機関から出ています。こんな状況ですので、新しい市場での事業拡大に手応えを感じています。
──サービス分野では、どのような新規事業に着手したのですか。
大橋 今年4月から、ホテルや病院、教育機関、マンションなどを対象に、ASP型のビデオ・オンデマンド配信サービスの提供を開始しました。任意のコンテンツを任意の時間に視聴できるサービスで、システムで提供していたものを、ユーザー企業が月額料金で手軽に導入できるようにサービス化したものです。現段階では、賃貸マンションのデベロッパーと商談が進んでいます。また、以前から取り組んでいるネットワークセキュリティ分野での遠隔監視サービスやコンサルティングなどもニーズが高まっています。
当社では、サービス事業の売上比率が全体の17%前後ですが、粗利率が高いので、利益確保に大きなメリットをもたらします。ある競合他社ではサービス事業の売上比率を25%程度にすることを目標に掲げています。ネットワークインテグレーションとアプリケーションサービスを提供している企業では、30%以上を占めているケースもある。新しいサービスを創造すれば、当社でも売上比率をもっと高められるだろうと読んでいます。
──「顧客ベースの拡大」で取り組んだことは。
大橋 今年2月に日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)と共同出資で「日本テレコムネットワークシステムズ(JTNWS)株式会社」を設立しました。JTNWSは、ネットワークインテグレーションを軸に、ICT(情報コミュニケーション技術)プラットフォームの提供やWAN事業、LAN構築などを手がけています。当社にとっては、日本テレコムの既存顧客に対してネットワークを構築できるようになる。加えて、JTNWSとの連携でICT事業を手がけることが可能になりました。事業領域を拡大できる点でも大きな取り組みだったといえます。
技術リソース集約で他社に先行して開発
──今年度下期にはどのような強化策を打つのですか。
大橋 今年度前半までは営業面での強化が中心だったといえます。今後、事業領域の拡大や新サービスの創造を加速するためには、技術面での強化も欠かせない。その一環として、これまで事業部ごとに設けていた技術部を、10月1日付で「技術本部」として統合しました。事業部の連携を深め、トータルソリューションの提供を拡大するという狙いがあります。
当社では、産業別に事業部を設けているのですが、独立性が強いために技術を共有するケースが少なかった。そこで、技術リソースを集約し、さまざまなニーズに対応できる開発体制の整備が重要だと考えました。
ほかにも利点があります。技術リソースの集約で取扱製品の取捨選択が行えます。事業部の独立性が強いと、顧客ニーズに応えるために取り扱っていない製品を新しく仕入れてしまう傾向が強い。しかし、ほかの事業部の技術を活用すれば、新しく製品を仕入れなくても済むケースもあり、取扱製品の在庫過剰を防止できる。
さらに、人員の効率化にもつながります。技術を結集すれば、技術担当者はさまざまな開発に携わるようになり、スキルアップを図れるはずです。
──営業と技術の連携が薄まるという懸念はありませんか。
大橋 確かに、それは乗り越えるべき壁といえます。しかし、各事業部のなかに技術面から営業を支援する担当者を配置していますので、連携が薄まるという問題は起こらないと思います。他社に先行する新しい技術を生み出すため、まずは技術本部の設置が最適だと判断しました。
──新しい技術を開発しなければ、生き残れないということですね。
大橋 その通りです。国内ネットワーク機器市場は、L2/3スイッチを中心にハードウェアの価格下落で、厳しい状況が続いています。台数は伸びても、金額は伸びない。過去5年間で、製品価格が半分近くに下がっているという調査結果もあります。
一方、アウトソーシングやセキュリティ関連などニーズが高い分野は市場規模が拡大しており、今後も成長が見込まれています。事業拡大に向けた組織の新設や、新技術を生み出すための技術本部の設置は、成長市場に参入するための布石です。ノウハウを結集し、ニーズが高いソリューションの提供を拡大できるようになれば、必ず業績アップの成長軌道に乗れると確信しています。
──将来的な数値目標は。
大橋 中期計画として08年度までに売り上げで900億円、営業利益で36億円を掲げています。昨年度は売り上げが592億5100万円、営業利益が11億4300万円でしたので、3年間で売り上げを約1・5倍に、営業利益を3倍以上に引き上げる計画です。もちろん、確実に達成させます。
My favorite ジョン・ケネス・ガルブレイス著の「ゆたかな社会」。学生時代、理系専攻だったものの、経済に関心が高かったことから購入。資本主義の矛盾について知識を得たかったという。この本を読み返すと、「当時の日本は、“モノのゆたかさ”が必要だった。現在は、“心のゆたかさ”が重要なのではないか」と考える時もあるそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
1997年の設立から04年度まで業績が順調に推移していたネットマークスが、昨年度に初めて大幅な減益という不振に陥った。社長就任の初年度ということからも厳しい船出だったといえる。
ネットワーク機器市場は、ハードウェアのコモディティ化や競争激化によって、需要の冷え込みが生じている。「こうした市場環境の落とし穴を乗り越えるだけのパワーが不足していた。真のソリューション提供者になるためには、市場開拓の“仕組み”が必要だった」と振り返る。
課題を解決するため、ベンダーとの提携強化や組織再編を実施した。
ネットマークスは07年3月で設立から丸10年を迎える。「節目ということもあり、“第2発展期”と位置づけたい」。第2ステージの07年度から一段と飛躍できるかどうかは、これまでの強化策がいかに効果を発揮するかにかかっている。(郁)
プロフィール
大橋 純
(おおはし あつし)1945年3月20日、東京都生まれ。67年3月、東京大学工学部計数学科卒業。69年3月、同大学院修士課程を修了後、同年4月、日本電信電話公社(現・NTT)に入社。米国ニューヨーク駐在事務所調査役などに従事する。89年2月、NTTデータ九州支社長に就任。NTTデータで取締役経営企画部長、常務取締役産業システム事業本部長などを経て、02年2月、NTTデータシステムズ代表取締役社長に就任。03年1月、NTTデータ三洋システム代表取締役社長に就任。05年6月、ネットマークス代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
ネットワーク構築や運用管理などを手がける会社として1997年3月に設立。スイッチやルータなどネットワーク機器の販売に加え、ストレージやIPテレフォニー、セキュリティなどのシステム・サービスも提供している。
今年度第1四半期の連結業績は、売上高が88億3500万円(前年同期比14.1%減)、営業損失が14億7500万円(前年同期は6億7100万円)、経常損失が15億2300万円(同6億8000万円)、最終損失が9億2700万円(同5億8200万円)。主力製品であるネットワーク機器の価格下落が業績不振に大きく影を落としている。中間期も赤字の見通しを立てている。
しかし、昨年度後半から今年度前半にかけて組織再編やITベンダーとの提携などを進めてきた。こうした強化策が今年度後半から効果を発揮するとみている。そのため、今年度通期では、売上高690億円(前年度比16.5%増)、営業利益15億7000万円(同37.4%増)、経常利益14億円(同39.7%増)、最終利益5億3000万円(同53.2%増)と増収増益を見込む。