開発ツールベンダーのマジックソフトウェア・ジャパンは、昨年6月にシステム統合ツール最新版を出し「インテグレーション事業」に参入した。頻繁になる企業システムのプロセス変更を低コストで柔軟にできる「EAI/BPMツールベンダー」として、国内SIerなどとパートナー連携を拡大しようとしている。日本ピープルソフトの社長などを経て、今年6月に就任した石垣清親社長は「SOA環境を実現する安価なツールで、SMB(中堅中小企業)市場を攻略する」と、これから本格的に勝負をかける方針だ。
スピード経営の時代に応じ、システム変更も迅速さが必要
──企業システムが複雑化し、EAI/BPMツールに対するニーズは高まる一方ですね。
石垣 その通りです。私どものビジネスに“追い風”が吹いてきたなと感じています。ここは、この風に上手に乗れるように舵取りしたい。“追い風”が吹いているなと感じるのは、1つにグローバル化する社会ニーズとコンピュータ、インターネットを含めたITの産物の変化が著しいことがあります。また、経営戦略がコンピュータに密着しているため、企業戦略に応じ、システムを大幅に素早く変えることが当り前になってきているからです。
──スピード経営を実践するうえで、マジックソフトのEAI/BPMツールがどう役立つのですか。
石垣 企業システムを素早く変えるに当たって、新システムの構築にも迅速さが求められますね。昔のように、いったん構築したシステムを10年以上にわたって大事に使うことはない。早いだけでなく、低コストでシステム変更することが求められている。それを、「Java」や「・NET」などの言語を使ってスクラッチ開発すると時間も労力もかかってしまいます。
普通の言語開発では、「要求定義」「全体設計」「部分設計」──を経て、「テスト」にこぎつける工程まで、莫大な時間と人件費を必要とする。場合によっては、「やってみなければ分からない」というケースがあり、再構築の危険性は常につきまといます。それに対して、当社のアプリケーション開発ツール「Magic eDeveloper」は、企業にヒアリングをしながら、モノによっては、プロトタイプを翌日に仕上げることができる。企業側の「仕様」が明確でない場合は、プロトタイプを見せながら、コンサルティング段階から、エンドユーザーの要求を明確化できる。これができるのは、マジック製品以外、私は知りません。
──ここ数年、SIerと企業側の仕様の行き違いなどで、「赤字プロジェクト」が相次ぎましたが、これをも解決できるのですか。
石垣 当社のツールを使えば、システムを納めた時に、極力行き違いを無くすことができる。過去に私もERP(統合基幹業務ソフト)製品を担いでいた1人ですが、その際は、「ベストプラクティスです」と言って、企業の業務をERPに合わせるよう説明してきました。マジックソフトに移り、いま考えてみると、それは現実的でないことに気づきました。
IT投資ができる「元気な会社」ほど、独自の業務フローやノウハウを持っているのに、それらをパッケージに押し込むのはおかしい。仮にメインフレームであろうと、戦略的に重要なシステムであれば、そういう既存IT資産を生かすべきでしょう。もちろん、ウェブアプリケーションなどを作り込む必要性は出てきますが、それをどう上手につなぎ込むかが重要になる。その際に、当社のシステム統合ツール「Magic jBOLT」を使えば、手間隙かけず、インテグレーションできます。
──単にシステム間の連携ということであれば、他のEAI製品でも構いませんよね。
石垣 「Magic jBOLT」には、ただたくさんのアダプタが付いているというだけでなく、それ自身に業務フローの要素があり、つなぎ込む際に業務フローを埋め込めるのです。そこが大きく違います。
──話を聞く限り、利用がもっと急拡大しても不思議ではないツール類と思うのですが。
石垣 社長に就任する際、親会社であるイスラエルのデイビット・アシアCEOにマジックのツール類を紹介してもらったが、他のEAI製品に比べ、性能が高いのに、価格が一ケタ安いので、「価格戦略を間違えている」と指摘しました。だが、「マジック製品は中堅中小企業向けなので、価格的に十分アフォード(余裕)がある」(アシアCEO)というのです。これは面白いなと思った。
「Magic jBOLT」は、日本のキーベンダーと呼べるSIerなど50社前後にパートナーとして取り組んでもらっている。各パートナーの強い領域を上手に組み合わせ、中堅中小企業市場をまだまだ掘り起こせると思います。
名高いSIerと手を組み、導入事例を積み重ねていく
──昨年6月には、「Magic jBOLT」の新製品を出し、「インテグレーション事業」に本格参入しました。
石垣 私自身が初めて紹介された「Magic jBOLT」は「バージョン1・5」でした。ただ、これは、“マジックの世界”に閉じこもっている製品だったのです。今の「同V2・5」をリリースして、完全に外の世界である「ノンマジック」のインターフェイスをつなぐことができるようになった。このビジネスが本格的に始まったのは今年。これまでの間にSAPの中小企業向けERP「SAP Business One(B─One)」用のアダプタを実装し、国内でB─Oneとマジックの製品を利用してシステム提供するパートナーは十数社に拡大しました。
すでに、ビジネスとしてパートナーが受注しているので、今後面白い展開になりますよ。SAPジャパンが成功するうえで、当社と一緒になることが一番いいと自信をもっています。B─Oneがほかのアプリケーションと連携することで、付加価値を生む。当社製品でそこをつなぐ意義は大きいでしょう。
──ただ、B─Oneは、「Magic jBOLT」などが無くても、他のアプリケーションとつなぐことはできますよね。
石垣 おっしゃる通り、無くてもつなぎ込むことはできる。ただ、どれだけ時間がかかるのか疑問です。B─One以外の接続するアプリケーションが変更されたら、またやり直しすることになる。接続の相手は、アプリケーションを含め箱モノなどが混在し、その間のインターフェイスをどうつなぐか問題になる。
「Magic jBOLT」は、その際にうまくつなぐいろいろなアダプタをもっていることが強みです。これからの企業は、変更が柔軟なシステムをもっているべきなんです。
──最近では、マジックソフト製品を「SOA環境で既存システムを統合するツール」ということを声高に叫んでいますね。
石垣 複数のユニットを疎結合して、あるアプリケーションのパフォーマンスを多少落としてでも、「再利用」を念頭に置いた作り方がSOAの構想です。元々、マジックソフトの考え方は、そこから離れていません。SOAというコンセプトが出てきたことで、当社のレポジトリのような製品が非常に受け入れやすく、馴染みがよく、違和感がない。
──ビジネスを加速するうえで、パートナーは欠かせませんが、どう広げますか。
石垣 俗に言う「メインフレーマー」が昔のマジック製品(現「eDeveloper」の前版「dbMagic」)を利用していたように、もう一度戻ってきてもらうのが最も早く拡大できる。ただ、いきなりは無理ですね。その間にワンステップを入れたい。
実際、都築電気や富士ゼロックスなどと、J─SOX関連で「Magic jBOLT」上にアプリケーションを開発するなど、導入事例が広がっている。ネームバリューのあるパートナーのソリューションと一緒に、具体的な事例を見せていくことで、アライアンス先をどんどん広げたい。
My favorite スイス伝統の機械式時計メーカー「UNIVERSAL」製の腕時計。石垣社長の義父が世界中を飛び回っていた1945-55年頃に欧州で購入し、身に着けていたのを、30年前、「結婚祝いに」と譲り受けた。「コンピュータのビジネスと比べると何とも言えない味わいがある」と、毎日、身に着ける。ソフトベンダーの社長として活躍しているが、元はエンジニア。やはり、繊細な技術を駆使した逸品には、目を引かれるようだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
外資系ITベンダーの役員を歴任した社長--。そんなイメージが先行していたため、社長就任時の取材前、「どんな、こわもてのヒトか?」と少し気後れしていた。しかし、実際に会ってみると、淡々と論じる穏やかな口調に安堵したものだった。
就任して間もなく、ハードウェアを備えた検証施設「コンピテンシーセンター」を設置。その理由について石垣社長は、「プロダクトを磨くためにもパートナーとの連携は不可欠」と説明する。外資系ITベンダーでありながら、国内事情に準じてパートナー戦略を仕掛けた前職の経験が生かされているようだ。
石垣社長のこれからの役目は、売上高の8割を占める開発ツールに加え、システム統合ツールを中核にした「インテグレーション事業」を船出させ、安定的に成長させることだ。それを後押しする“追い風”は「すでに吹いている」と、見通しは明るそうである。(吾)
プロフィール
石垣 清親
(いしがき きよちか)1944年3月生まれ。日本大学文理学部応用物理学科卒業後、工業用ベータトロン開発に従事。その後、渡米して研究用核融合炉トカマック用直流電源の開発、大型レーザー電源の設計に参画する。帰国後、外資系ベンダーのマネジメントに転身。レオメトリックスファーイースト、SASインスティチュートジャパン、スターリングジャパンの各日本法人社長を歴任。01年2月、日本ピープルソフトの社長に就任した。06年3月から現職。
会社紹介
マジックソフトウェア・ジャパンは1998年1月、イスラエル最大のソフト開発グループ「Formula Group」の傘下にあるマジックソフトウェア・エンタープライゼズの日本法人として設立された。親会社は、RADD(Rapid Application Development and Deployment=高速アプリケーション開発・実行)の開発ベンダーとして知られ、国内市場では「dbMagic」という製品が浸透した。「eDeveloper」(「dbMagic」)を含め、導入企業はツムラなど約2万4000社、クライアント導入本数は累計45万本に達する。
現在、同社の主力で国内に1000社以上のソリューション・パートナーがあるアプリケーション開発ツール「eDeveloper」は、「dbMagic」の後継製品。04年6月には、EAI/BPMツールの中核製品としてシステム統合ツール「Magic jBOLT」を国内市場に投入し、「インテグレーション市場」へ本格参入した。
「Magic jBOLT」最新版の「同V2.5」は、コンポーネントとしてSAPの「SAP Business One」用アダプタを実装。また、IBMのIAサーバー「System i5」上で稼働する「Magic jBOLT」の提供を予定。同サーバーのOS上のネイティブタスクとして稼働する唯一のインテグレーション製品となる。日本法人の全国拠点は、主要9都市にある。