Linux用の国内バックアップ/リストア(データ復元)ソフトウェアで圧倒的なシェアを誇るバックボーン・ソフトウエアは、SIerと強力に連携する「日本的な販売手法」で市場拡大を狙う。昨年5月に就任した大越大造社長は「統合的にストレージを管理する分野を開拓する」と、同社の親会社が提唱する「インテグレーティド・データ・プロテクション(IDP)」を、日本の商流に応じ日本市場に定着させようと、「プリセールス」などを徹底し、パートナー連携の強化を最優先に考えている。Linux市場だけでなく、ウィンドウズ市場に向けた同社の展開に注目が集まっている。
バックアップを軸に、横展開を図っていく
──1998年に日本市場に参入して以来、国内のバックアップ/リストア(データ復元)ソフトウェア市場で、順調にシェアを伸ばしています。今後、この市場でどのように勢力を伸ばしていきますか。
大越 バックアップソフト市場とストレージ管理の市場をあわせると、各種調査機関のデータでは、国内の伸びは年率10─15%になっています。これまで当社は、バックアップソフトをポイントにビジネスを展開していました。これから将来に向けてターゲットとするのは、昨年6月に販売を開始したリプリケーション(データ復元)ソフト「NetVault Replicator」など、統合的にストレージを管理するソフトで市場を開拓します。
──シマンテック(旧ベリタス・ソフトウェア含む)と日本CAが主な競合ベンダーになりますが、どのように対抗していきますか。
大越 ここ数年間、バックアップソフトに注力し、全世界で知名度を高める取り組みをしてきました。おかげさまで国内でもLinux市場でシェアが70%以上に達するなど、短期間で目に見える成果を出せています。国内IT業界の皆さんに「NetVault」というブランドは、しっかり浸透したと思います。将来的には、このブランド力を背景に競合他社がやっているような、製品の「横展開」をしたいと考えています。ただ、上流から下流までの製品群をすべて供給するというわけにはいきませんが、注力する製品をきちんと選定し、細かいサービスがユーザー企業に供給できる範囲内で製品を展開していきます。
──「横展開」とは、どういうことですか。
大越 例えば、企業システムでバックアップだけをしているユーザー企業は、あまりありませんね。バックアップをするうえで、付随してリプリケーションやアーカイブ、CDP(Continuous Data Protection=記憶装置に書き込まれるデータの更新内容を常に監視・保管する)といったニーズがあります。
すでに、バックアップ/リストアソフト「NetVault Backup」が国内企業に多く導入されています。そうした既存ユーザー企業に加え、新規に導入する企業に対しても、「NetVault Backup」をベースに、それに付随するプラスαのソリューションを提供していくことを考えています。「横展開」と申し上げているのは、代理店を増やすということでなく、既存の導入企業数を維持しつつ、顧客の選択肢が増えるようにすることです。具体的なソリューションは、これから順次提供していきますが、パートナーのSIerにしてみれば、商流が1つ増えることになります。
──昨年6月に新シリーズとなるリプリケーションソフトの日本語版を出した際には、「新たな市場を獲得する」と宣言されていましたね。
大越 当社にとって、リプリケーションソフトはまだまだこれからの市場になります。これまで、市販のリプリケーション製品はハードウェアベンダーが、ストレージやサーバーに組み込み販売していた。しかし、高価なため、ユーザー企業の敷居を低くするうえで、ハードを新規に購入せず既存システムに導入できるリプリケーションソフトとして提供しました。この形式で扱う同ソフトの市場はかなり伸びると思いますよ。
SIerの役割は大きい 連携して案件を獲得する
──親会社の米バックボーン・ソフトは、データプロテクションに関する統合的なシステム・サービスを提供する「インテグレーティド・データ・プロテクション(IDP)」をコンセプトに事業拡大を推進していますね。
大越 このコンセプトが先ほどの「統合的にストレージを管理する」ということの最終型になります。基本的には、いまあるバックアップソフトを軸にアーカイブ、CDPを1つのエンジンで統合管理することです。現在提供しているのは、これらがインディビジュアル(個々)に存在していますが、そうではなく、1つのエンジンにすることで、バックアップのなかでデータのファイル情報などを、CDPやアーカイブなどに連携でき、操作を一元的に行うことができるようになります。
ユーザー企業にとっては、「NetVault」シリーズの各ソフトをバラバラに使ったり、管理していますので、使い勝手をよくすることを最大限考慮したコンセプトといえますね。
──この「IDP」を日本市場で本格的に展開するためにも、「日本的な販売手法」をいま以上に取り入れるんですね。
大越 どうしても、当社のような外資系ベンダーですと、世界がベースなので、日本側の要求がすべてではない。世界でデファクト(事実上の業界標準)のモデルであっても、日本に持ってきた場合に、「ちょっと違う」ということが多々あります。特に、日本市場はSIerという特殊な業種が強い。欧米では直販のハイタッチで製品を拡販し、サポートもダイレクトでやっている。
日本の場合は、その流通過程に必ずSIerがかかわります。なぜかというと、ユーザー企業はシステムを自社だけで管理する企業が少なく、SIerがこの部分に関与しているからで、SIerの助言・提案がかなり重要になります。ですので、日本法人としては、SIerと密に連携して案件をクローズ(成約)することが、いままで以上に大事になると考えています。
──具体的に何を変えるんでしょうか。
大越 メーカーである当社がSIerと一緒に案件を提案する活動を拡充します。今年からは、提案段階で当社のSE(システム・エンジニア)が同行する「プリセールス」などをメーカーとしてより充実させます。これを実施することで、SIerの利益を伸ばす活動ができ、将来的に当社の利益も拡大すると考えています。欧米では、直接当社の営業がクロージングしているので、日本のこの取り組みは、日本の商流の実態に即した独自の販売手法といえます。
──新たなパートナー制度をつくるということですか。
大越 特に、名称をつけた新制度を立ち上げるわけではありません。ただ、パートナーのSIerから見れば、当社のSEをより使いやすくなります。SIer側で要していたSEの工数が減ることを期待してください。
──「NetVault」はLinux市場では圧倒的なシェアを獲得しています。ウィンドウズ市場でのシェア拡大が課題ですね。
大越 そうですね。UNIX市場は全体的に低下していますが、ウィンドウズ市場向けは、日本法人設立当時から実績が落ちることなく、順調にシェアを伸ばしています。ただ、ウィンドウズ市場に関しては、「ストラテジック・アライアンス・パートナー」と呼ぶサーバーやストレージなどを販売するメーカー系列のベンダー経由で販売を伸ばすことが、今後の課題になるでしょう。いまの手ごたえからすると、ブランド力と実績が上がり、そろそろこれまでのアライアンスが実を結び、成果が出る段階にきているとみています。
──米本社が米サン・マイクロシステムズと世界的な販売契約を結びました。
大越 ステップアップのいい機会になりますね。サンは、競合の旧レガート製品をOEM供給し、旧ベリタス製品をリセールしています。サンがバックアップソフトを新たに投入するのは、約10年ぶりです。近く、世界的でサンのディストリビュータやリセーラーから当社製品の流通が始まります。国内では4月頃から具体的な拡販が開始されますが、期待が大きいです。
My favorite6年前、バックボーン・ソフトがまだ小さい頃、展示イベントでかぶるために作った自社ロゴ入りの帽子。どこの製品かは不明だが、何かといえば着用している。例えば、ゴルフのプレー中やホノルルマラソンに完走した時にもかぶった。年季が入り、汚れているが、愛着があるという
眼光紙背 ~取材を終えて~
「大越大造社長」が誕生する1年ほど前から、「シニア・セールスディレクター」の立場で何度か取材に応じてもらった。自社の製品知識だけでなく、日本や世界市場を熟知している印象をもっていたが、正直、社長まで上り詰めるとは予想していなかった。
外資系ベンダーといえども、トップに就任するのは40歳代に入ってからが“通例”と考えていたためだ。しかし、「日本法人設立に参画し、当初から経理の取り仕切りなどを任されていた」と、いまと変わらぬ業務や権限を当初からもっていたため、「肩書きが変わっただけで、特に変化はない」と、堂々たる姿勢をみせている。
福島県出身者といえば、語尾が上がる訛(なまり)が特徴である。だが、大越社長からこのイントネーションを聞くことはまずない。理路整然と語り、難しい製品群も分かりやすく説明する。今後の日本のIT業界を支える1人として期待できる。(吾)
プロフィール
大越 大造
(おおこし だいぞう)1969年1月、福島県郡山市生まれ、38歳。91年3月、山形大学工学部電子工学科卒業。同年4月、IT商社のデジタルテクノロジーに入社し、営業部に所属。98年2月、ネットボルト日本法人(現バックボーン・ソフトウエア)の設立に従事、セールスマネージャーに着任した。06年5月、シニア・セールスディレクターを経て、日本法人の代表取締役と米本社のバイス・プレジデントに就任した。
会社紹介
バックボーン・ソフトウエアは1998年2月、米本社の日本法人として、当時「ネットボルト」の社名で設立した。翌月には現社名に変更。これ以来、国内の大企業から中堅中小企業の環境で、データのバックアップ、リストア(データ復元)、ディザスタ・リカバリ(災害復旧)関連のソフトをOEMパートナーやSIerなどを通じ販売してきた。
現在の取扱製品は、バックアップ・ソフトの「NetVault Backup」やデータ復元ソフト「NetVault Replicator」、ストレージ監視/レポート・ソフト「NetVault Report Manager」がある。
国内の同社製品は、Linux市場で70%以上に達している。今後は、ハードウェアを販売するベンダーとの連携してウィンドウズ市場を開拓することが課題になっている。
他の外資系ベンダーと異なり、日本の売上比率は世界の20%以上と高く、日本市場を重視している。日本法人は設立から毎年、売上高増加が年率35%以上の成長を遂げた。今年度(07年3月期)も、前年度比25%増える見込み。