業界トップクラスの利益率を誇る日本システムディベロップメント(NSD)が、年商500億円突破に向けて動き始めた。顧客を大切にし、慎重なうえにも慎重さを重ねてソフトをつくってきたが、これだけでは売り上げが頭打ちになるのはみえている。不採算案件を防ぐ基盤をより強固なものに仕上げ、そのうえで新規顧客の開拓に乗り出す。エンドユーザーからの元請け一括受注を通じて「NSDの名を顧客内に轟かせろ」--冲中社長の大号令がかかる。
垂直と水平のクロス戦略 “一生客”の創出に注力
──特定大口顧客への依存が大きすぎませんか。ここ数年、売上高は回復基調ですが、今後、頭打ちになることも考えられます。
冲中 確かに過去を振り返ると連結売上高400億円前後で推移してきました。優良顧客との信頼関係を重視するあまり、営業力や提案力が他社に比べて弱い側面もある。新規顧客を開拓する仕組みを、どうつくりあげていくかが今後の課題です。
──売り上げの拡大に目を奪われると、足元で不採算プロジェクトを発生させる懸念もあります。その点については。
冲中 実は2003─04年にかけて不採算案件に苦しみました。このときばかりは連結経常利益率が10%くらいまでに下落。以来、再発防止策の柱としてプロジェクトマネージャー(PM)のスキルアップに力を入れてきました。新日鉄ソリューションズの常務時代に品質管理を担当していた経験から、まずはPMの実力を高めることが不採算案件を抑止する最重要ポイントだと分かっていたからです。
プロジェクト管理の国際資格のPMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)の習得を奨励し、これまでに約120人が認定を受けました。来年度(08年3月期)末までには累計200人に増やす計画です。
──不採算案件が発生しても経常利益率10%というのは驚きです。大手SIerを見渡しても5%程度が多いのが実情です。利益を生み出す構造はどうなっているのですか。
冲中 ここ数年は改善しつつあることから今年度は18%を見込んでいます。私もこの会社にきて、利益率の高さに正直驚きました。利益率の高さは当社のブランド価値を支える原動力のひとつです。優良顧客にしっかりと張りつき、品質の高いソフトをつくる。直近のソフト開発における外注比率も単体ベースで約16%と低く、内製を重視しています。よくみると、一般的に利益率が低いとされる他の大手SIerとは、ビジネスモデルが全然違うことが分かる。
たとえばERP(統合基幹業務システム)パッケージを販売しているSIer。彼らはA社に納品したら、次はB社へ、C社へと次々と横展開していきます。拡販がうまく続けばいいのですが、そうでないとシステム構築を担うSE・プログラマの稼働率が下がり、トータルでみると採算性が悪くなります。
このように横展開していくビジネスモデルを“水平型”と呼ぶならば、当社は顧客と一体となって開発を進める“垂直型”のビジネスモデルです。69年に大阪で創業したときからの顧客である三和銀行とは、長年にわたって信頼関係を築いてきました。金融再編で三菱東京UFJ銀行になりましたが、今でもシステム開発の主要メンバーとして活用していただいています。
ほかにも冷凍食品、通販、製薬、建設などさまざまな業種大手の顧客と深い関係があり、当社では生涯にわたっておつき合いさせていただく“一生客”と呼ばせていただいています。
「冲中塾」で社員に伝える 元請けの重要性とリスク
──「一生客」をどれだけ多く持てるかが売り上げ増のカギになりそうですね。
冲中 そう生半可なことではありません。エンドユーザーから一括して請け負うわけですから失敗すれば信頼を失います。「築城3年、落城1日」です。
問題プロジェクトを発生させてしまった教訓を生かし、見積もりを顧客に提出する段階からプロジェクトを監視するワークフローシステム、通称「社内OA」を独自に開発しました。外注の承認、顧客の与信限度枠の設定、決裁権限の明確化など社内OAを使って一元的に管理しています。
──エンドユーザーから元請けで受注する比率はどれくらいですか。
冲中 5年ほど前までは元請けの比率が半分もなかったのですが、年ごとに数ポイントずつ上昇させてきて、今年度は受注金額ベースで66─67%に達しそうです。「NSDの名を顧客内に轟かせろ」と幾度となく社内に大号令をかけてきた成果が徐々に現れてきました。大手同業他社からの下請けでは、NSDの名が顧客の中で轟くことはありません。元請けになってこそブランドを生かせます。
元請けで一括受注することの大切さ、またそのリスクについて幹部研修の「冲中塾」を通じて直接伝えるよう努めています。当社で実際に発生した生々しい失敗事例が教材です。プロジェクトが終わると「完了報告書」を作成する決まりになっていますが、報告書という形式にまとめてしまうと、どうも義務的にやるだけで心に届きにくい。ならばというので、失敗経験を題材にして大いに議論しています。
──プロジェクトを管理するスキルを高めることが、新規顧客の開拓に欠かせないということですか。
冲中 そうです。これまで垂直型で伸びてきた会社ですが、これからは垂直型にクロスさせる形で水平型のビジネスも伸ばしていく必要があります。独自に開発した商材や海外から仕入れてきたソフトパッケージをベースに新規顧客を開拓する。そして一生客になってもらうよう元請けの一括受注を通じて誠心誠意仕事をする。クロス戦略を推し進めることで売り上げ、利益ともに伸ばします。
新日鉄ソリューションズは水平を得意とし、垂直もできる会社でしたので、どうすればいいのかは心得ているつもりです。
一例として、約3億円をかけて開発した大手鉄道会社の勤怠管理システムをがあります。年中無休の鉄道会社で従業員を効率よくシフトさせながら管理する仕組みで、とても高い評価を得ています。他社への販売も可能な契約ですので、横展開できるケースです。
北米の拠点では売れ筋のパッケージソフトをいち早く見つけ出して、国内に販売してきました。セキュリティベンダーのマカフィー製品を最初に持ってきたのも当社です。ただパッケージのライセンス販売が“一生客”の増加に必ずしもつながっていなかった点は反省すべきです。これからは開発部門とソフトプロダクトの販売部門をもっと緊密に連携させて、新規顧客の開拓を加速させる方針です。顧客基盤を持った企業のM&Aも視野に入れます。
──中期的にはどのような方向性を示しているのでしょうか。
冲中 08年度(09年3月期)までの3か年中期経営計画では連結売上高500億円、営業利益率15─20%をイメージしています。やり遂げるには既存顧客との関係をさらに強めながら、クロス戦略で新規顧客を積極的に取り込む。元請けとして顧客との信頼関係を築き上げて優良顧客になっていただく。このことがNSDのブランドに磨きをかけ、高成長、高収益に結びつくと考えています。
My favorite使い慣れた新日鉄ソリューションズの手帳に挟んだ愛猫ルイコの写真。今年で10歳になる。チンチラで女の子。「寝るときもいっしょ」というほどの“ネコ可愛がり”ぶりだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
締めるところは締めて、奮い立たせるところは奮い立たせる--。これが冲中流だ。
SIerのアキレス腱とも言える不採算案件を徹底的に防ぐ仕組みを構築。ワークフローを整備し、幹部研修の冲中塾では過去の失敗事例を教材として、生々しい教訓を各人の頭に焼き付ける。
一方で、入社3年目の若手社員と気軽にランチミーティングを行ったり、社員食堂を新設して業務が終わった後は酒も飲めるようにした。社内の卓球大会にも自ら出かける。
「この業界は人がすべての財産。いかに育てるかで競争力がまるで違ってくる」
独立系、オーナー系の企業はトップダウンになりがちだ。同社にもそういう傾向があった。「社員はトップの生の声を聞きたがっている」と強く感じた。組織や研修の仕組みだけでなく、社員と直接言葉を交わし合うことがやる気を引き出す。(寶)
プロフィール
冲中 一郎
(おきなか いちろう)1947年、兵庫県姫路市生まれ。京都大学大学院工学研究科修了。71年、新日本製鐵入社。93年、新日鉄情報通信システム広畑システムセンター所長。99年、同社取締役。01年、新日鉄ソリューションズ常務取締役。03年、日鉄日立システムエンジニアリング常務取締役。04年4月、日本システムディベロップメント入社。営業統括本部付顧問。同年6月専務取締役。05年、取締役専務執行役員営業統括本部長。06年4月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
独立系の中堅SIer。今年度(2007年3月期)の連結売上高は前年度比6.7%増の417億円、営業利益は同17%増の74億円、経常利益は同16.7%増の75億円の見通し。営業利益率は18%近くに達する見通しで、業界トップクラス。事業セグメントは全体の9割近くを情報サービスが占め、ソフトウェアプロダクトは7%強の見込み。業種別の売上高構成比は、今年度中間期の単体ベースで金融業34.2%、サービス業33.7%、製造業23.8%と金融業の比率が比較的に高い。グループの社員数は約3700人。08年度(09年3月期)までの3か年中期経営計画は連結売上高500億円、営業利益率15-20%を目標とする。