マクデータとの統合で再スタートを切った“新生”ブロケードコミュニケーションズシステムズ。SAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)市場では、国内外ともに他社を寄せ付けない圧倒的な地位を築くことになったわけだが、決して現状に甘んじていない。次のステップは、ファイル管理の新しいフレームワーク「FAN(ファイル・エリア・ネットワーク)」の製品・サービス提供で新市場を確立すること。櫛見剛社長に国内事業の可能性を聞いた。
統合後の組織は万全 理想的な体制を構築
──今年1月に米本社によるマクデータの買収が完了、日本法人も本格的に統合しましたね。国内体制に問題はありませんか。
櫛見 “新生ブロケード”として幸先のよいスタートが切れています。厳密にいえば、ほとんどの旧マクデータ社員が当社に移籍しました。実は、これまでライバルだったのでうまくいかないのではと危惧していたんですよ。ところが、案に相違して非常に仲が良い。考えてみれば、社員同士はお客さんのところで同業者として頻繁に会っていたんですよね。ですので、気心が知れているし、勝手が分かっている。それに、業界を活性化したいという気持ちは、どの会社にいても変わらない。また、最近では両社ともシスコシステムズさんをはじめとした大手ネットワーク機器メーカーを意識していましたので、非常に仲間意識が芽生えています。その仲間意識によって、体制はさらに強固なものとなった。今後は、積極的なビジネスを手がけることができます。しかも、統合後はロゴのカラーをアグレッシブな雰囲気を醸し出す「赤」に変えましたしね。
──どのような組織にしたのですか。
櫛見 基本的に大きく変えていませんが、出身企業の分け隔てなく、能力が発揮できる部門に各社員を配属させています。マクデータを買収したからといって、上下関係が出るような組織体制はよくありませんから。当社では、“吸収した”という言葉を使っていません。統合で相乗効果が発揮できる体制を徹底しました。
具体的には、これまでのビジネスに旧マクデータが得意としていた事業を組織として追加したことになります。旧マクデータの社員はハイタッチ営業が非常に優れている。そこで、ワールドワイドでユーザー企業に直接アプローチする組織を設置しました。この分野は、これまで当社が弱点だったところです。また、日本では欧米と比べ災害対策へのニーズが高いことから、オリジナル組織として旧マクデータが買収したコンピュータ・ネットワーク・テクノロジーの部隊を組織化しています。システムエンジニアやサービスに関しては人員増による強化に加え、技術ノウハウの拡充が大きい。
事業を拡大していくうえでは、理想的な組織になりました。業績をさらに伸ばしていけるどうかは、(経営者である)私の技量に委ねられたということです(笑)。
──そうなると、当面は抜本的な再編の必要はないということですね。
櫛見 組織のフレームワークという点では万全です。ただ、一段と筋肉質な企業に成長していくために、人員の増強や異動などを実施していきます。また、社員のマインドをさらに高める取り組みは継続して行っていきます。
「顧客の痒いところ」に着目 FAN関連のサービス提供
──事業拡大の強化策については。
櫛見 大前提なのが、パートナービジネスです。主力事業のOEMは、引き続きアライアンスパートナーとの協調関係を深めていきます。また、とくに力を入れるのがソフトウェアやサービスをハードウェアと組み合わせ、どのようにビジネスとして手がけていけるかです。軌道に乗せるため、当社にしか実現できないトータルソリューションを創造していきます。それには、マクロで顧客企業の立場を把握し、どのような製品・サービスが適しているのかを考えていかなければならない。しかも、社内をはじめ販売パートナーや顧客企業とのコミュニケーションを密にすることが重要になってきます。ありきたりなキーワードですが、「顧客の痒いところ」をみつけることがカギといえます。
──現段階での「顧客の痒いところ」は何ですか。
櫛見 J─SOX法が施行予定など法制度の点から、顧客企業は内部統制に対する関心が高い。一方、最も困っている点は、やはりランニングコストを含めたシステム投資額といえるでしょう。それに、システムの使い勝手についても、できるだけ利便性の高いものを求めています。しかし、市場に出ているパッケージソフトやサービスでは、求めているものと若干異なっている、価格が高いなどといった理由で、なかなかクリアに解決できていないのではないでしょうか。そこで、遅ればせながら当社でも内部統制関連ビジネスを拡大していきます。
──具体的には。
櫛見 最適な解決策として、FANという新しい領域で、さまざまなソリューションを提供していきます。FANは、ファイルデータ管理を体系化、ファイルサービスにおける共通基盤の構築を目的としています。これまでのファイル管理は、分散化されたLAN環境でファイルサーバーやNAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)などで行われていました。しかし、法規制をはじめ、データ保護やセキュリティ対策などの観点からフレームワークを見直すことが課題となっています。そこで、新しいフレームワークとして体系化されたのがFANです。当社ではFANを実現する製品が揃っている。これまでの分散化環境でも存在していた「ストレージデバイス」や「ファイルサービス」「クライアント」に加え、従来のフレームワークでは難しかった「ファイルエンハンスメント(ファイル制御)」や、「リモートデータアクセス」「グローバルネームスペース(すべてにまたがる単一の論理的な名前空間)」などでもソリューションを提供し、さらに高度なファイル管理環境を顧客企業が実現できるようにしていきます。
──FANは新しい概念であるため、販売代理店から「敷居が高い」などといった声はありませんか。
櫛見 確かに、新しい市場を創造することになりますので、そのような声があがる可能性はあります。そこで、まずは、ダイレクトハイタッチで市場を開拓していきます。当社の社員が吸い上げた顧客ニーズをベースに、適した販売代理店とともにソリューションを体系化するというサイクルを構築していこうと考えています。当面は、既存顧客からの情報収集がメインになります。
──FANのポテンシャルは、どのくらいのものですか。
櫛見 具体的な数値としては持っていませんが、国内では大きな伸びが期待できます。ワールドワイドでみると、米国のほうが市場の立ち上がりが早いといえますが、日本は緻密で信頼性のあるシステムを求める傾向が強いのでFANの概念がマッチしています。メリットを訴えていけば、必ずや早急に市場が立ち上がるとみています。
──SMB(中堅・中小企業)でもFANを導入するものなのですか。
櫛見 もちろんです。実際、ワールドワイドでは導入するケースが出ているんですよ。米本社では、「ブロケードセントラル」というコールセールス部隊を設置しているのですが、順調に案件を獲得しています。日本でもリソースが整えば、次のステップとして同じような仕組み作りを検討しています。
──今年度の目標は。
櫛見 売り上げは当面、成長率30%を維持していきます。早急に、現状の5倍程度の売上規模を達成したい。そのためには、成長率を下回らないことが必須です。外資系企業の日本法人は、よくワールドワイドで米国、欧州の次にくる3番手といわれていますよね。しかし、ブロケードのビジネスにとって日本はポテンシャルが大きい地域といえます。ですので、売上規模がメインの北米に続く2番手のポジションを獲得することが目標です。
My favorite 4年前に米国で購入したOKLEYブランドのサングラス。このデザインを選んだのは、「イチローが使っていたから」と、ミーハーな一面もみせる。今では、趣味のロードバイクのときに使う。週に1-2回は乗っているという。「1回あたり、最低でも40-50キロメートルは走っているよ」と、まだまだ若さがみなぎっているようだ。ちなみに、コースは「東京の名所」だそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
「強いてライバルとしてあげる企業は」という質問を投げると「まだまだ小さな会社ですので、当社から競合を名指しするのはおこがましい」と謙虚。しかし、「大手スイッチメーカーが当社と同じ方向に進もうとしている。また、製品面では競合するのはあるが、全体では当社を凌駕するベンダーは存在しないのではないか」と強気な発言も。所帯は小さいものの、大企業と比べて小回りがきく。しかも、どこにも負けない開発力がある。こういったニュアンスを匂わせているように感じた。
FAN市場の確立という新たなチャレンジ。早急な実現に向け、「先進的な製品を市場投入することはもちろんだが、ユーザー企業が導入しやすい環境を整えることが重要。一番大切なのは、販売代理店や顧客企業とのコミュニケーション」と、革新的な技術提供とアナログな関係を結びつける。ニーズ適応の製品・サービスの提供に余念がない。(郁)
プロフィール
櫛見 剛
(くしみ たけし)1960年、東京生まれ。84年、上智大学経済学部経営学科卒業。日本IBMやEMCジャパン、日本オラクルなどでフィールド営業や管理・経営に関わる業務に携わる。日本SSAグローバルで、常務執行役員として日本市場の法人向けサプライチェーン管理に関する新組織立ち上げの陣頭指揮を執る。06年9月、ブロケードの代表取締役社長に就任する。
会社紹介
米ブロケードの日本法人として2001年4月に設立された。ファイバーチャネルスイッチやダイレクタを中心にSAN関連ビジネスを手がけ、国内と海外ともにSAN市場でトップに君臨している。今年1月に競合企業のマクデータを買収したことで、ワールドワイドで約83%のシェアと圧倒的な地位を築いた。昨年度(06年12月期)の売上高はワールドワイドで12億ドル。FAN事業の本格着手でさらに成長を実現する方針。