システム開発のインプレスは、3年前に「連結会計パッケージ」市場に最後発ながら参入した。連結会計処理や法定開示書類の自動作成、印刷、金融庁のEDINET(電子開示システム)まで“一気通貫”ソリューションを提供できるのは、他のITベンダーになく、急速に業績を伸ばしている。創業者である江澤章社長は「今期(2008年3月期)は、売れに売れる年」と、ジャンプアップを宣言する。
連結会計パッケージはエンロン事件が契機に
──長年、システム開発と運用サービスを展開してきたインプレスが、3年前に連結会計パッケージのビジネスを始めました。背景には何があったのですか。
江澤 02年に米国で起きた「エンロン事件」を機に、監査法人が企業監査以外の業務を規制する動きが出たことで、連結会計パッケージを手に入れることになりました。
というのも、当時、新日本監査法人の「コンダクター」という連結会計パッケージを共同開発していたことが関係しています。「エンロン事件」などを受け、監査法人に対する規制の波が日本でも起き、同法人が「コンダクター」を手放さざるを得なくなったのです。その時、もっとも近い存在にいたのが当社なんです。そうした事情から「コンダクター」の製品・販売に関するすべての権利を買い取り、「連結会計パッケージ」のビジネスを開始することになりました。
──「コンダクター」を原点に、いろいろな改良を施し製品化した、と。
江澤 そうです。「コンダクター」に大幅な改良を加えて、いまの時代に即してWebサービス化し、新しい連結決算システム「iCAS(アイキャス)」として、04年から本格的な販売を開始しています。これまでに、新機能をどんどん付加してきており、100社程度に導入しました。「iCAS」のユーザー企業で最大手は、某メガバンクです。同行が昨年、ニューヨーク証券取引所に株式上場した際、バックグランドで採用されたのが「iCAS」なのです。
──連結決算を行う企業は限られているうえ、競合も激しい。あまり大きくない市場へ後発で進出しましたが、特徴のある製品でないと、厳しい戦いを強いられることになる。
江澤 「iCAS」は連結決算システムですが、もう1つ、決算情報法定開示書類を自動作成するシステム「iShotBox(アイショットボックス)」という国内初の製品を、昨年10月に出しました。こうした書類を作成するには、どこの企業も担当者は徹夜、徹夜の連続でしたが、業務改善に効果を発揮し、喜ばれています。
ユーザー企業が個別会計をするためには、どこのERP(統合基幹業務システム)を使っていても構いません。当社はインターフェースを持っています。ERPなどで生成したデータを「iCAS」に取り込み、そのデータを「iShotBox」に流し込むことで、有価証券報告書や決算短信、会社法計算書類の3点を自動的に出してしまうシステムで、競合他社と比べ、優位性があります。
──金融庁の電子開示システム「EDINET(エディネット)」へのアプローチも、競合他社に先駆けていましたね。
江澤 そうなんです。情報開示(ディスクロージャー)書類を印刷する宝印刷などとデータ転送のインターフェースがあります。印刷会社は、「EDINET」とXBRL(財務諸表などを記述するXMLベースの言語)でつながっています。連結会計のデータ作成から“一気通貫”ですべてを電子処理化したのは、業界初です。製品的に差別化できていますし、既存事業のシステム開発や運用サービスに加え、ネットワーク構築やコンサルティングも支援できます。かなり強みをもっていますよ。
関心高い内部統制 未開拓市場は潤沢
──「J─SOX法」の影響を受け、連結会計を行う企業は、内部統制を強化する必要がありますね。
江澤 それに関しては、毎月、セミナーを開催しており、多くの企業の担当者に参加いただいています。参加者の多くは、いまのシステムが償却期間を終え、「J─SOX法」への対応などの悩みも抱えていて、次期システムの早期導入を考えています。大手企業のなかには、一連の作業を、いまだにExcelベースでやっているところも少なくありませんから、未開拓の市場はかなりあるんです。
──つまり、対応が遅れている企業はまだたくさんあるということですか。
江澤 そういうことです。内部取引が少なければ、単純に合算して報告するだけで済むので、Excelベースでも十分対応できる企業は存在します。ただ、内部統制を強化することが求められ、「Excelベースで本当にセキュリティが守れるのか」といった問題が出る。そうなると、システム化をせざるを得ない。当社のセミナーに参加する企業では、そうしたことがキーワードになっているようです。 すでに、連結会計システムを導入している企業は、かなりあります。ただ、Excelベースで連結会計業務を行っている企業の多くは、個人のノウハウに依存する「属人的」な作業に頼っています。会計に強いはずの地方銀行でさえ、Excelベースで連結会計をしているところがある。某地方銀行では、連結会計の担当者がいったん定年退職したのですが、ほかの人では、この業務を任せられないため、その退職者を再雇用したと聞いています。
──そう考えますと、連結会計パッケージを出すタイミングが非常によかったですね。
江澤 ただ、「エンロン事件」を機に、パッケージを買いましたが、当時は、規制する制度もなく、内部統制を強化する風潮はまだ生まれていませんでした。当社は2011年までにIPOを目指していますので、むしろ、既存事業を展開するなかで、「どんな特色を出すか」と考えました。システム開発などだけではありきたりですからね。そんな模索をしている折り、タイミングよく新日本監査法人から話があったというわけです。
──一連の仕組みが競合他社に比べ、整っているようですし、「iCAS」などは売れに売れている状況ではないですか。
江澤 売れに売れたというより、今期は「売れに売れる」でしょう。連結会計パッケージを販売する営業マンが簡単に育成できると思っていませんでしたし、半年は体制整備に時間が必要と考えていましたから。本格的な拡販期として「照準」を当てていたのが、今期がスタートする4月1日でした。今期の業績目標は、全体で売上高が16億円、経常利益で4億円としています。このうち、連結会計パッケージに関する売上高は、5億円ぐらいを見込んでいます。
──国内の連結会計ソフトベンダーでは、どこを競合相手とみていますか。
江澤 新日本監査法人などが売っていた仕組みで、市場に連結会計の製品は出回っていましたし、当社がゼロからつくりあげたモノではありません。「コンダクター」は評判のよい製品でしたが、問題は高価だったということだけです。競合とみているのは、ディーバの「DivaSystem」と電通国際情報サービスの「STRAVIS」です。当社は後発ですが、「コンダクター」のネームバリューもありますし、勝ち残っていけると思います。
──「EDINET」やXBRLに早くから着目して、自社製品に組み入れています。ネットワーク構築も得意技ですから、システムと通信を融合したさまざまな展開ができそうですね。
江澤 当然、先を見越した長期的なビジョンはありますが、今の段階でどこまで断定的に言えるかどうか…。先ほど申しましたように、今期、売上高16億円で経常利益4億円の数字を達成できれば、いろいろな動きができるでしょう。当社が強い理由は、もともとのシステム開発という安定ベースがあり、連結会計1本で事業を展開してはいないことです。それだけに、収益を上げやすい仕組みになっていると自負しています。
日立製作所とは、同社の連結納税システム「C─Taxconductor」に絡み、共同セミナーを開催しています。この先、代理店販売も強化していきたいと考えています。
My favorite 今年4月に全社員(約150人)が参加する草津温泉での事業計画発表会で、「社員みんなからの誕生日プレゼント」としてもらったフェラガモ製のキーホルダー。「誕生日が近かったこともあり、宴会の席でもらったサプライズ・プレゼントだった」。“社員の心のこもった贈り物”として大事にしている
眼光紙背 ~取材を終えて~
インプレスの事務所に入る扉を開けると、着席していた社員が一斉に立ち上がり、「いらっしゃいませ」と元気な声で挨拶する。江澤章社長は「技術の前に人ありき」という信念にこだわり、人材を育成してきた。挨拶を受ける側は少し照れくさい感じがするが、爽やかな気分になる。
CSK(現・CSKホールディングス)に在籍していた当時、総帥の故大川功社長のもとで、IPOを経験した。「あの時は、自然と涙がこぼれた。あの感動をいまの社員に味わわせたい」。IPOの目的として、資金調達などは二の次、あとを継ぐ現社員に「資産を残す」ことが最大の理由だ。
若づくりで、とても55歳には見えない。柔らかな物腰で人当たりがよい。内面には社長としての厳しさを秘めているのだろうが、好感がもてる。インプレスという社名は「Impression(感動)」から命名したとか。この先も、社員と感動を求め続けるのだろう。(吾)
プロフィール
江澤 章
(えざわ あきら)1952年4月、横浜市生まれ、55歳。82年4月、関東学院大学電気工学部を中退。同年7月、コンピュータサービス(現・CSKホールディングス)に入社。84年10月、同社CS事業本部業務管理部部門長兼本部長室長。89年、鉄道電気設備の情報処理会社であるJECの常務取締役に就任。92年、放送関連会社、ハイビジョンコミュニケーションズの社長室長に着任。95年10月、インプレスを設立し現職に。
会社紹介
インプレスは1995年10月、江澤章社長が設立した。システム開発、運用サービス、コンサルティングサービスを事業の柱として受託ソフトウェア開発をしていたが、04年に新日本監査法人の製品を買い取り「連結会計パッケージ」事業を開始した。
主力製品は、04年に販売開始した連結決算システム「iCAS(アイキャス)」と昨年10月にリリースした決算情報法定開示書類自動作成システム「iShotBox(アイショットボックス)」。パッケージ提供にとどまらず、上流のコンサルティングからシステム開発・運用、ネットワーク構築の下流まで、“一気通貫”でソリューション提供できることを強みとしている。