JFEシステムズは、ビジネスモデルの変革を加速させる。親会社のJFEスチール以外の一般顧客を精力的に開拓、この10年間で売上高の約7割を占めるまでに拡大させた。独自パッケージを軸に食品業界向けの攻略を進め、JFEスチールの大型システム統合プロジェクトでは兄弟会社のエクサと協力して完遂、システム構築の実力を高めた。将来に向けてエクサとの経営統合にも意欲を示す。
売り上げ構成比が逆転 兄弟会社と統合に意欲
──JFEシステムズのビジネスモデルが大きく変わろうとしています。10年前は親会社のJFEスチール向けの売り上げが7割近くを占めていたのが、最近では3割にまで低下しました。
岩橋 意識的にJFEスチール以外の一般企業における顧客開拓に力を入れてきた結果です。この10年間で一般顧客向けの売り上げを2倍に増やしました。この分野の原動力になっているのが、自社プロダクトによる展開と大口顧客に密着するアカウント方式(1社1担当体制)の営業です。
自社プロダクトでは、食品メーカー向けの品質管理システムや内部統制の強化を支援する電子帳票システム、事業継続を確保するIT資産運用システムなどが有力商材に育った。製鉄所向けの情報システム構築などで培った当社独自の技術をベースに開発したもので、大手食品メーカーの品質管理システムの市場では当社のパッケージソフト「Mercrius(メルクリウス)」がデファクトスタンダードになっています。
アカウント営業では三菱東京UFJ銀行、トヨタ自動車、王子製紙などが大口顧客の上位に入ってきました。
将来的には一般企業向けのビジネスをさらに拡大させることで、JFEスチール向けの売上高は相対的に2割程度に抑えることを想定しています。
──旧日本鋼管(NKK)系のSIerで兄弟会社のエクサとの関係はどうなりますか。川崎製鉄とNKKは経営統合してJFEスチールになりましたが、それぞれの情報システム子会社が統合できていないのでは、ちぐはぐなままのような気がしますが。
岩橋 エクサについては、個人的には当社最大のM&A案件だと思っています。企業合併で要となる情報システムは、真っ先に統合すべきものです。
ただ、実際には両社がまったくバラバラで動いているわけではありません。2002年に経営統合したJFEスチールの基幹業務システムの統合プロジェクトでは、当社とエクサが全面的に協力しました。総投資額300億円、プログラム規模で2000万ステップという巨大なシステム構築を成功させた実績があります。
鉄鋼業の基幹業務システムとしては、世界で初めてJavaを中心とする全面オープン系のシステムに仕上げたのが特徴です。大手ITベンダーに依存せず、自力で開発しましたので、両社ともにそれぞれの固有技術として社内にノウハウを蓄積することができました。大型プロジェクトを推進していく力量は、一般顧客向けのシステム構築で大いに役立っています。
──岩橋社長の在任中に両社の統合はあり得ますか? 日本IBMが51%出資しているという事情から、時間がかかるという見方もありますが…。
岩橋 在任中の統合がまったくあり得ないわけではない。だからといって日本IBMに出資いただいていることについて、わたしがとやかく言う立場でもありません。株主が判断する事柄です。ただ、統合するメリットが大きいことも確かですし、徐々に環境整備が進んでいる手応えはあります。
年商1500億円余りある新日鉄ソリューションズは、ベンチマークしているライバル会社のひとつです。同じ鉄鋼メーカー系のSIerであり、学ぶべき要素が多くあるからです。仮に当社とエクサが合併すれば、年商規模は700億円程度。ライバルにはまだ及びませんが、エクサとは企業文化がかけはなれているとは思えない。先のJFEスチールの巨大プロジェクトを両社で完遂していることをみてもね。
売り上げ規模が大きくなれば受注体力もつきます。ネームバリューも高まりますし、個人的には統合に前向きです。日本IBMの持ち分が下がったとしても、ビジネスパートナーとしての関係は変わりません。その証しとして絶対的に過半数の株式が必要かといえば、昔はともかく、今は必ずしもそうではないような気がします。
食品と共通項を見いだす アライアンスを積極展開
──経営統合は今後の課題として残りますが、御社は御社で独自のビジネス展開によって事業拡大を図らなければならない、と。
岩橋 もちろんその通りです。このために自社独自のプロダクトの品揃えを増やし、アカウント営業を強化しているのです。
鉄鋼メーカーは原材料を混ぜ合わせて目的の製品をつくるプロセス型の製造業です。実はこのプロセスは食品メーカーと共通するところが多い。看板商品のMercriusはこの点にいち早く気づいてつくった自社パッケージ製品です。食品メーカー向け品質管理システムのヒット商材に育ちました。鉄鋼と食品は一見すると似ていないようにみえますが、業務フローの中身をみると意外に共通項が多い。
ほかにも鉄鋼メーカーで、金属を薄く延ばしてロール状に巻き取っていく仕組みは、製紙業界の技術を取り入れた経緯があります。このことは製紙業界ではあまり知られていなくて、先日も大手製紙メーカーの役員の方を親会社の西日本製鉄所にお連れしたところ、「うちのほしかった管理システムはまさにこれだ」と、システム構築の商談がスムーズに進むきっかけになりました。これは大口顧客向けのアカウント営業の事例です。
──これまで大手食品メーカーが中心ターゲットだったMercriusを中堅中小へと横展開したり、SaaS型サービスに対応させたりと、ひとつのプロダクトでも広がりが出ています。
岩橋 中堅中小企業向けの横展開では、食品業界向け販売管理システムでトップクラスの実績を持つ内田洋行と提携しました。今年4月から中堅中小向けに最適化した品質管理パッケージソフトを開発し、販売を本格化させています。当社は大手向けのアカウント営業は強いのですが、中堅中小向けの販売チャネルは弱い。両社の強みを合わせることで、中堅中小の食品業界向けITシステムのシェア拡大に弾みをつける考えです。SaaS型サービスでは、生協のコープさっぽろと協業しています。もともとは食品メーカー向けのシステムですので、スーパーなど食品の流通卸・小売業のノウハウや販路は十分ではありません。軸足は食品メーカーに置きつつも、コープさっぽろと組むことで相互補完し、SaaS型で食品流通向けに展開できる道が開けました。
食品の安全が強く求められていることもあり、引き合いはとても強い。オリジナルのパッケージソフトやSaaS型サービスは、損益分岐点を超えると粗利率がとても高くなります。今後もこうした収益モデルを積極的に増やしていく方針です。
──来年度(09年3月期)は中期経営計画の最終年度に当たります。数値目標はどうイメージされていますか。
岩橋 今年度の連結売上高は前年度比1.3%増の344億円、営業利益率は少し改善して4.3%を見込んでいます。現体制で当社の強みを伸ばせば、その延長線上に売上高370億円が見えてきます。ただ、売り上げ規模についてはM&Aもあり得ますので、現段階でどうなるかは、はっきり言えません。利益については強固な収益モデルをより多く打ち立てることで、JFEの冠を継承したSIerとして誇れる内容にしていきたいと考えています。
My favorite スペイン「LLADRO(リヤドロ)社」製の陶器人形。米国駐在中に贈られたのが収集のきっかけだとか。柔らかな表情で、癒されるところがお気に入り。いくつか揃えているそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
食品メーカー向け品質管理や電子帳票など、オリジナルのパッケージソフトをテンポよく打ち出せたのには裏話がある。食品向けなどはJFEスチールのプロセス管理システムの応用だが、電子帳票などいくつかのアプリケーションは、「ケガの功名だった」。
旧川崎製鉄時代、会社は経営多角化による売り上げ倍増計画に基づき、電機やコンピュータの専門知識を持った人材も多く採用した。彼らは新規事業領域へと「まるで“落下傘部隊”のように降下」した。
しかし、思惑通りにはいかず、当時の川鉄情報システムがIT系の人材を本体から100人規模で受け入れることになった。そのことが「結果オーライ」につながる。毛色の変わった人材が実はその後の主力商材になる「ソフトウェアプロダクトの開発に大きく貢献した」というのだ。
異質なものとぶつかり合ってこそ、創造性が触発される。そんな逸話である。(寶)
プロフィール
岩橋 誠
(いわはし まこと)1944年、中国・上海生まれの神戸育ち。67年、神戸大学経営学部卒業。同年、川崎製鉄(現JFEスチール)入社。鉄鋼の製造工程管理を11年余り担当。2回にわたって計6年間の米国駐在。97年、取締役。00年、常務取締役。03年6月、川鉄情報システム(現JFEシステムズ)社長就任。
会社紹介
JFEスチール系のSIer。今年度(2008年3月期)の連結売上高は前年度比1.3%増の344億円、営業利益は同14.9%増の14億7000万円を見込む。売上高の内訳はJFEスチール向けが26.7%、一般企業向けの個別システム開発が50.9%、独自パッケージソフトなどプロダクトベースのシステム構築が22.4%を占める見通し。食品メーカー向け品質管理や製造業向けサプライチェーンマネジメント(SCM)など、強みを生かすことで事業拡大を進める。日本IBMとJFEスチールの共同出資によるSIerのエクサとは、JFEスチールの大型システム統合プロジェクトで協力した実績がある。