東洋ビジネスエンジニアリングは、グローバル進出を加速させる。製造業をメインターゲットとする主力のオリジナルERPを軸に、グローバルでのサプライチェーン管理(SCM)やSOA(サービス指向アーキテクチャ)ベースのシステム構築で強みを発揮する。これにともない、自社ERPのアーキテクチャも大幅に刷新する。持ち前のエンジニアリング力を生かし、アジア各国に生産拠点を展開する顧客企業のニーズを取り込むことでビジネス拡大を目指す。
グローバルSCMで強み アライアンスも積極的に
──主力のオリジナルERP製品「MCFrame(エムシーフレーム)」を軸としたアジア進出が好調ですね。
千田 グローバル展開とSCM、SOAの3本の基本路線を掲げて、今、まさに製品開発に磨きをかけているところです。
MCFrameは製造業をメインターゲットにしたERPです。顧客企業の多くは中国やマレーシアなどアジアに生産拠点を持ち、情報システムも必然的にグローバル対応が必要になってきます。多通貨・多言語への対応はもとより、グローバルで統一したシステムを使えるようウェブやSOAへの対応を急ピッチで進めています。
大手製造業はそれなりにSCMがしっかりしていますが、中堅製造業は弱い傾向があります。在庫削減やジャストインタイム(JIT)の観点からSCMは製造業に欠かせない仕組みであり、ここをカバーしていくことでシェア拡大を図れる。生産管理系に強い国産ERPで、SCMをしっかりサポートしているパッケージ製品は他にないと自負しています。
──MCFrameはアーキテクチャの見直しに取り組んでいると聞きます。
千田 従来はクライアント/サーバー型(C/S型)がメインでしたが、これでは世界で共通のシステムを使うのに不都合なことが多い。ウェブに完全対応させ、かつSOA準拠にすることで、柔軟なシステム構築を可能にします。まずは販売・物流部分のSOA対応を2008年度上期(4─9月期)には完成させ、来年3月末までには主力の生産管理部分をSOA化させる予定です。
SOAについて当社はビジョナリーで、業界に先駆けて取り組んでいます。04年の段階でSOAに関するナレッジベースの蓄積をスタートし、社内組織のSOAコンピタンスセンターもつくった。SAPやオラクルなど当社が取り扱うERP製品も、盛んにSOA対応を始めていますので、こうした製品のシステム構築でもノウハウを蓄積してきました。
こうしたノウハウをMCFrameにも生かしていくことで、競争力ある製品づくりを進めていく考えです。
──アジア展開を加速させるM&Aやアライアンスも強化しているということですが、具体的に教えてください。
千田 昨年5月に海外対応型会計パッケージソフト「A・S・I・A(エイジア)」を、提供元のエイジアン・パートナーズから事業譲渡してもらいました。また同じ年の10月には中国に進出している日系企業をターゲットとしたグローバル連結会計システムの販売で、SIerのアイティフォーやISV(独立系ソフトベンダー)のディーバなどとアライアンスを組んでいます。
MCFrameは会計機能を持たないため、これまで国産の中堅企業向け会計ソフトなどを組み合わせてきました。しかし、製造業の多くは生産拠点などをアジアで持っており、国内用に設計された会計ソフトが使いづらいケースが目立っていました。この点、A・S・I・Aは当初から海外対応を前提につくられていますので、MCFrameとの親和性が高い。
折しも、国内では内部統制の強化が避けて通れない課題となっていますので、グローバル連結会計システムでアライアンスを組みました。当社はA・S・I・Aを軸とし、アライアンス先の各パートナー企業は、たとえば自動連結決算システムやセキュリティ、中国の財務会計に関するコンサルティングなど提供。お互いの強みとなる商材やサービスを持ち寄ることでグローバル連結会計にかかわる顧客企業の課題をトータルに解決しています。
エンジニアリング力生かす 競争激化、不採算で苦戦も
──ただ、そのMCFrame関連で今年度は期初予想を下方修正するなど苦戦している様子がうかがえます。
千田 上期(07年4─9月期)は、MCFrameの一部プロジェクトで不採算が発生するなど苦労しました。SAPやオラクルは大手企業が顧客となる比率が高いのですが、MCFrameでは準大手や中堅企業の比率が高い。このレンジは大手に比べて予算や納期が厳しいケースがあり、この領域でのビジネスの難しさを改めて知る結果となりました。ERPパッケージの導入も顧客によっては2回目、3回目になっており、10年前のERPの導入ブームのような成長期ではなくなっています。限られた市場を奪い合う競争の激化にも打ち勝っていかなければなりません。
──SIer同士の合併・再編が相次ぐなど、SI業界における大手集約が進んでいます。御社は事業規模では小さい印象を受けるのですが、どう対抗していきますか。
千田 今期連結売上高の見通しで130億円ですから、確かに年商規模では小さいほうです。しかし、当社は自身を“スーパーニッチ”であると捉え、大手SIerにはない強みを発揮しています。製造業向けERP構築では誰にも負けない。この分野ではプライム(元請け)になる実力がある。“ニッチプライム”という言い方もしています。
大手SIerがゼネコン化するなかで、そうした方向とは違う価値を発揮する。実際に当社の業態をみてみるとSIerというよりはコンサルティングファームに近い。もともと東洋エンジニアリングから独立した会社ですので、最適な部材を組み合わせて新しい価値をつくりあげるエンジニアリングのDNAを持っています。製造業をITの側面から支援するコンサルティングファームで、かつエンジニアリングのアプローチで最適なシステムを構築する。こうすることで十分な差別化が可能だと考えています。
──それでも不足する部分はアライアンスということですか。
千田 そうです。製造業で実績の多いSAPやオラクルの構築では実績がありますし、MCFrameやA・S・I・Aの分野でも先のグローバル連結会計のようなアライアンスも積極的に進める。国内ISVが製品の相互連携を通じて海外展開や国内ビジネス基盤の強化を推進していく団体・MIJS(Made In Japan Software Consortium)にも参加しています。SOA化によって、従来にも増してさまざまなサービスを組み合わせられますので、当社のエンジニアリング力を生かせる分野も広がります。
──東洋エンジニアリングから独立してもうすぐ10年です。今後の見通しは。
千田 そうですね。人間の成長過程でいえば10歳になろうとする時期。難しい年頃です。独立時に入社した社員で熟練度が高まっているものの、今期の成績を見てみるとプロジェクト管理が十分でなく不採算プロジェクトを抱えてしまった。スーパーニッチで伸びていくためには、プロジェクトマネジャー(PM)の教育など人材育成により力を入れていく必要があります。
99年の設立時は115人のメンバーで始めましたが、今は450人ほどに増えました。ただ協力会社の人員数はそれほど増えていない。現在の社内外のメンバー総員約1000人の内訳でみると社員の比率は大幅に高まっています。社内はコンサルティングやSEがメインであって、実際のプログラム開発は協力会社にお願いすることが多い。これは当社がコンサルティングやエンジニアリングを重視しているからです。今後もこの路線を貫いていくことで、09年度(10年3月期)には連結売上高150億円、営業利益率7%をイメージし、ビジネス拡大に努める方針です。
My favoriteミュージカル「オペラ座の怪人」のチケット。仕事が一段落したときに演劇を鑑賞するのが楽しみだそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
「ビジネスエンジニアリングの本質は、顧客と課題を共有すること」と説く。しかし、実践するのはなかなか難しい。「個性重視できたからなのか、社員の共有・共感する体験が減っている」のも要因のひとつだとみる。
「感性を磨くことを怠らず、顧客の課題を敏感に感じ取ることが課題共有につながる」とし、人材育成では「共有・共感できる力」を重視する。共感できるようになれば、「驚きや感動を顧客にもたらすこともできる」。
東洋エンジニアリングから独立して10年がたとうとしている。「人間にたとえれば幼少期から青年期に入る大切な時期」。これまでは親会社の支援を受けてきた側面があったが、「これからは違う」。
「顧客と課題を共有する感性により磨きをかけ、ビジネスエンジニアリング会社として大きく羽ばたいていく」構えだ。(寶)
プロフィール
千田 峰雄
(せんだ みねお)1948年、岐阜県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。同年、東洋エンジニアリング入社。97年、経営計画本部事業開発室長。99年、東洋ビジネスエンジニアリング設立。同社SAPセンター長。00年、取締役。01年、常務取締役。02年、社長就任。
会社紹介
エンジニアリング会社の東洋エンジニアリング・産業システム事業本部だった1993年に国内で初めてのSAPをベースとしたシステム構築を手がける。99年に独立。01年、オラクルEBSベースで国内初のSCM連携統合を実現。自社オリジナルの製造業向けERP「MCFrame」と合わせて製造業の基幹業務システムの構築で実績多数。今年度(08年3月期)連結売上高は一部不採算案件の影響もあり、前年度比3.6%減の130億円、営業利益は同58.8%減の2億4000万円の見通し。