2007年8月、記録メディアメーカーの米イメーションがTDKの記録メディア販売事業を取得。日本法人は08年1月にTDKマーケティングと経営統合し、新たなスタートを切った。同じビジネスエリアでしのぎを削ってきた両社が手を組む狙いは何か。市村操社長は、「イメーション」と「TDK」ブランドを併用することで、「1+1=2」以上のシナジー効果が発揮できると断言する。
TDKの販売会社と統合 弱みを補完できる関係に
──親会社の米イメーションがTDKの記録メディア販売事業を取得し、それに伴い日本法人はTDKマーケティングと統合しました。狙いは何だったのですか。
市村 お互いの強みを生かして、弱いビジネスを補完できる関係だからです。
イメーションとTDKはともに、CDやDVD、フラッシュメモリなどの記録メディアと、LTO(磁気テープ記憶装置)などのデータストレージの開発・販売を手がけています。この分野で手がけるビジネス領域はほぼ同じですが、強みと弱みが違うんです。イメーションが得意なビジネスはTDKが不得意で、逆にTDKの強い分野はイメーションが弱い。お互いが組み合わされば、記録メディアとデータストレージでもっと強力な企業に発展すると判断したわけです。
──イメーションの強みと弱みは。
市村 強みから話すと、米3Mから分社・独立して誕生したイメーションは設立以来、法人向けのデータストレージ関連商品に焦点を当ててきました。データストレージ用磁気テープにはとくに強く、米調査会社のレポートで、イメーションは世界シェア24%を握るトップメーカーです。米IBMと米サン・マイクロシステムズの記録メディア関連製品は、独占的にイメーションが販売する契約をグローバルで結んでおり、IBMとサンのシェアを足せば40%に達します。日本市場でいえば、LTOテープカートリッジで06年24%のシェアを誇ります。この分野で、イメーションはそこそこのポジションに立つことができたといえるでしょう。
ただ、一方で音楽・映像用の記録メディアを中心としたコンシューマ向け事業が弱い。商品は揃えたとはいえ、まだまだブランドは弱く、ポジションも低い。
──コンシューマ向け事業を伸ばすためには、TDKの販売能力が必要だった、と。
市村 そういうことです。TDKはイメーションと強みと弱みが全く逆。法人向け製品でのポジションは高くないですが、コンシューマ向け製品の販売力は高く圧倒的なブランド力も持っています。
イメーションがもう一段上に上がるために何が必要かを考えた時、コンシューマ向け事業の拡大は必要不可欠です。法人向けよりも市場規模が大きく、一部の記録メディアについては、法人とコンシューマのどちらにも販売できるケースが増えてきましたから。
日本では知名度はありませんが、米国でシェアが高いメモレックスという会社があります。コンシューマ用記録メディアではトップブランドで、米本社が06年に同社を買収したのも、コンシューマ事業強化の一環です。これにより、北米では一気にナンバーワンになりました。ただ、メモレックスのブランド力は日本と欧州では強くないですから、この地域を強化する意味で今回の話に至ったわけです。
TDKの販売事業を取得したことで、シェアは世界市場では磁気テープで42%、CD・DVDの光ディスクでは33%を獲得し、日本市場ではLTOテープカートリッジで24%、光ディスクで25%。すべて1位になりました。
両ブランドを両市場で併売 特色異なり棲み分けは可能
──確かに両社のシェアを合算すればシェアは上がります。ただ、一方で課題が生まれませんか。同じ商品カテゴリで、1社が複数のブランドを展開することになると、ユーザーに混乱を与える可能性があるのでは?
市村 ブランドの棲み分けは、統合後1年でやるべき施策の1番のポイントです。イメーションとTDKがそれぞれ持つブランドと特色の違いを、明確に示す必要性は当然感じていますよ。ユーザーと取引先にしっかりと両ブランドの違いについてメッセージを発信します。
──イメーションは法人市場に強く、TDKはコンシューマ市場に強い。ただ、両社は弱い分野でも製品を持っている。同じプロダクトを2ブランドで展開しているケースがあります。ブランドの違いを鮮明にするために、法人向けはイメーション、コンシューマ向けはTDKにブランドを絞るという選択肢はありませんか。
市村 それはない。法人向けでもコンシューマ向けでも両方のブランドを使って併売します。TDKマーケティングはイメーションに商号変更しましたが、TDKブランドは法人でもコンシューマでもそのままです。
同じ商品を、同じターゲットに対して、違うブランドで提供するのであれば、意味はないと思いますよ。ただ、イメーションとTDKは違う。特質が異なるんです。TDKは伝統的な日本企業が誇るブランドで信頼性があり馴染みやすい。一方で、イメーションはプロ用というかヘビーユーザー向けのイメージが強く、コストパフォーマンスが高い。この点で棲み分けは十分図れる。
シェアが低いとはいえ、コンシューマ市場でイメーションブランドを気に入ってくれているユーザーもいるし、法人市場でTDKが好きな人もいる。もし、コンシューマ向けでイメーションをやめ、法人向けでTDKのブランドをなくせば、こうしたユーザーの期待を裏切ることになります。それぞれのユーザーに対して、最適なブランドでアプローチする。これがイメーションの基本戦略です。
それに、そもそも統合効果を最大限に出すという観点からすれば、市場別にブランドを一本化することはメリットがありません。法人向け市場でのイメーションの販売・マーケティング力をTDKブランドで横展開して、法人市場でのTDKのシェアを高める。コンシューマでは、全くその逆でTDKの力をイメーションに移植し、イメーションブランドをコンシューマに浸透させる。そうすることで、1+1が2以上の統合効果を発揮できるとみています。
──製品は重複していても特性が違うから、ユーザーに混乱は与えないし、市場でバッティングする可能性もない。
市村 そうです。
──では、コンシューマと法人それぞれでどのプロダクトの拡販に力を注ぎますか。
市村 まずコンシューマ向け製品ですが、ラインアップは大きく分けて磁気テープ、CDやDVDなどの光ディスク、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ(HDD)、そして記録メディア関連アクセサリを揃えています。そのなかでも今年はやはり、ブルーレイディスク。昨年後半から対応レコーダが増え、ようやくマーケットが立ち上がった感触です。07年の母数が小さいので、あまり数字に意味はないかもしれませんが、今年は07年に比べ10─20倍の成長は期待しています。プロモーション施策もブルーレイディスクが中心になるでしょう。
一方、法人向けではどのプロダクトを拡販するというより、製品とサービスを組み合わせた「ソリューション売り」をもっと活発化させたい。情報システムでデータストレージを使う場合、ユーザーの既存システムにストレージを導入するための企画やコンサルティングサービスを、プロダクトと合わせて提供することができる。すでにメニューも揃っており、医療機関向けなどでは多くの実績があります。この分野はSIerと協業してともにエンドユーザーにアプローチしていきます。統合して特色の違う2つのブランド、製品群を持つことになりました。ソリューション展開にも幅が広がると思います。
My favorite 学生時代から愛用する三省堂の英和辞典。買い換えたのは1回だけで、辞書にはシミやしわが多く、使い込んでいる様子がうかがえる。外資系企業だけに、英語でのコミュニケーションスキルは必須で、たまに分からない単語があった時に活躍する
眼光紙背 ~取材を終えて~
伝統的日本企業のTDKと外資系企業のイメーション。企業文化やワーキングスタイルは当然違うだろう。両社の強みを生かしたシナジー効果が出てくるのは時間がかかるはずだ。ただ、市村社長は「時間は必要だが、記録メディア事業を展開することで、社会に貢献するという本質的な精神は同じ。大きな問題はない」と心配していない。
東京・世田谷区用賀にあるイメーションのオフィスと文京区本郷にあるTDKマーケティングのオフィスは統合し、今春をメドに港区青山に引っ越す予定。営業拠点の統合で両社の融合はさらに加速するだろう。
同じ商品カテゴリで2つブランドを併用することで、どこまで相乗効果を発揮できるか。今回の提携はグローバルレベルだが、市村社長は「日本がもっとも理想的な補完関係を築けるはず」と自信をみせる。イメーションの世界的成長を占ううえで、日本法人のビジネスが試金石になる。(鈎)
プロフィール
市村 操
(いちむら みさお)1950年2月14日、茨城県生まれ。73年、慶應義塾大学工学部計測工学科卒業。96年7月1日、米3Mから分社・独立した米イメーションの日本法人に入社。データストレージシステム事業部マーケティング部長に就任。01年、パーソナルソリューション事業部長。03年4月、取締役パーソナルソリューション事業部長。同年10月、常務取締役。05年4月、代表取締役社長。
会社紹介
イメーションの親会社である米イメーションは、米3Mの法人向けデータストレージ部門が分社・独立して設立された。データストレージ用メディアと音楽・映像用メディア、PC周辺機器、音楽・映像関連アクセサリを製品ラインアップに持ち、法人とコンシューマ向けの両市場でビジネス展開する。世界100か国以上で営業し、従業員数は約2000人。07年度の売上高は約20億ドル(2100億円)。売上高の約53%を米国以外の地域で占める。日本法人のイメーション設立は96年7月。
07年4月、米イメーションはTDKの記録メディアの全世界での販売事業を取得することを発表。8月1日に取得が完了した。これに伴い、日本法人のイメーションとTDK販売会社のTDKマーケティングは08年1月1日に統合した。