未成年の携帯電話は原則的にフィルタリングサービスに加入することが義務づけられ、良くも悪くも脚光を浴びたフィルタリングソフト。内部統制なども追い風となり、デジタルアーツの業績は順調に伸びた。2008年3月期の業績予想は、営業利益、経常利益ともに50%増と大幅に上方修正。現段階の国内市場規模は70億円程度だというが、この勢いに乗り、1000億円にまで盛り上げていきたいと意気込む。
「内部統制」を追い風にし、1000億円市場を予測
──前期(2007年3月期)は業績が好調で、上方修正されました。
道具 そうですね。当社の売り上げの半分は企業向け、4割が公共と学校向け、1割が家庭向けという構成です。好調の要因の一つは企業向けが大きく伸びていることにあります。昨年、一昨年とJ─SOX法の影響で、企業が内部統制などに注目しています。今のニーズとしては、アクセスログの保管、検索の機能もあげられます。社員が日々どんなサイトにアクセスしているのかを保管し、スピーディに検索ができる。定期的にログ分析をして、適正なアクセス、利用の仕方を管理する機能で非常に需要が伸びたと思っています。家庭向けも引き合いが高くなっています。携帯電話はいま原則加入という方向で進んでいますが、インターネット=携帯ではない。じゃあ家庭のPCについてはどうなんだということで、問い合わせ、デモ版ダウンロードなどが昨年暮から増えています。ユーザーに対し、当社がアンケートをとってみてもフィルタリングの満足度は高いし、特に企業向けでは2年目以降も引き続き使う率は100%です。ただ、フィルタリングの国内市場規模は70億円くらいしかありません。これからはその10─15倍、1000億円くらいのマーケットになっていくだろうと読んでいます。
──いまのお話の中に携帯電話という言葉が出ましたが、携帯については未成年は原則的にフィルタリングサービスに加入することになっていて、問題も起きています。
道具 まだそこまで携帯フィルタリングのサービスが充実していないので、問題が起きてしまうのは仕方がないことかと。ですが、今日(3月11日)の新聞に出ていましたが、防災情報すらブロックされてしまう。今の携帯フィルタリングこそがフィルタリングの実態なんだと錯覚され、精度が悪いと評価されてしまうのを一番危惧しています。携帯で問題になっているような、使い勝手が悪いとか、精度が云々とかいうのは、少なくともPCでは聞きません。家庭向けのソフトであれば、親御さんが見てもいいと許可するサイトを設定でホワイトリストに登録することができますから。問題は、社会でそのコンテンツがどう評価されているかということです。社会にとって有益なサービスがブロックされるのであれば、ユーザーがクレームをつけてくるでしょうし…。国とかキャリアとかフィルタリングメーカーがコンテンツの整理・規制を行っているのではないかという見方をしている事業者さんもいるようですが、当社がサイトの検閲をするつもりはまったくありません。何が見たいか見たくないかはインターネットユーザー主導で決めるべきなのです。
──新製品「i─フィルター5.0」の発表の席で、携帯市場への参入について言及しておられましたね。
道具 ウィルコムさん向けにはすでに提供していて、他のキャリアにもいずれは提供したいと思っていますが、残念ながら本格的に参入することは今の時点で不可能なんです。当社がなぜウィルコムさんに提供できているかというと、プロキシサーバーが指定できることにあります。ですが現状、ほかのキャリアでは、キャリアの協力を得てキャリアのサーバーの中にフィルタリングサーバーを置かなければならない。それが壁になっています。
──現状は競合製品がキャリアに採用されています。認知度を高めたり、多くのユーザーに使ってもらえるメリットもあるかと思いますが。
道具 競合はいつも意識はしています。でも、携帯は無料なんです。無料で提供すると、自社のサービスを価値のないものとして、自ら認めることになる。PCやゲーム機に月額315円で提供しているのは、それくらいの価値があるものだと思っているからです。キャリアともお話ししましたが、「無料」であることと、波紋を呼んでいるあの問題の、2つのネックがどうしても邪魔します。フィルタリングを行うのなら、ちゃんとしたサービスを提供しないといけない。キャリアに訴えているのは、あくまで私たちは有料で提供したいということです。かつPCと同じように消費者主導でフィルタリングのON・OFF、URLの登録ができるようにしないと、この問題は回避できません。
啓蒙活動を通じて安心な社会目指す
──好調な市場なら、新規参入企業が増える可能性もあるのでは?
道具 非常に障壁が高い。まず先行者メリットとして挙げられるのはURLDBです。登録数は当社が2億3500万ページ、競合は約6000万と、大きな開きがあります。また環境、性別、年齢などでもサイトの評価が違う。フィルタリングはノウハウがないと厄介です。
──来期の施策について聞かせてください。
道具 当社はパートナー、SIerを通じて、製品を販売しています。国産の製品として何のバックボーンもないところから始め、この十数年、ゆっくりとながらも着々と業績を伸ばしてきました。パートナーの支援を受け、エンドユーザーが「やっぱり国産だよね」と意識して買ってくれるのが成長の要因だと捉えています。顧客の声を生かしたサポート、タイムリーな製品は市場が拡大しても忘れずに提供していきたいと思っています。公共分野向けについては信頼やニーズを汲み取ることによって、年2─3割ペースで確実に成長していくとみています。コンシューマ向けは知名度が大事です。PC、ゲーム機、インターネットカフェにはすでに提供しているので、提携先のためにもメーカーとして知名度をあげることに注力していきたい。
──知名度が大事とのことですが、携帯で話題になったとはいえ、まだ認知度が低いのが実情ですし、解決すべき課題なのでは。
道具 なぜユーザーがなかなかフィルタリングソフトを導入しないのかというと、チャイルドシート、シートベルトの感覚と同じではないかとみています。道路交通法で減点されるようになって、みんなシートベルトを着用するようになりましたが、それ以前は衝突事故を起こしたときに危ないですよと警告していたのに、ほとんど無視されていた。そこで、着用違反には罰則を科すようにしたら、当たり前のようにみんなが着用しています。同じようにインターネットユーザーも危機感が薄いのでフィルタリングをしていないんです。自殺が起きても他人事、出会い系のトラブルも「子供の教育が悪い、うちは大丈夫だ」と、多くの人が甘くみている。国もその状況を分かっていて、まずは携帯から原則加入を義務づけました。親御さんにアンケートをとっても、9割が賛成しています。非常にいい傾向です。当社もその流れに乗ってPCにもフィルタリングを義務化するとかの流れを作れないかと。シートベルトのように、安全を確保するためにはフィルタリングソフトを入れなきゃと親御さんたちが理解するように、この3月も地下鉄5─6路線、雑誌にも広告を打っています。来期も広告展開し、安心なネット社会を実感してもらいたいと考えています。
──フィルタリングが「シートベルト」になるのはいつ頃と予想されますか。
道具 詳細はまだお伝えできないんですが、ユーザーに危機感がないという問題点に対する方策はもう考えています。いずれシートベルトのようにはなってくるだろうと思います。だいたい、2─3年後と踏んでいます。アンチウイルスソフトの市場が1000億円規模なので、それくらいには市場を盛り上げたいと考えています。
My favorite 「国産」、そして激しい競争社会の中で、心を穏やかにするために「和」の文化を大切にしている。印鑑は社員からのプレゼント。例年「今年の一文字」を決めていて、2008年は「想えば叶う」の「想」とした。いずれフィルタリングが必要になるという信念のもと、やっと今がきたという思いが込められている
眼光紙背 ~取材を終えて~
物腰が柔らかく、写真撮影の際、読者を意識し、「偉そうにみえないかな」と気にしていた道具社長。書道のほか、華道、料理など、多彩な趣味を持つ。趣味に「和」を意識したものが多いのは、ビジネスのスタンスにもつながっている。「同じ和、日本のよさは当社の根底にあるもの。日本ならではのきめ細かさが当社にはあって、トラブルが起きたときに自分のことのように対応してきたことが今につながっていると思っています」。
華道の家元ともつき合いがある。「家元は、日本の伝統文化を世界に発信している。日本ならではの質の良さをソフトウェアとして世界に伝えていきたいという思いはまったく同じ」という。「30年後も存在する会社」も目標にしている。
ソフトウェアを継承し、世界に発信することを目指す。ソフトな物腰の内側に秘められた、強い信念がみてとれる。(環)
プロフィール
道具 登志夫
(どうぐ としお)1968年2月17日、東京都出身。88年、新日本工販(現フォーバル)入社。同年11月、マクロシステム入社。92年10月、TDKコアを経て、97年10月デジタルアーツを設立、代表取締役就任。
会社紹介
1995年、インターネット関連アプリケーションソフトの開発・販売を目的として設立。98年、国産で初めてとなる、ウェブフィルタリングソフトを開発。主力の「i-Filter」「i-フィルター」は全国3500以上の企業、官公庁と1万3000以上の学校・教育機関などに導入している。昨年度(07年3月期)の売上高は13億8700万円。