内田洋行は事業改革を加速させる。ユーザー企業の設備投資意欲に減退感がみられ、同社の業績も良好とはいえない。逆風のなかの今年7月、トップに就いた柏原孝社長は、「事業改革の意識を高めよ」と全社員に号令をかける。同社は情報システムやオフィス家具、教育向け商材を組み合わせるユニークなビジネスモデルを築き上げてきた。主力事業の相乗効果を高め、オフィスや学校といった“環境”と“IT”を融合させるユビキタス戦略を強力に推進する。
安藤章司●取材/文 ミワタダシ●写真
外部環境依存型から脱却へ IT関連の占める比率拡大
──業績が思わしくありませんね。企業の設備投資意欲の減退が懸念されるなど、内部・外部環境ともに難しい時期にトップのバトンを引き継がれましたが……。
柏原 業績の面は事実として重く受けとめています。営業利益は最低でも50億円は欲しいとか、成長が鈍っているとか、厳しいご指摘をいただく。トップに就いてまず全社員に“事業改革への意欲を高めよ”とのメッセージを強く打ち出しました。
──具体的な舵取りはどうしますか。
柏原 当社の主力事業は情報システムとオフィス家具、学校向け教育商材の3つ。オフィス家具の販売は景気動向と連動する傾向が強く、経済に陰りがみえてくると厳しくなる。教育は国や地方自治体の施策や予算に影響されるなど、両事業とも外部環境に依存する傾向がみられます。情報システムはオフコンからパソコンへ変わるなかで、やや試行錯誤しながらやってきた。
これまでにも、外部環境依存型のビジネスからの脱却を進めてきましたが、より加速させる。構造的な問題とされてきた部分を打ち壊し、成長につなげる。そのための組織体制はどうあるべきか、人材教育はこれでいいのか、再度、見直す考えです。
──成果は出始めていますか。
柏原 前社長の向井(眞一・現会長)が、全社の目指すべき方向性としてユビキタス戦略を積極的に推進してきました。オフィスや教育分野においてもITは、もはや必要不可欠。当社はオフコン時代から連綿と培ってきたそのノウハウがある。すでに全社売り上げの半分余りをIT関連が占めるまでになりました。この技術をオフィスや教育に対して積極的に応用し、内田洋行の強みを発揮します。こうした取り組みが景気や予算に左右されにくい強い事業構造への変革につながる。今後もITをベースとしたユビキタス戦略を強力に推進することで、商材やサービスの付加価値化を進めていく構えです。
教育分野では売り上げのうち約6割をIT絡みの案件が占め、予算に左右されずに着実に成長する力がついてきた。教育分野は学習効果を高めるという明確な目標があるためITの活用には意欲的です。情報システム分野も既存事業の枠にとどまらない、ユビキタスコンピューティングを生かした新しい方向性を見いだそうとしています。ただ、オフィス分野でIT関連の占める比率はまだ1割と少ない。売上高全体の約4割を占める最大セグメントだけに、改革を急ぐ必要があります。
──オフィス家具事業のテコ入れは、どういう方向で行うのですか。
柏原 今年度(2009年7月期)からこの分野の開発体制を刷新しています。ユビキタス系と従来型のオフィス家具を別々に開発していたものを一元化。オフィス分野での商材の壁をまずは取り払いました。
ユビキタス社会における新しいワークスタイルやライフスタイルを支援するコンセプトとして「ユビキタス・プレイス」を打ち出しています。働く、学ぶ、集う“場(プレイス)”を知り尽くしている当社の強みを生かし、ITやデザイン、コンテンツを融合した次世代オフィスを提案するものです。大企業を中心に市場が拡大しつつあります。
共通の顧客で連携を強化 販売パートナーで先進例
──オフィス事業部でITとの融合に力を入れていることは分かりましたが、これがITの本家ともいうべき情報システム事業部との連携につながっているのでしょうか。
柏原 ユビキタス・プレイスは全社で推進するもので、事業部を横断したビジネスです。そういう意味では、いわゆる“事業部の壁”は関係ありません。が、実際にはやはり壁はある。以前から事業部の壁なんて取っ払えとか、もっと人事交流をさせろとか、さまざまな観点から議論がなされてきました。ただ、どうやら組織とか、人事だけの問題ではないように私は思います。
──では、どのような連携が望ましいと。
柏原 従来の取り組みに加えて、顧客層の差異を縮めることを考えなくてはなりません。
情報システム部門は、中堅・中小向け統合基幹業務システムの「スーパーカクテル」シリーズを軸に奮闘しています。食品業界や住宅設備機器卸、包装資材卸など業種攻略も早くから進め、重点業種では大きなシェアをいただくまで成長してきました。
一方、オフィスの、とくにユビキタス系は、市場が立ち上がってきたとはいえ、まだ大企業が顧客の中心部分を占めます。情報システムとオフィスは、同じ企業顧客がターゲットですので、相乗効果を高めやすいように思えますが、実はこうした顧客層の違いが横たわっている。
であるなら、情報システムで大企業向けの商材を増やし、オフィスで中堅・中小企業向けの商材を手厚くすれば顧客の重なりが大きくなる。スーパーカクテルを大企業に展開するのは難しいので、例えば情報系システムやユニファイドコミュニケーション(UC)など、企業規模を問わず需要の高い商材をより多く揃えるよう努めています。逆にオフィスでは中堅クラスが導入しやすいユビキタス・プレイスの開発に力を入れます。
──直系販社やビジネスパートナーの施策はどうですか。3事業それぞれの販売経路が現状のままでは強みが半減しかねません。
柏原 ご指摘の通り、販売チャネルは3系統あります。内田洋行本体の改革はもとより、最前線の直系販社、ビジネスパートナーの強化が両立してこそ持続的な成長が可能です。3事業合わせた直系販社は十数社、ビジネスパートナーは情報システムで全国USAC会を中心に約100社、教育で約1000社、オフィスで約2500社。スーパーカクテルと教育系販売チャネルなど、組み合わせが困難な部分もありますが、それでも情報システムは基幹業務だけ扱っているわけではないので、一緒にやれる部分はある。
現に教育分野のIT化は急速に進んでいますし、ビジネスパートナーのなかにはSIと教育事業の両方を手がけて成功しておられるところもある。当社の直系販社でも、例えば名古屋のオフィスブレインは、オフィスと情報の連携を急ピッチで進めています。
──2010年は創業100周年、また、今年度は3か年経営計画の最終年度に当たります。大きな節目を迎えて、次期経営計画はどのような構想なのですか。
柏原 次期経営計画は、今年度中にまとめます。今ここで明らかにできればいいのですが、掲げたことはちゃんと達成したい。打ち上げ花火的であったり、過度に華美なものは除外して、実力を踏まえたうえで着実に成長させる。
この会社は今年で98歳。外から見れば成長が鈍った高齢な会社と映るきらいがあります。ただ、「企業の寿命30年説」があるなかで、ここまで続いたのは企業を支える人を大切に育ててきたからこそ。良いところはこれからも伸ばし、変わらなければならない部分は変えていく。人の育て方が現代に適応できているのか、長寿企業になって垢がたまっていないか、見直すところは少なからずある。次の100年、勝ち残るために、今ここでもう一度整理し、事業改革を推し進める考えです。
My favoriteパーカーの万年筆。「筆まめになれ」との先輩の教えで愛用している。顧客や販売店、教育界の先生方など、機会あるごとに葉書や手紙を出すよう心がけている
眼光紙背 ~取材を終えて~
柏原社長は営業の現役時代、オフィスと教育分野のIT化に取り組んできた。
オフィスではユビキタス化を積極的に推進し、学校分野では、公立学校のみならず、私立や大学、学校運営全般、地域イントラネット、コンテンツ配信事業など幅広いビジネスを展開してきた。
ただ、情報分野の基幹業務システム系の経験は乏しい。それだけに、「今、いちばん深く知りたいのが業務系のシステムビジネスについて」。知らないところがあるならば、「これから知ればいい」と、情報システム事業部の隅々まで足を運ぶ。
これまでユビキタス戦略の先頭に立ってきて痛感したことは、オフィスや教育における「ITの重要性」と、情報システムを重視する。
逆風にさらされてはいるが、内田洋行の強みは主力3事業を持っていることにある。ユビキタス戦略の加速による事業拡大を目指す。(寶)
プロフィール
柏原 孝
(かしはら たかし)1950年、福岡県生まれ。73年、熊本大学法学部卒業。同年、内田洋行入社。91年、教育システム事業部営業支援部長。94年、システム事業本部営業推進部長兼総合エンジニアリング事業本部知的生産性研究所長。95年、北海道支社営業部長。98年、北海道支社長。03年、取締役九州支社長。06年、取締役常務執行役員管理本部長兼マーケティング本部長。07年、取締役専務執行役員管理本部長兼マーケティング本部長。08年7月、社長就任。
会社紹介
2008年7月期連結売上高は前年度比0.1%減の1478億円、営業利益は16.1%減の24億円。ここ数年の年商は1500億円のラインを行き来する。情報システムとオフィス家具、学校向け教育商材が主力事業。オフィスや教室などの環境づくりを手がける一方、中堅・中小企業の基幹業務システムにも強いユニークなビジネスモデルを築き上げてきた。売上高構成比は情報が3割強、オフィスが4割強、教育が約2.5割。ユビキタスを軸に、3事業の相乗効果の最大化を推進する。