今年度(09年3月期)、設立から11年目に突入したNTTコムウェア。昨年度に丸10年が経過し、ひとつの節目を迎えている。そのなかで、今年6月に社長に就任した杉本迪雄氏は“第二の創業”と捉えて社内体制の改革に乗り出した。設立当初から携わっている杉本氏が、NTTコムウェアをどのように変えていくのだろうか。
佐相彰彦●取材/文 ミワタダシ●写真
10年で市場は劇的に変化 “経営品質”の向上で改善
──設立当初からNTTコムウェアに籍をおいておられるわけですが、社長に就任した今年6月と、それ以前とを比べて意識や気持ちの点で変化はありましたか。
杉本 確かに、就任前は副社長でC&B本部という組織の本部長だったので、その組織のことだけを考える現場寄りの意識でした。だが、今は経営者として全体を見なければなりません。しかも、景気は(米国の金融問題を含めて)先行きの不透明さがますます深まってきています。また、当社が手がけている事業領域は、情報と通信の融合など幅広く網羅しなければならない状況でもある。それをNTTグループでは「ICT(情報コミュニケーション技術)」と標榜しているのです。SIを中心に手がけてきた当社にとっても、(社長という)経営全体を考えなければならない立場では、難しい局面でもあります。世界的に閉塞感がある市況のなかで、会社をどのように成長させるのかを考えなければならないことは大きく変わった点ですね。
──社長に就任してから現段階で約5か月が経過しましたが、会社の方向性は固まりましたか。
杉本 基本的には、歴代の社長が築き上げてきたことを変えるつもりはありません。設立当初から当社の社員として仕事に携わっている点でも、方向性を変化させることは必ずしもいいと思っていません。継承していくことが重要と考えています。
──「継承」ということですが、今のままで良いと。
杉本 極端な話ですが、方向性を180度変えてしまうのは良くない。しかし、市場環境をみると(設立時の)10年前と同じことを行っていればいいのか。それは違いますし、ビジネスモデルなどを改善していかなければならないと考えています。ここ10年で、市場は大きく様変わりした。そのなかで(当社が属する)NTTグループをみても、1999年に再編して来年で丸10年を迎え、2010年以降、どのように変貌すべきかを模索しています。当社も、成長に向け強化策を打ち出さなければと感じています。
通信業界を取り巻く環境は携帯電話を典型として、ここ数年で競争が激しくなっていますよね。今まで領域が異なっていた業界からの参入などで、プレイヤーが増加し競争が激化したともいえるのではないでしょうか。このような状況のなか、当社は今年度(09年3月期)で設立11年目を迎えました。「今」、何を行わなければならないのかを考え、取り組んでいかなければならないのです。そういった意味でも、今年度を“第二の創業”として捉えて、幹部をはじめ社員すべてとコミュニケーションが図れる環境を構築しています。NTTコムウェアで長く業務に従事してきた私にできることは、創業時に立ち返って今を見つめ直すことです。
──確かに10年の間に市場は劇的な変化を遂げていますね。そのなかで、できることとは具体的に何でしょう。
杉本 まずは、中期経営計画を策定することだと思います。昨年度に(前社長が)3か年計画を立案した。ただ、環境の変化を考えると計画通りに進むのか。具体的な数値はまだ描いていませんが、昨年度に掲げた青写真がありますので、その改善の可否を検討しています。
──ただ、売り上げなど数値を上げるだけを改善と表現するならば、“絵に描いた餅”になってしまう。社内体制で強化する点は?
杉本 経営品質フレームワークを作りました。これは、社会経済生産性本部の「経営品質向上プログラム」を応用したものです。
社会経済生産性本部が掲げている経営革新のモデルは8項目に分類されています。このうち、当社では経営ビジョンを打ち出すための「経営幹部リーダーシップ」と企業倫理を決定する「経営における社会的責任」、事業計画を策定する「戦略の策定と展開」、内部統制の強化に向けた「情報マネージメント」の4項目を活用しています。これらの項目に対して「バランススコアカード」という採点表を作成しており、私や幹部、対象となる社員にスコアを付ける。このスコアをもとに「各々の立場できちんと業務をこなしているのか」の判断材料にしています。
実はこれ、私が創業時に感じたことなのです。NTTグループの新会社として、「社内外を問わず全体最適化が図れる会社を目指せるか」ということを考えていました。これは、SI業界にも同じことがいえると思うんです。
システム面でいえば、これまで、日本のSIはあちこちに芽を出す“たけのこ”状態のシステムを構築してきたのではないか。つまり、顧客に言われたままに各システムを構築し、結果、各機能が連携するようなシステムを提案しなかった。だからこそ、“スパゲティ状態”という複雑怪奇なシステムが、そこら中にあるのです。システム面からいえば、バックオフィスからフロントエンドまで一気通貫でなければならない。業界用語でいえば、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)ですね。
当社にも、同じことがいえる。はたして、プロフィットだけを追求していいものか。顧客満足度を含めて“バランス”が重要なんです。そういった意味でも、効率的な組織構造を実現するための設計思想や基本理念の基盤を整えていかなければならないと痛感しています。
社内の風通しを良くする 事業拡大はNGNがカギ
──先ほど、「社員とのコミュニケーション強化」という言葉が出ましたが、具体的な強化として行っていることは何ですか。
杉本 コミュニケーションの強化は、当社のビジョンとして掲げる「透明性」と「納得性」「継続性」の3原則に基づいています。ありきたりですが、各社員との雑談を含めたミーティングを積極的に開いているほか、定期的に社長メールを配信して返信してもらうようにしています。
また、これだけでは社長の一方的な考えを社員に植え付けかねませんので、組織や上下関係などを取り払ったインターネットベースの社内ネットワークを構築しています。ここでは、業務上の問題などを社員すべてが自由に書き込めます。問題に対してほかの部署がアドバイスするといった、コミュニケーションが図れればとの考えからです。
──効果はどうですか。
杉本 最近では、自由に書き込むだけでなく、プロジェクトごとにSNSが立ち上がるといった現象も起こっていますので、事例が少なくてもインターネットを経由したコミュニケーション強化につながっているのではないかと判断しています。
ただ、課題がひとつあります。それは私が参加しにくくなったということ。少し前までは、ブログへの投稿は「ハンドルネーム」で良かったのですが、「透明性」という観点から実名で参加しようということになったのです。社長の私が参加すると、どうしても社員が遠慮してしまう。ブログが活性化しているので今のままで良いと思いますが、私にとっては、この壁をどう取り払うかが当面の課題です(笑)。
──ビジネス領域の環境は、どのようにみていますか。
杉本 NTTグループが掲げる「NGN(次世代ネットワーク網)」事業には、オペレーションシステムの構築で参画していることから、当社のビジネス的には当面順調に推移すると確信しています。
問題はその次のステップです。NGNを確固たるものとするために、ユーザーにどのように普及させていくか。なかでも、法人に導入を促すことが重要なポイントになってきます。そういった点では、ネットワーク関連ベンダーだけでなく、アプリケーション開発ベンダーにも協力してもらうような仕組みが必要です。それをNTTグループ全体で考えていかなければなりません。
そのなかで、当社が行えることといえば、「NGNに求めるものとは何か」をユーザー企業から聞き出すこと。それが最適なアプリケーション提供につながると思っています。
My favorite 20年前、NTTで映像関連プロジェクトに携わっていた際に、ジョージ・ルーカス氏からもらったクリスタルガラスの置物。ハリウッドとのアライアンスのために、渡米した際に直接プレゼントされたそうだ。「ルーカス氏の映画を数多く鑑賞していただけに、とても感動した」という
眼光紙背 ~取材を終えて~
がっしりとした体躯で存在感は抜群。黙していると、一見、押し出しが強そうで、就任から6か月足らずでも社長の風格が備わっている。
これは、NTTコムウェアに設立当初から携わり、同社に成長要素が数多くあることを知っているからこそだ。これまで数多くの社長を取材してきたが、第一印象から自信のみなぎったオーラを発しているという点では屈指の人物だ。話してみると、第一印象とはまた違った柔和な雰囲気も持ち合わせている。自分の考えを理路整然と述べながら相手の話もよく聞いて、良い方向へと結論を導き出す。まさに経営者としての理想形。副社長だった時期も、部下によく悩みを打ち明けられたそうだ。
ただ、「よく話してくれていた部下が、社長になった途端、身構えるようになった」ことが悩みの種だとか。「日本の会社によくあるピラミッド型の組織をなくす」と、固い決意で臨んでいる。(郁)
プロフィール
杉本 迪雄
(すぎもと みちお)1947年12月5日生まれ。広島県出身。72年3月、早稲田大学大学院理工学研究科修了後、同年4月に日本電信電話に入社。97年9月、NTTコミュニケーションウェア(現・NTTコムウェア)の設立にともない、同社の経営企画部長に就任。その後、取締役や常務取締役、副社長を歴任。08年6月、代表取締役社長に就任。現在に至る。副社長としてCRM&ビリング・ソリューション事業本部を統括していた際、人材育成制度を追求、今も社員のスキルアップには余念がない。
会社紹介
1997年9月に情報通信システム会社として設立。NTTグループへのシステム提供を事業のメインとしている。最近では、ユーザー企業向けのシステム開発にも力を入れている。
最新技術を生かしたソフトやアプライアンス製品の開発を得意としており、決済・課金システムをはじめ、RFIDや3D映像システムなどで実績を持つ。次世代ユーザーインタフェースといわれる「タンジブル」にも取り組んでおり、災害対策やネットワークインフラ構成などに活用できるシステム開発を進めている。
また、ネットワークとセキュリティを生かしたゲートウェイ「L-BOX」で多くのユーザーを獲得している。