シーティーシー・エスピーは、この不況下に会って昨年度(2009年3月期)の売上高はダウンしたものの、黒字決算を維持している。顧客企業のIT投資意欲を促すことに力を注いだ成果が現れたと、熊崎伸二社長はみている。案件が減った一方で、利益率アップを果たしたのだ。今年度は、“動機づけ”営業を積極的に展開するという。ディストリビューションを事業とする同社が描くビジネスモデルとはどのようなものなのか。
佐相彰彦●取材/文 ミワタダシ●写真
企業のIT投資意欲を引き出す
──昨年度は、どのような状況でしたか。
熊崎 赤字にこそなりませんでしたけれど、前年度よりも売上高が落ちる見込みです。米国発の金融危機による世界同時不況で、企業がIT投資を引き締めていることが大きな原因です。当社について言えば、昨年11月頃から急激に落ち込み始め、年が明けてからは、かなり大きなダメージを被りました。とくに、IT危機のリプレースを先延ばしにされるケースが増えた。非常に厳しい状況に陥ったと言わざるを得ません。
──今年度も、先行き不透明な状況は続きますか。
熊崎 おそらく。少なくとも今年度上期は、確実に昨年度後半と同様の状況でしょうね。ただ、厳しい状況のなかで、ひとつ分かったことがあるんです。それは、“動機づけ”をすれば、顧客企業はITに投資するということです。
例を挙げれば、競争に負けないために新しいITシステムを導入するといった具合です。これにより、半導体関連の企業からネットワークインフラの増強を含めた大型案件を受注しました。その顧客企業は、「09年は、勝負をかけなければ生き残れない」と、リプレースを決断したのです。また、「内部統制」なども動機づけにつながります。内部統制がらみでいえば、メールセキュリティ関連の製品が多く売れました。
ネットワークインフラのリプレースやセキュリティソリューションなど、どんな案件にしろ、当社サイドから顧客企業のIT投資意欲を引き出すような提案が重要ということです。ですので、“動機づけ”が行える営業を、今年度は重点的に展開していきます。
──具体的にフォーカスする分野はありますか。
熊崎 最も重点を置くのが「コスト削減」です。顧客企業がITに投資するのは業績を伸ばすためです。けれども、今のような景気低迷の下では、まずは利益を確保しなければならない。そのためにはITに投資してコスト削減を図ることが重要と考えています。一時期、「グリーンIT」が主流になりつつありましたが、今はそれに加えてコスト削減も大きなニーズとして浮上してきています。したがって、「グリーンIT」を切り口にしてコスト削減が可能な製品・サービスの提供に力を注いでいきます。
もう一つは「内部統制」の分野ですね。この分野でも、メールセキュリティをはじめとして、動機づけが行える製品を積極的に提供していきます。
──通信関連では、今年夏から高速ワイヤレスブロードバンドの新規格として「WiMAX」が本格化します。この新しい通信規格は、御社にとってビジネスチャンスになりますか。
熊崎 この規格に関しては、(親会社である)伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)との連携でビジネスを手がけていきます。実際、地方ではケーブルテレビ会社などが「地域WiMAX」を提供するためのインフラ整備を進めようとしています。こうしたSPの案件獲得は(CTCが得意としているため)CTC経由で製品を供給することになります。だから、十分に追い風になると確信しています。
──L2/L3など、スイッチについては拡販の余地はありますか。
熊崎 普通に販売しているだけでは難しいでしょうね。顧客企業は、ハードウェアの老朽化だけではリプレースしません。老朽化してネットワークの通信速度が遅くなったと認識するかもしれませんが、ブロードバンド化の今、業務に支障をきたすほどの遅延は生じていないのが実状です。実際をいえば、様子見になることは間違いない。そうした状況を打開するためにも、ニーズにマッチしたソリューションの提案でネットワークインフラのリプレースを促す提案が欠かせないということです。
顧客の経営課題の解決が本分。今は不況で課題は多いはず、自身の価値を高めるチャンスだ。
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