ボトムアップでビジネス創出へ
──「SaaS」や「PaaS」などといったサービス型モデルについては、ビジネスとして手がけていくのですか。
熊崎 実は、サービス型モデルを活用した新しいビジネスの創出については、昨年度から模索しているんです。組織や役職などにこだわらない全社横断的な取り組みとして、「イノベーション会議」と称する新規事業の創出に関する会議を開き、ディストリビューションに付加できるものはないか、全社で話し合ってきました。そのなかから挙がってきたのが、「SaaS」や「PaaS」などです。具体的に当社がどのようなポジションを確立することができるかを詰めているところですが、「ビジネスとして成立する」という“芽”は見つかりました。今年度に具体化するのは難しいですが、来年度には必ず実現させます。
──サービス型モデルの可能性について模索しているとのことですが、クラウドコンピューティングのなかで、ディストリビュータはどうあるべきだと考えておられますか。
熊崎 単なるハードウェアやソフトウェアのパッケージうりでは、もはや通用しないでしょうね。そういった意味でも、まずは“動機づけ”の営業が必要だと考えています。これは、単に顧客企業に提案するだけではなく、調達面でも利益率の確保できる商材を仕入れるということにつながります。
現状は、不況ということで案件が少なくなっていますが、今後、クラウドコンピューティングが主流になってくると、ますます製品販売の案件が減ってきます。そういう危機感があって、「イノベーション会議」を開いたのです。先ほど申し上げたように、現段階では具体化できるビジネスモデルは確立していませんが、要は「提供する製品に、いかにサービスを乗せられるか」ということです。それは、サポートなどストックビジネスを強化することなのかもしれません。また、SaaSを仕入れて製品に価値を付加することなのかもしれません。いずれにしろ、近い将来に訪れる新しい時代への準備を整えておくことが重要だと考えています。ただ、サービス型モデルを「誰が売るのか」というのが企業全体の課題になっていますよね。ディストリビュータとして、そのあたりを視野に入れてビジネスモデルを構築していきます。
──人材教育の面では、クラウド時代にどう備えておられますか。
熊崎 社長に就任した(07年)当初から取り組んでいることは、トップダウンは一切やらないということです。新しい時代に備えるためというわけではありませんが、ボトムアップを(私の)流儀にしています。これにより、今では現場から次々と斬新なアイデアが出てきている状況です。「イノベーション会議」の成果が、形となって現れてきています。
また、社長就任以来のこの2年間、徹底的に実施してきたのはコスト削減です。目標は1年間で1%の改善。この効果が現れて、売上高は落ち込んだものの、赤字に転落することなく乗り切れたのです。
売上高を伸ばすうえでも、利益を確保するうえでも、適した企業体質がつくれたと自負しています。新しい時代が到来しても対応できる基盤が整っています。もし通常の市場環境だったならば、これまでの改善によって、昨年度の時点で水準以上の飛躍ができたとみています。だからこそ、市場環境に明るい兆しが見え始めた瞬間から一気に業績を伸ばせると確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長就任から今年度で3年目。初年度は前社長の「礎」を引き継ぎ、2年目に「築」、3年目に「変革」といった言葉を年初のキーワードとして掲げている。「築」という言葉は、徹底的なコスト削減、ボトムアップ体制の整備などを実現した次のステップとして掲げた。「変革」は、今次の不況や近く到来する新しい時代のなかでディストリビュータとしてあるべき姿を模索する言葉だ。
インタビューすると、何事にも動じない冷静な姿勢とその奥にある優しさが見てとれる。徹底的なコスト削減を実行する一方、社員のモチベーションを高めるボトムアップ制度を取り入れ、「強い企業体質」を作り上げた。
「基盤は整っている」と自信をみせている。確かに、厳しい状況のなかで、ほかのディストリビュータと比べれば落ち込みが少ない。新しいビジネスモデルでどのような変革をみせるのか。手腕が期待される。(郁)
プロフィール
熊崎 伸二
(くまざき しんじ)1951年7月28日生まれ。岐阜県出身。東京大学卒業後、石川播磨重工業に入社。その後、88年に伊藤忠テクノサイエンス(現・伊藤忠テクノソリューションズ)に入社。執行役員や名古屋支店長など歴任。07年、シーティーシー・エスピーの代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)グループのなかでディストリビューションを手がける。ネットワーク関連機器をはじめとしてサーバーやストレージ機器などを網羅し、グループ内では製品調達の中核企業として位置づけられる。昨年度は厳しかったものの、一昨年度までは順調に業績を伸ばしてきた。売上伸長の基盤を整え、今年度は挽回を期す。