ソフトのサービス化を推進化
──具体的には、どのくらいの年商規模にもっていこうとお考えですか。
東川 向こう5年ほどのスパンで、粗利率40%程度を保ちつつ、年商250~300億円をターゲットにしています。先ほど、大手ベンダーの下請けに入らず、エンドユーザーとの直接的な取り引きを重視すると言いましたが、案件が大きくなればなるほど、エンドユーザーから「リスクヘッジしてほしい」と要請される確率が高くなる。まあ、大手を前に立てろということですが、今の年商では当社が元請けになることができる案件の規模は限られます。自身の成長もさることながら、M&Aも含めて、まずは300億円規模を視野に入れなければ、大型案件でのプライム受注は難しいものがあります。
──御社がもつ独自ソフトのなかで、とくに力を入れる領域はどこですか。
東川 正直、全部と言いたいところなのですが、あえて言えばネット通販と流通業向け基幹業務システムには力を入れます。クラウドやSaaSなどソフトウェアのサービス化が急ピッチで進んでおり、ネットとの接点が大きいネット通販や、流通小売系のシステムはSaaS化が不可欠。当社は顧客のシステムを預かるアウトソーシングは手がけているものの、純粋なクラウド/SaaS型のソフト・サービスは残念ながら弱い。そこで、まずは、今年度(10年3月期)下期からネット通販をSaaS化する予定です。
コンテンツ管理など周辺システムも含めたネット通販システムの累計納入社数はおよそ50社。これまでは比較的大規模な小売業のユーザーが中心でした。SaaS化し、売り方を工夫すれば客層も広がりますし、売り上げを伸ばす余地も大きい。また、他社のサービスとのマッシュアップも容易で、従来のパッケージ売りにありがちだった元請けと下請けの枠を超えた協業モデルをつくることができる可能性があります。商材のデリバリー方式の変化のみならず、営業の発想そのものを変える必要がありそうです。
──他の商材はどうでしょうか。
東川 債権管理は当社の強みの一つ。金融や自治体など官民問わず幅広い横展開を推進中です。ここ数年、売り上げが下がる傾向にあったネットワーク系のSIは、セキュリティなどを絡めることで反転しつつある。こうした領域でも、ネット通販や販売・在庫管理などの要素を織り交ぜるクロスセルを展開します。
──海外進出はどうお考えですか。
東川 やりますよ。今は海外売上高比率はほとんどゼロなので、これから3年で基盤をつくります。
当社だけでは現地での十分なサポートはできませんので、まずは台湾や中国の有力SIerとの話し合いを進めています。そこでネックとなるのが、ソフトの開発体制です。グループ内で開発しているぶんには、少しばかり風変わりな開発手法でも通用する面がありますが、海外のSIerに協力を仰ぐことになるとグローバルスタンダードの開発基盤にこちらから合わせる必要があります。当面は、そこから着手しなければならないのですが、ゼロベースからなので、思い切った手を打てます。
これまで築き上げてきた当社のポジションを最大限に生かしつつ、迅速、確実に手を打てば、まだまだビジネスを伸ばす余地は大きいと考えています。 台湾系のSIer経営者から、「社長業は体力だから」と贈られた本。著者は電子工学の技術者。中国の古典医学をベースに、人間の体をコンピュータのような“システム”になぞらえた異色作。「IT業界に身を置く者にとって分かりやすい」内容にまとめられている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
若い頃にラグビーで体を鍛え、今は毎朝、体重50キロもあるスイスの大型犬バーニーズ・マウンテン・ドッグ2頭を散歩に連れて歩く。週末はゴルフ。取引先だけでなく、社員とのプレーも重視する。厳しいときだからこそ、「全社一丸となった仕事が欠かせない」との考えからだ。蒸気機関車のような熱血ぶりに、交流のあるSIer経営者から健康管理の本を贈られるほど。
目標は明確。向こう3年で海外進出の基盤をつくり、5年で国内外合わせて売り上げを倍増させる。M&Aにも意欲を示す。これまで、前社長の須賀井孝夫氏(現会長)と共に、独自のソフト・サービスを中心とするビジネスモデルへ転換してきた。苦しいとき、大手ITベンダーから“うちの下で働いてくれればいい”と声をかけられたが、「下請けにはならない」と、歯を食いしばって誘いを断った。苦境でも、元請けだからこそ発揮できる強みがある。(寶)
プロフィール
東川 清
(ひがしかわ きよし)1950年、長崎県生まれ。73年、高知大学文理学部卒業。同年、高千穂交易入社。同年7月、千代田情報機器(現アイティフォー)入社。98年、取締役ソリューションシステム事業部長。03年、取締役常務執行役員ソリューションシステム事業部長。05年、取締役専務執行役員営業本部長。08年、代表取締役副社長事業本部長。09年6月、代表取締役社長に就任、現在に至る。
会社紹介
2009年3月期の連結売上高は前年度比1.0%増の119億1000万円、営業利益は同2.5%減の16億2700万円。金融機関向けの債権管理や、百貨店に多くの納入実績をもつ流通小売業向け基幹業務、ネット通販システムなど多数の有力オリジナルソフト商材をもつ。グループ・関連会社はネットコミュニティの専門企業スナッピー・コミュニケーションズ、自治体向け債権管理に強いシンクなど。2010年3月期の連結売上高は前年度比0.8%増の120億円、営業利益は同1.4%増の16億5000万円を見込む。