顧客とともに、地球のどこまでも
──すでに世界24か国71都市で5500人体制を構築したと伺っています。国内のSE人員の余剰感が強まるなか、海外でこれだけの人員を維持できるのですか。
山下 私は“雪だるま式”と言っているのですが、まずは“核”となるビジネスを手堅くこなし、これを軸に徐々にビジネスの領域を広げる。先のマレーシアの例では、ドイツのグループ会社がドイツの顧客がもつSAPシステムのサポートで現地に入ったわけですが、日系企業やマレーシア企業へのクロスセルを始めています。すでに顧客がついていて、その余力といってはなんですが、周辺のビジネスへ手を伸ばす。仕事ができたら新たに人員を採用して事業を拡大させる。
われわれSIerは、製造業のように工場をバンッとつくるわけではないので、仕事をとりながら人を増やし、人を確保しながら、また仕事を増やすやり方が、いちばんしっくりきます。
──中国進出にも積極的ですね。
山下 ここ1年で、北京、上海、広州などで工場を構えている客先を多数訪ねたのですが、製造工程は日本では成り立ちにくいとつくづく感じました。これまでは中国などのアジアで製造したものを欧米に輸出するパターンが多かったが、今はアジア域内での“地産地消”が起こっている。
実は、工場だけでなく、経営や企画、営業などホワイトカラーも現地へ移りつつあります。マーケットに近いところで経営の指揮を執らなければ、動きが鈍くなってライバル他社に負けてしまう。いちいち日本本社にお伺いを立てている余裕は、もはやないんですね。そうなると必然的にIT要員も現地に張り付かせざる得ない。製造だけでなく、コンビニエンスストアなどの流通もアジア市場の開拓を進めていますから、事情は同じでしょう。
──ソニーがアジア地域の基幹システムをシンガポールに集約する方針を打ち出しました。国内の空洞化が懸念されます。
山下 地理的、交通的にアジアマーケットの中枢にシステムを置くという考えは容易に理解できます。正直、グローバル企業の基幹業務システムを収納するプライベート・クラウドが日本国内に残る可能性は少ない。日系企業ですら厳しいのに、外資系ならなおさらです。財務データを国外のクラウドに保管してはいけないという規制が欧州の国々や中国などで強まっていますが、恐らく各国に地域クラウドを設置し、最終的には連結経営に必要なデータを大元のクラウドに吸い上げることになる。製造・流通業はまずこの流れになるとみて間違いない。そうなると、国内に残るのは国や自治体、金融、医療くらいでしょうか。金融はここにきてグローバル化が少し進む気配を感じる程度です。
──アジア市場に勢いがあるのは分かりますが、どのくらいの売り上げを見込んでいますか。
山下 貨幣価値が違いますので、アジアでの案件は日本円に換算するとまだ小粒が多いですよ。ただ、当社の経営戦略に与えるインパクトは大きい。中国をはじめとするアジア各国は、国を挙げて社会インフラの近代化を進めており、大きな投資案件が目白押しです。例えば、ITを駆使して効率的な送電を可能にするスマート・グリッドは、ITなしでは語れないわけですし、携帯電話の課金・請求システム一つをとっても、NTTグループの当社の強みを生かせます。日本で培った公共、金融の業種ノウハウも各国のニーズを掴むのに役立つ。
経営計画では2013年3月に連結売上高1.5兆円を目指しており、うち海外は3000億円。内訳は先進国2000億円、新興国1000億円の構成比をイメージしています。SI業界では、高い目標とみられるかもしれませんが、顧客企業はグローバルでビジネスを伸ばそうと必死なのです。もし、ビジネスの要となるITの部分を海外の有力SIerに奪われてしまっては、日本の情報サービス産業にとってマイナスにしかならない。顧客の赴くところ、地球のどこまでも、当社はエンジン全開で突き進んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
海外の現地工場の仕事がきっかけで、これまで取引のなかった国内本社の仕事も獲得できた――。山下徹社長は嬉々として話す。もともと公共・金融に強いNTTデータにとって、M&Aや海外進出は、製造・流通分野で迅速にシェアを拡大するための有力な手段。他社が手薄な海外から包囲網を築くことで、2013年3月期、年商1.5兆円を目指す。
NTTデータ社内には、“受注環境が厳しいなか、利益重視で”との慎重論もある。しかし、山下社長は、「売り上げは必達だ」と、頑として譲らない。今期(10年3月期)の受注高は前年度比6.3%増の見通しと堅調に推移。すでに欧米、アジアの開発拠点を連携させ、「24時間体制で迅速なシステム開発を始めている」と、競争力や利益は規模のメリットである程度補えると強気だ。(寶)
プロフィール
山下 徹
(やました とおる)1947年、神奈川県生まれ。71年、東京工業大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。99年、NTTデータ取締役産業システム事業本部産業営業本部長。03年6月、常務取締役ビジネス開発事業本部長。04年5月、常務取締役経営企画部長。05年6月、代表取締役副社長執行役員。07年6月、代表取締役社長に就任。