開発系SIerの業界勢力図が大きく変わろうとしている。相次ぐM&Aや海外新興国のIT投資の増加など国内外の事業環境が大きく変化。これに連動して2010年、有力SIerの優勝劣敗が鮮明になるとみられる。
地殻変動を乗り越えろ
グローバルとクラウドの二つの軸で成長エンジン探る
2010年、SI業界は巨大な地殻変動に遭遇する。「グローバル」と「クラウド」の二つの揺さぶりが、SIerのビジネスを直撃。国内市場の閉塞感が強まるなか、日本の有力ユーザー企業は相次いで中国など新興国へビジネスの軸足を移そうとしている。クラウドは国境を越えてビジネスを支えるインフラとして機能。本特集では、グローバルとクラウドの二つの軸から、次のSIビジネスの成長エンジンを探る。
“ゆでガエル”防げた  |
| NTTデータ 山下徹社長 |
多くのSIerが“ゆでガエル”にならずに済んだと思うべきか――。NTTデータの山下徹社長は、2009年、リーマン・ショック以降のSI業界の状況を、苦笑いを浮かべながら話す。過去数年、緩やかな成長に甘んじてきた国内SI業界を、ぬるま湯に浸かった「ゆでガエルのようだった」とみる。ゆでガエルは、徐々に加熱されるお湯を快適に感じているが、最後にはゆだって死んでしまうというたとえ話から生まれた言葉。カエルを救うには、あえて熱湯を注ぐことで危機を自覚させ、釜から逃がす方法がある。リーマン・ショックはこの“熱湯”に相当したというわけだ。
経済ショックに直面したNTTデータは、以前から進めてきた中期経営計画を見直した。グローバル化を進めやすいようカンパニー制を導入し、クラウド基盤の整備を急ピッチで進めるなど、緊急対応プログラムを矢継ぎ早に実行してきた。リーマン・ショックが起こるまでは「カンパニー制は考えてもいなかった」が、その後わずか9か月で「公共・金融」「産業・グローバル」の二つのカンパニーと、これを支える「技術基盤」担当のカンパニーの計三つに再編。ポイントは、国内でのIT需要がメインの「公共・金融」と、国境を超えて大きなIT投資が見込める「産業・グローバル」に分けたことだ。
経済変調の早い段階で国内市場の伸び悩みと、新興国を中心とした需要の伸びを見極めたNTTデータ。現行の経営計画では2013年3月期に年商1兆5000億円へ拡大させ、うち海外での売り上げ目標を3000億円としている。2008年度(09年3月期)連結売上高が1兆1390億円で、うち海外売り上げ実績が609億円であることを勘案すると、差額3610億円のうち約2400億円(構成比で伸びしろ部分の約66%)を海外で稼ぐ。さらに注目すべきは海外3000億円のうち、アジアなど新興国で約1000億円を売り上げることを目指しているといい、新興国の市場開拓に力を入れる構えだ。
中国市場への進出過熱 準大手SIerのソランへのTOB(株式公開買付け)が09年12月に成立し、年商規模で開発系SIer第2位の野村総合研究所(NRI)を追い抜くことがほぼ確実になったITホールディングスも、中国への進出を積極的に展開する。2010年4月をめどに、天津市に最新鋭のデータセンター(DC)を開設。日系企業や中国地元企業のITアウトソーシング需要を取り込みを本格化させる。それだけではない。中国大手SIerのデジタル・チャイナ・ホールディングスとの関係強化に向けた準備を着々と進めている。
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| ITホールディングス 岡本晋社長 |
デジタル・チャイナ・ホールディングスは、日本の中堅SIerのSJIと業務提携。子会社などを通じて最大40%程度の出資をSJIに対して行うと09年11月に発表したことで、一躍注目を集めている有力SIerである。実は、ITホールディングスグループのTISとデジタル・チャイナは、90年代後半からオフショア開発の合弁会社を共同で設立するなど密接な関係にある。デジタル・チャイナの郭為CEOと、前TIS社長で現ITホールディングス岡本晋社長は「十年来のつき合い」(岡本社長)だという。今回、天津でDCを開設するタイミングで、従来のオフショア開発など限定的な関係ではなく、「より包括的な関係強化」を視野に入れて準備を進めている。
中国では、金融や電力、産業、公共、医療などの各方面の大型プロジェクトが相次いでいる。郭CEOによれば、電力送電網をインテリジェント化する中国版スマート・グリッドで約1兆元(約13.2兆円)、医療で1000億元(約1.3兆円)規模の投資が計画されているといい、デジタル・チャイナでは、これに保険などの金融分野も含めて、国内外の優良商材・技術を結集。自身の受注拡大を狙う戦略を立てる。広大な国土を抱える中国での営業力や保守サポート力をもつデジタル・チャイナと組むことで、ITホールディングスがこれまで培ってきたIT基盤技術や業務アプリケーションの売り込みがより容易になる。
グローバル関連では、英国のブリティッシュ・テレコミュニケーションズ・ピーエルシー(BT)と、次世代ITサービスで業務提携するITホールディングスだが、デジタル・チャイナとは「BTよりも踏み込んだ関係構築に臨む」(岡本社長)と、中国市場の開拓に強い意欲を示す。
重電系SIerに動きあり スマート・グリッドなど社会基盤の受注にひとかたならぬ意欲を示すのが、重電系の日立製作所や東芝などのメーカーである。日立製作所は、電力や交通システム、産業、医療など強みとする社会インフラ分野に経営資源を集中。グローバル規模でのビジネス拡大を目指す。今年度中にも日立製作所の完全子会社になる見込みの日立情報システムズと日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスのSIer3社は、こうした日立本体の方針に沿う形でのビジネスモデルの再検討を急ピッチで進めている最中だ。
日立製作所の社内カンパニーである情報・通信システム社は、09年10月から前述の3社に、同じくグループ会社の日立電子サービスを加えて経営会議をスタート。SIer3社の完全子会社化以降の経営戦略を話し合うためだ。日立本体の情報・通信グループと、日立情報、日立ソフト、日立システム、日立電サの主要SIer4社が横並びで活発な議論を展開する。
日立が注力する社会インフラ領域の国内市場はすでに成熟している。スマート・グリッド一つをとっても、米国や中国など新興国の市場のほうが成長可能性は大きく、日立としてもこうしたグローバルの需要は是が非でも取り込みたいところだろう。ITシステムはこうした社会インフラビジネスの付加価値を高めるうえで欠かせない要素であり、SIer3社を上場廃止にしてまで完全子会社化するのは、こんな事情が背景にある。
だが、グループSIerのグローバルビジネスの現状と、目指すべき姿との差は大きい。比較的早い段階からストレージの管理ソフトなどで海外での売り上げを立ててきた日立ソフトでも、同社の売り上げ全体の構成比で見ればまだ数%を占めるに過ぎない。日立グループ全体でみても、IT系商材で国際的に十分な競争力をもっているのはストレージ製品やITコンサルティングなどに限られる。経営会議で議長を務める日立ソフトの小野功社長は、「今後、グローバルにおいて第三、第四の柱をどう築いていくのかが課題」と話す。
グループの総合力を発揮 重電メーカー系のSIerといえども、単独では海外のビジネスを短期間のうちに拡大させるのは至難の業だ。日立製作所が強みとする社会インフラ系と密接に連携したITビジネスを立ち上げるのが近道の一つというのは間違いない。この点では、東芝も似ている。同グループは、原子力発電所から医療機器、POSレジまで幅広いハードウェアを手がけており、グループのITサービス事業の中核を担う東芝ソリューションは、こうしたグループ各社のハード製品と連携したITビジネスの取り込みに力を入れる。
東芝ソリューショングループは、組み込みソフト開発に強いSIerだが、国内の携帯電話や情報家電の行き詰まりから、受注環境は極めて厳しい状態が続いている。組み込みソフトの技術者を中心に100人規模でのスキル転換に着手。他の業務に振り分けたり、スマート・グリッドやエコカーのモーター、二次電池の制御など、組み込みの技術を生かせる領域への進出拡大にも力を入れる。
同社の梶川茂司社長は、「組み込みソフトがすべてダメなわけではない。携帯電話やカーナビからモーターや電力の制御など、領域を移せばビジネスチャンスはまだある」とみている。東芝グループ全体でみれば、原子力やCTスキャンなどの医療機器、二次電池などさまざまな分野で強みをもつ。いずれも高い国際競争力をもっており、「グループのポテンシャルを引き出す」ことで国内外における東芝ソリューションのITビジネスを伸ばす考えを示す。
次ページでは、クラウドビジネス動きを追う。
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データセンター市場拡大へ
需要高まり建設ラッシュ続く
野村総合研究所(NRI)の調べによれば、国内データセンターの市場規模は2009年度の約1兆2500億円から2014年度には1兆5300億円まで拡大する見込み。クラウド・コンピューティングなどのデータ通信量の大幅な増加に加え、都心部を中心にサーバ設置スペースの供給が不足。SIerなどの事業者によるDCの建設・構築ラッシュが続いていることが市場拡大の背景にある。
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