“次の一手”を考えている
──ノベルのパートナー網の現状を教えてください。
徳永 正直に言って、私が入社した時はアプローチ不足やリソースが分散されていた影響があって、手薄だったことは否めません。ですが、今は違います。入社してすぐに最重要課題としてエコシステム(パートナーとの協業関係)の再構築に取り組み、それが奏功し始めています。
豊富な製品群のなかでも、私の方針で、仮想システムの移行・構築・管理ツール群「PlateSpinシリーズ」の提案に焦点を絞り、既存パートナーとの関係強化と、新規パートナー開拓に力を注いでいます。半年余りが過ぎましたが、極めて「順調」のひと言。最近では、リコーやTIS、シーティーシー・エスピー(CTCSP)といった有力販売会社との提携を発表することができました。リコーさんやTISさんは、提案からわずか3か月で提携にこぎ着け、すでにいくつか案件の獲得事例も出てきています。パートナーが「PlateSpinシリーズ」を活用したことで、物理環境から仮想環境への移行に、従来のやり方に比べてわずか五十分の一の時間で可能にしたケースもあります。
「PlateSpinシリーズ」は、ユーザー企業からもITベンダーからも非常に強い引き合いがある。今後も続々と新たなパートナーとの協業を発表できる予定で、今ここで発表できないのがつらいくらいの強力なITベンダーと手を組むことができそうです。(パートナー)数は約2倍の50社まで増やしますよ。ノベルのパートナー戦略も活気づいてきたな、ときっと思ってもらえるでしょう。
──商品の魅力だけでは、ITベンダーも乗ってこないはずです。どのような支援策を用意していますか。
徳永 パートナーに提供するトレーニングをかなり充実させています。パートナーがどのようなビジネスプランを立案しているかにもよりますが、技術トレーニングはどのパートナーも共通して求めています。なので、これまで有償で提供してきた教育を、無償で提供し始めました。営業担当者にもメリットになるような座学から、実際にツールを活用しながらトレーニングするハンズオンまで、いくつかのメニューを用意しています。投資分野はいくつかありますが、パートナーのトレーニングは、そのなかでも重要項目に位置づけています。費やす金額は昨年度とは比較にならないレベルです。
──仮想化と、それを活用するクラウドは旬の分野ですが、たとえ一時的だったとしても、経営資源を「PlateSpinシリーズ」に集中させるのはリスクがあると思いますが……。
徳永 いや、リスクなんてありません。「PlateSpinシリーズ」は、今の需要に確実にマッチしています。パートナーのリクルートにも最適な手段です。ハイパーバイザーが多様化してきて、仮想技術も混在環境になってくる。そうなると、さまざまなハイパーバイザーに対応する唯一の移行・運用ツールである「PlateSpinシリーズ」の強みが大いに発揮できる環境が生まれる。今、徹底攻勢をかけずにいつ攻め込むのか。それほど自信をもっています。
──では、「PlateSpin」関連のビジネスでどの程度の売り上げをみているのですか。
徳永 ごめんなさい、具体的な金額は言えませんが、日本のクラウド事業を支えるデファクトツールを目指しています。熟練した大工さんは、いくつものトンカチを持つのではなくて、慣れ親しんだ一つの道具で仕事したいはず。それはSEの方も一緒だと思います。
あまり時間をかけるつもりはありません。今年が勝負。この1年で「PlateSpinシリーズ」をデファクトツールに押し上げるため、一気呵成にいきますよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
39歳という若さもあると思うが、「エネルギッシュな経営者」というのが第一印象。話す言葉にも、終始勢いがあった。自身の判断でリソースを集中させた「PlateSpinシリーズ」の拡販で、パートナー開拓が順調に進んでいる感触を得ているのも元気な理由かもしれない。ノベルを成長させることに、絶対の自信を示していた。
徳永社長のモットーは「現場主義」。現場に自ら足を運んで、顧客やパートナーと直接話をし、要望や不満を吸い上げる。解決策を見つけ、それを組織に落とし込む――。それが徳永流のやり方だ。
パートナーの開拓は、今のところ徳永社長の人脈をきっかけに、自らが先導役を担って手がけているように感じた。もし徳永社長の姿勢や考え方が、ノベル社内全体に広がれば、ノベルはきっとライバルにとって怖い存在になるはずだ。(鈎)
プロフィール
徳永 信二
(とくなが しんじ)1970年、千葉県生まれ。95年3月、法政大学文学部卒業後、同年4月に東京機器入社。96年、フジ産業入社。98年、サイトデザインに移籍。99年にボーランドへ移り、02年に営業部長、03年には営業本部長に昇格し、06年に代表取締役社長に就任した。07年には米本社ボーランドソフトウェアのバイスプレジデントを兼務。09年4月末に同社を退職した後、同年5月1日から現職。
会社紹介
ノベルは米ノベルの日本法人で、米本社は1979年に創業したコンピュータおよびOS開発のNovell Data Systemsが前身。83年にLANソフトウェア「NetWare」を発表し、ネットワークOSベンダーとして世界的に脚光を浴びた。その後は、企業買収を重ねて業容を拡大。最近の企業買収としては、02年のSilverStream Software、03年のXimian、04年のSUSE Linuxがある。09年からは、08年に買収したPlateSpinの技術・製品を活用した仮想化ソリューションに力を注いでいる。