日中IT産業の架け橋になる
──昨年12月、中国ビジネスに強い国内有力SIerのSJIの社外取締役に就任されました。この件も、デジタル・チャイナとの協業の一環ですか。
王 そうです。少し経緯に触れますと、デジタル・チャイナの郭為CEOと出会った直後くらいに、彼らの会社の“日本法人になってくれないか”と打診されたことがあります。それというのも、日本のIT機器やソフト・サービスをいち早く手に入れ、中国でのITソリューションビジネスを拡大させたいと考えるデジタル・チャイナの経営戦略があったからなのですね。当時は、デジタル・チャイナとTISなどと合弁でオフショアソフト開発の会社を設立する話し合いが進んでいたこともあって、日本法人が必要だったのだと推測しています。
しかし、私としては苦労して設立したキング・テックをなくすわけにはいかない。そこで郭CEOに、業務提携という形で、実質、デジタル・チャイナの日本側の窓口になるという提案をしました。昨年11月のSJIグループとデジタル・チャイナグループの提携に関し、デジタル・チャイナグループと当社グループで、最大40%程度の出資をSJIに対して行うという内容になったのは、実はこうした背景があるからなのです。SJIとの業務提携をより円滑に進めるために、昨年12月に、デジタル・チャイナの郭CEOと私が社外取締役として就任しました。
──SJIとの提携は、御社のビジネスにとって、どれくらいのプラス要素になりそうですか。
王 中国でのビジネスは、「ロングターム・グッドリレーションシップ」が重要だとよくいわれますが、その通りです。人と人のつながり、信頼関係がとても重視されるのですね。デジタル・チャイナの郭CEOと、SJIの李堅社長といった日中両国のITサービスビジネスを拡大させようというキーマンの方々と浅からぬ関係をもてたというのは、当社のビジネスにとって最大のプラス要素であり、財産です。ただ、当社自身のビジネスは、数字的にはまだまだですが(笑)…。
──少なくともATMは、デジタル・チャイナなどとの強力なパートナーシップで売れているわけですね。
王 それもそうですし、今回、優秀なソフト開発エンジニアなど約1400人を中国で擁するSJIグループと本格的なパートナーシップを組むわけですから、不足気味だったシステム開発力が格段に強まる。デジタル・チャイナグループの中国におけるシステム開発案件の受注拡大に弾みがつくことは間違いありません。当社は、ATMやストレージなどの得意分野で日中のITビジネスを伸ばす役割を担います。
──SJIとの提携はまだ日が浅いですし、大規模なシステム開発の商談は足が長く、実際の数字に現れるのは来年度以降でしょうか。
王 一部では、すでに数字が出始めています。当社は、日本と中国のITサービス産業の人的交流が増えることを見越して、グループに旅行会社を持っているのですね。まずは、SJIなどパートナー企業の方々に利用してもらうことで、年間ベースで億円近い増収の可能性があります。もちろん、システム開発案件が本格的に拡大してくれば、ストレージなどのIT機器の販売増も期待できる。日本市場でもSJIと協業を深めることで売り上げ増が見込めます。
──中期的な目標を教えてください。
王 向こう3年程度で年商100億円へ拡大させるのが当面の目標です。今期で創業10年の節目を迎える当社は、“創業期”から“成長期”にステップアップする時期です。日本のトップ5に入るような大手有力SIerとの関係も深め、ともに力を合わせて日本と中国のITサービス市場の拡大に尽力していく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「天の時、地の利、人の和」とは、中国の思想家・孟子の言葉。キング・テックの王遠耀社長が好きな一節である。中国ビジネスに置き換えてたとえるならば、中国の経済成長の好機に恵まれ、なおかつ日本と中国は地理的にとても近い。ただ、こうした有利な条件が揃っていても、最終的にビジネスの成否を決めるのは“人の和”、つまり人と人との信頼関係である――と。
今、中国では電気通信や電力、金融、公共の各分野でのシステム開発需要が急拡大している。スマートグリッドを例に挙げるまでもなく、「ITなくしては近代的な経済基盤の構築は不可能」(王社長)だ。
いくら近代化しようとも、人と人の関係を重視する中国の文化、商習慣は変わらない。日本で起業した王社長は、日中のIT産業のキーマンとの信頼関係を大切にし、自らも「両国の架け橋になる」ことでビジネスを伸ばす。(寶)
プロフィール
王 遠耀
1966年、中国福建省生まれ。83年、福建省福清市高山供銷社入社。87年、日本留学のため同社退社。96年、関東学院大学経済学部卒業。同年、アイ・アイ・エム入社。企業向けデータバックアップ用ストレージ関連製品の企画、販売に従事。00年、同社を退社し、キング・テックを設立。代表取締役社長就任。09年12月、SJI社外取締役就任。
会社紹介
キング・テックは、2000年に設立。ストレージ・バックアップ機器の販売をメインにビジネスを伸ばしてきた。昨年度(2009年9月期)連結売上高は約40億円で、今期(10年9月期)は中国向けATMの販売好調などを受けて同約60億円を見込む。日中両国でITビジネスの拡大を推し進め、向こう3年をめどに年商100億円を目指す。