顧客満足度をブランド力に
──ブランド力についてはいかがでしょうか。
劉 まとまった資金を投じて、大々的に宣伝できればいいのですが、今はまだそのタイミングではないと捉えています。まずは、着実に顧客満足度を高められるよう取り組みます。
今年5月には、神奈川県に自社運営の倉庫を新設しました。商品によって、仕入先やメーカーから直接客先に届けたり、外部の物流サービス会社に委託するなど、さまざまな方法をとっています。ただ、顧客の立場からすれば、注文した商品はすぐに手にしたいものですよね。自社運営の倉庫を確保したことで、即日出荷できる商品数を大幅に増やすことが可能になります。
当社のかねてからの顧客視点の姿勢が評価され、サービス産業生産性協議会の日本版顧客満足度指数(JCSI)で総合第2位、通販業界では1位という結果を今年3月にいただいています。顧客満足度は、通販店舗としてのブランド力向上にも大きく作用しますので、今後も顧客主義に基づくブランド価値の向上と、これを支える仕組みづくりにリソースを集中していきたいと考えています。
──主要3サイトともにIT・家電系の商材がメインですが、品揃え拡充の予定はありますか。
劉 ECカレントの立ち上げ時は、パソコン関連が中心でした。その後、徐々に家電系を増やし、昨年、イーベストが加わったことで家電系の商材が一気に増えました。イーベストは、大手家電量販店のベスト電器グループの通販会社でしたので、もともと家電に強い。今は、例えば生活用品やブランドもののバッグ、時計、ペット用品、カー用品など、段階的に品揃えを増やしている途中です。今後は、ゴルフ用品や不動産などの取り扱いも検討します。
──今後のビジネスプランはどうでしょうか。年商規模はどのくらいを視野に入れておられますか。
劉 ネット通販は、流通革命を起こすとよくいわれます。その中身をみると、つまりは流通にかかるコストの劇的な削減なんですね。Amazonが世界的にシェアを獲り、町の小規模な店の経営が厳しくなるのは、相対的にみて前者のほうが自動化が進んでいて、コストパフォーマンスがいいからなんです。
あとは、安売りしないこと。「販売にかかるコストが下がれば、商品の販売単価も下げられるじゃないか」と指摘されそうですが、まさにその通り。でも、もし価格を必要以上に下げないで済むならば、どうなりますか? 利益が増えますよね。価格で勝負できるだけの体制を築きながら、価格での競争は極力避ける。小売業は、相反する経営指標をバランスさせ、そのうえで規模を拡大させるビジネスなんです。
お店の安心感や知名度の高さ、顧客満足度などから形成されるブランド力や信用力によって、価格のみの消耗戦と距離を置く。そこで得た利益を、システムの増強やM&Aなどに回し、成長の好循環をつくりだす。すでに当社は、正のスパイラルに入りつつありますので、年商1000億円は今の延長線上にみえています。ネットビジネスで生き残れるのは上位1~2位だけだと胆に銘じて、事業拡大に取り組んでいく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
劉海涛社長は起業前、専門商社の亜土電子工業(現T・ZONEストラテジィ)に勤務していた。中国出身の同氏は、その国際性を生かして海外営業などを担当。
パソコン業界に長い読者ならば、「亜土電子工業」の社名に、少なからぬ郷愁を感じるのではなかろうか。時代はパソコンショップ全盛期。「パソコン販売店T・ZONEの事業を大いに伸ばした金山(和男)社長(当時)には、本当にお世話になりました」と、振り返る。新卒での採用だっただけに、思い入れも深い。
所属部門は違えど、T・ZONE事業の栄枯盛衰は、当時の劉社長にとって一大関心事であった。「いい意味でも、そうでない意味でも勉強になった。とくに、POSシステムや内部統制での弱みの露呈は、反面教師として今に生きている」。この経験が、ストリームの競争力の原動力である“ECプラットフォーム”の構築へとつながった。(寶)
プロフィール
劉 海涛
(りゅう かいとう)1968年、中国安徽省合肥市生まれ。89年、来日。95年、東京商船大学流通情報工学部卒業。同年、亜土電子工業(現T・ZONEストラテジィ)に入社。パソコンなどの法人営業、海外営業などに従事。99年、ストリームを設立し、社長に就任。
会社紹介
ストリームの2010年1月期の連結売上高は前年度比15.5%増の336億円、経常利益は同49.2%減の1億2200万円。09年に相次いで傘下に収めたネット通販サイトのイーベストと特価コムのシステム統合費用などがかさんで増収減益に。今年度(11年1月期)連結売上高は同17.1%増の394億円、経常利益は同89.4%増の2億3200万円を見込む。ネット通販事業のほかに中国との貿易事業なども手がけている。