新規商品・サービスの創出へ
──得意分野は何ですか。
菊川 代表的なのが、食品業向け品質管理情報データベース「Mercrius(メルクリウス)」です。鉄鋼は、複数の材料を混ぜ合わせるプロセス型の製造業ですが、実は食品もプロセス型なんですね。鉄鋼製造のノウハウを食品業へ横展開したケースで、業界トップクラスのシェアをいただいています。他にも原価管理の「J-CCOREs(ジェーシーコアーズ)」や電子帳票などがあります。
当社は、川崎製鉄の情報システム子会社時代から現在に至るまで、断続的に親会社グループからIT系の部門を譲り受けてきた経緯があります。新しい人材が当社に加わることで、新しい商品やサービスが生み出され、現在のような強みを生かした事業ポートフォリオを構築できたのですね。今回、エクサのおよそ300人が加わってくれることで、また新しい領域へ進出できるのではないかと、今からとても楽しみにしています。
──同じ鉄鋼系SIerの新日鉄ソリューションズの年商1500億円規模と比較して、総合SIerとしては、ちょっと御社の規模は小さいように思います。今後、情報サービス業界でどのようなポジションを目指していくお考えですか。
菊川 日本の情報サービス産業の成熟度が高まるなか、年商200億~300億円規模のSIerが、収益面で最も厳しい局面に立たされていることは、よく理解しています。規模で勝る年商1000億円以上の総合SIerと、正面からぶつかるのは得策ではない。大型M&Aで一気に売り上げを2倍、3倍と伸ばすという予定も今のところありません。しかし、当社には食品業向け品質管理や、製造業向け原価管理、電子帳票など、特定分野でトップクラスの競争力がある商材を多数もっています。つまり、特定分野に特化することで、その分野におけるトップSIerを目指すことができるポジションにいるわけです。
これに加えて、運用アウトソーシングの強みもあります。製鉄所のシステムは24時間体制で、休みなく動き続けなければなりません。当社はこうした耐久性の高い運用ノウハウに長けているのですね。特定分野を強みとして顧客を獲得し、その後、システムの運用やアウトソーシングにつなげる案件を増やすことで、収益の安定化を図ります。
──特化型ですとターゲット市場が小さく、伸びしろに限界があるのでは。
菊川 得意分野を連続的に増やしていくことでカバーします。ある分野でシェアを拡大して、飽和する前に別の成長株を継ぎ目なく打ち出す。もう一つはグローバルへの展開です。国内で飽和しても、海外の同分野で伸ばせば成長を持続できる。例えば、食品業向けの品質管理などは世界中で需要があるわけで、可能性は大きい。海外については、まだ夢を語る段階でしかありませんが、欧米やアジアへ思い切って踏み出していくことは、もはや避けられません。
──どのくらいの成長をイメージしておられますか。
菊川 2015年度に年商500億円、経常利益30億円を目標に掲げています。将来的には世界の情報サービス市場で活躍する専門特化型SIerグループのトップを目指す考えです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
菊川裕幸社長は、旧川崎製鉄と旧日本鋼管の情報システム統合を指揮した一人。システムに対する信念は、「決して情報システムの構築を目的化しないこと。ユーザー企業を成功に導くためにはどうすべきかをユーザーと共に考えるSIerであるべき」と説く。自らのユーザー体験と、顧客起点が染みついたユーザー系SIerらしさを前面に打ち出す。
新統合システムの「J-Smile」は、情報システムをユーザー・情報システム子会社が主体的に再構築した事例として、国内外から高い評価を得ている。JFEシステムズは鉄鋼向けSIで得た知見をベースに、独自商材を次々と開発。専門特化した強みを生かす戦略を推進する。
今後の課題は、国内での強みをグローバル進出へいかにつなげるかにある。親会社はインドなど新興国への投資を加速させており、そのスピードに追いつけるか――。菊川社長の腕のみせどころである。(寶)
プロフィール
菊川 裕幸
(きくがわ ひろゆき)1950年、神奈川県生まれ。74年、早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。同年、川崎製鉄(現JFEスチール)入社。96年、水島製鉄所条鋼圧延部長。97年、熱間圧延部長。98年、工程部長。00年、企画部長(理事)。01年、営業総括部担当役員付主査(理事)。03年、JFEスチールシステム主監。07年、JFEシステムズ非常勤取締役(兼務)。10年4月、JFEシステムズ取締役。同年6月、社長就任。
会社紹介
JFEシステムズの2010年3月期の連結売上高は前年度比15.2%減の277億円、経常利益は同86.7%減の1億8100万円。リーマン・ショックの影響で年商300億円を大きく下回った。今期(11年3月期)連結売上高はほぼ前年並みの278億円、経常利益は同27.0%増の2億3000万円を見込む。12年3月期はエクサからの一部事業継承により年商370億円に増える見通しを示している。