中国での事業展開に期待
──クラウド事業は、現段階では売上高への貢献度が低いとおっしゃったように、クラウドサービスを拡大するだけでは事業成長は難しいと思いますが…。
榎本 当社の事業計画では、クラウドによるサービス化だけでなく、「独自性のあるビジネス」と名づけた取り組みも重要視しています。具体的には、仮想化事業を中心とした領域になります。当社はサーバーの統合/仮想化の分野で実績があります。この強みを生かし、今後、サーバー/ストレージ/ネットワークを含めたインフラ全体の仮想化に注力します。将来は、社内システムと社外クラウドの共有仮想環境を実現したクラウドとのハイブリッド化を図っていこうと考えています。
このところ、仮想化事業の案件が非常に多く、対応し切れていない状況です。案件のボリュームに対応していくために、2011年度中には、アプリケーション開発に強いシステム・エンジニア(SE)を増強するなど、施策を講じます。仮想化は事業ポテンシャルが大きいので、人員体制の強化を含め、拡大策に本腰を入れていきます。
中期経営計画で、クラウドや仮想化を強化していくとしているのは、IT市場の著しい変更に応じるための取り組みになります。われわれのようなITベンダーは、今後、新しいITに対応した高度なスキルをもっていることが必須と捉えています。クラウドや仮想化などの商材を武器に、トータルなITインフラを提供できる「統合インテグレータ」を目指しています。
──2010年に引き続き、11年のIT業界の“流行”といえば、クラウドコンピューティングと中国進出です。御社は、10年6月に中国内陸部の四川省成都市に中国現地法人を設立し、営業活動を開始しておられます。感触はいかがですか。
榎本 12月に事業をスタートして、地方政府の関係者や現地の要人との人脈づくりに力を入れています。現地法人の場所として成都を選んだのは、大規模なソフトウェアパークがあるなど、市政府がハイテクインフラの構築に力を入れていることや、上海などと違って現地スタッフの定着率が高いといった好条件があることが理由です。中国事業の成長を目指し、現地従業員の数を向こう2年で100人以上の規模に増やします。さらには、中国内拠点の“横展開”を考えており、近いうちに広州や深センに拠点をつくろうと考えています。
──成都法人の設立から、あまり時間はたっていませんが、すでに受注した例はあるのでしょうか。
榎本 中国では、日系の製造業向けの設計受託サービスや一般企業向けのシステム・インテグレーション(SI)を主なビジネスとしています。すでに、日系企業2社から、サーバー/ストレージの受注をいただいています。中国でも、当社製品販売のニーズが確実にあるとみており、今後の事業拡大に期待しています。
中国での事業領域については、中国への進出を目指す日系企業を日本と中国の両国で支援する「日中連携ソリューション」や、クラウドサービスを主要商材として、幅広く当社のサービスを提供していく考えです。
・お気に入りのビジネスツール 榎本秀貴社長が、契約書などの書類にサインをするときに愛用しているのが、ウォーターマンの万年筆だ。役員になったときに手に入れた。特別な思いは込めていないというが、使い勝手が抜群で、「気づいてみれば、もう6、7年使っている」と語る。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビューのなかで榎本社長は、「当社は売上高よりも営業利益と経営利益を重視している」と、兼松エレクトロニクスの経営方針の根幹を示した。2011年以降の中期事業計画での目標値(10年3月期比)は、営業利益が+23.7%(経営利益+23.2%)であるのに対して売上高は+5.4%と低く、榎本社長の経営方針が反映されている。
今後の経営にあたっては、利益重視に加えて、事業提携に重点を置いている。「強い独自性を保ちながら、積極的に業務提携していく」と断言した。親会社との関係も強化していく方針だ。
兼松エレクトロニクスが今後どういう動きに出るか、興味深いところだ。(独)
プロフィール
榎本 秀貴
(えのもと ひでき)1953年10月28日生まれ、57歳。77年、中央大学理工学部卒業後、兼松エレクトロニクス入社。95年、オープン・システム営業本部営業第二部長、98年、福岡支店長。ネットワーク・システム営業本部長などを経て、03年6月に取締役経営企画室長。04年、取締役技術サービス本部長、06年に常務取締役営業本部統括管掌などを経て、06年6月から現職。
会社紹介
1968年に設立。ITを基盤に企業の情報システムの設計や構築、運用サービス/システムコンサルティングなどを提供している兼松グループのシステムインテグレータ(SIer)。10年上半期(4~9月)の事業別売上高は、サービス/サポート(58億円)、ストレージ(39億円)、サーバー(65億円)、ドキュメント(39億円)が最も大きい。10年3月31日時点の従業員数は単体で590人、連結で1067人。