2012年は勝負の年
――モビリティにもかなり注力しておられるようですね。専任のチームを立ち上げられたそうですが……。
安斎 数字的には、「HANA」に比べてまだまだこれからです。ただ、何社かのお客様でかなり具体的にパイロットがスタートしています。実は「HANA」部隊と同じくらい専任チームの人員を増やそうとしています。社内ユースでも、基本的にはiPad 2をベースにモバイルデバイスを活用しています。いままでは、営業部隊がもっているのはBlackBerryだけでしたが、全員にiPad 2を配布しました。
モビリティは、いよいよ来年に火がつくでしょう。キーは、モバイルデバイスの上にどんなビジネスアプリケーションを載せていくのかということになります。すでに、お客様と模索している状況です。
――売り方としては、パートナーであるSIerが実装を担当する従来型の協業形態のほか、スレートを販売している大手キャリアとの共同提案、クラウド/SaaSベンダーとの協業、中小ソフトハウスの取り込みなどを推進するとうかがっています。
安斎 すでに何社かのキャリアとは、Sybaseのモバイル・デバイス・マネジメント・ソフトウェア「Afaria」を実装して販売するといった具体的な話を進めています。一方で、大手パートナーには自社開発したビジネスアプリを社内で使ってもらい、横展開するということを検討しています。さらには、業種別にするのか規模別にするのかで意見が分かれていますが、中堅パートナーとは特化型アプリを提供しようと考えています。来年は勝負の年になります。
――クラウドに関してはどうでしょう。「SAP Business ByDesign」の市場投入はまだですね。
安斎 すでに、パートナーと組んでクラウドサービスを提供しています。「ByDesign」のほうがローカライズに時間がかかると判断したからです。クラウドの重要性は増していますから、ギャレット・イルグ(前社長)が検討していたときよりも早めに提供を開始したいと考えています。
――インメモリやモバイルなどの新分野だけなく、ERPパッケージ事業も伸びています。国内のERP市場に関しては、成熟していないとの見解をもっておられるようですね。
安斎 どこまでをERPの範囲に含めるかによると思います。コアの部分である会計などに加えて、サプライチェーンを拡大するとか、CRM(顧客関係管理)をやるとかいったことを含めると、まだまだ成長の余地があるとみています。今期は、コアの部分の見直しによる導入需要も根強くあります。
中堅・中小企業(SMB)市場では、コアになるERPそのものが伸びています。実は導入したほうがトータルコストが安くなることに気づいたユーザーが増えているのだと思います。
――ここ数年はSMB市場で、確実にシェアを上げてこられました。ただ、中小企業向けの「SAP Business One」ビジネスはいまひとつ先行きがみえてきません。
安斎 実は、社内の営業担当者のなかにも「Business One」はもうやらないのではないかと思っている者がいました。そこで、7月から8月にかけて、「そんなことはない」と、社内にもパートナー向けにもメッセージを発信しました。「Business One」に対する営業の認識の改善とパートナーへのサポートなどの見直しを進めました。
「Business One」はパートナーと当社の一部の営業が販売していますが、大企業向けの営業にも案件が入ってくる場合があります。これまでは、そうした案件がうまくパートナーに流れていきませんでした。それがきちんと流れる仕組みをつくったのですよ。
・お気に入りのビジネスツール IBM米国本社に赴任中の1998年に手に入れたHARTMANN(ハートマン)のノートパッド。「日本から招待した沢山のお客様向けのプレゼントだった。私は帯同したということで、イニシャル入りでもらった」。それ以来使い込んでいる非常に愛着のある品だそうである。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ERPベンダーとして業界の先頭を走ってきたSAPジャパンは、近年はクラウドやモビリティ、インメモリデータベースなどの新分野で著しい成長をみせている。その結果、ERPパッケージ事業以外の事業比率が高まっている。
一方で同社は、「SAP HANA」によってリアルタイムというERPのコンセプトが本当に実現できるようになった、と強調する。そのERPパッケージ事業は好調に推移。もともと強みをもつ大企業市場に加え、SMB市場でも存在感を増している。
そんななか、新社長に就任したのが安斎富太郎氏。日本IBMとデルで営業畑を歩んできた人物だ。日本IBMで「ITシステムとサービスの仕組み」、デルで「スピードとフレキシビリティ」を学んだという安斎社長は、パートナービジネスへのてこ入れやクラウドビジネスなどの新規事業への取り組み強化を明言する。新体制の下、SAPのビジネスは変化の速度を増しそうだ。(宮)
プロフィール
(あんざい とみたろう)1957年2月12日、東京都生まれ。1981年3月、慶應義塾大学経済学部を卒業。同年4月、日本IBM入社。1997年から1999年まで、IBM米国本社に勤務。2000年、日本IBMに帰任し、公共・公益・通信メディアサービス事業部長や理事NTT事業部長を務めた。2006年6月、デルに入社し、執行役員営業統括本部長に就任。2011年1月、SAPジャパンに入社し、専務執行役員シニアバイスプレジデント営業統括本部長。同年8月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
SAPジャパンは、独SAPの日本法人として1992年10月に設立された。約230社のパートナーとともにビジネスを展開している。グローバルでは、2010年度の売上高は124億6000万ユーロ(IFRSベース)。200万人以上のSAP Developer Networkや15業種にわたるIndustry Value Networkなど、独自のパートナーネットワークを駆使し、約10万9000社がSAPソフトウェアを導入している。近年は、インメモリデータベースやモビリティ、クラウドサービスなどの分野で成長著しい。