SAPジャパン(安斎富太郎社長)が、海外事業を展開するパートナー企業を支援する体制を強化している。新たに打ち出したパートナープログラムの名称は、「SAP Partner Globalization Program」という。「ローカリゼーション」から「グローバリゼーション」を旗印に、世界各国のSAP拠点と連携して、自社製品の最新情報をパートナー企業に迅速に伝達することを狙いとしている。(信澤健太)
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SAPジャパン 佐藤知成・パートナー本部本部長 |
製造業を中心とする国内企業の海外進出が加速している。しかし、「ユーザー企業が海外で頼るベンダーの多くは外資系だ。そうしたユーザー企業が国内で懇意にしていたベンダーは、海外では十分にサポートできていない」と、SAPジャパンの佐藤知成・パートナー本部本部長は話す。
同社が推進している「SAP Partner Globalization Program」は、こうした課題に応える新しいパートナープログラムだ。独SAP本社が発表した最新の製品情報や資料(英語版)を、日本語に翻訳するよりも前に、国内のパートナー企業に提供する。これによって、いち早く最新情報に触れることができる。「最終的には、ユーザー企業にタイムリーにSAPの価値を理解してもらえる」(佐藤部長)。なお、日本語の情報は、同等のサービスレベルで継続して提供する。
佐藤部長は、「英語での情報提供について、パートナー企業から反発されると思っていたが、否定的な意見は少ない。むしろ、なぜもっと早く始めなかったのかという意見があった」と説明する。
「Globalization Program」は、世界各国にあるSAP拠点との密な連携を特徴としており、今後はこれまでの取り組みを踏まえながら、現地での情報提供の機会をさらに増やしていく方針だ。具体的には、「パートナー企業に個別にSAPのプロジェジェクトチームを組織してもらい、独本社でシステムエンジニアによるスキルトランスファー(技術伝達)を行っていく。すでに、独本社に恒久的に人員を派遣して、最新情報の入手ルートを確立しようと検討しているパートナー企業もある」(佐藤部長)という。
さらに、独本社での最新製品の共同検証プロジェクトの立ち上げや営業面での協業も推進する。独本社以外にも、モバイルソリューションの研究開発拠点である米国・カリフォルニアのSAPや、グローバル規模での営業戦略を策定している米国・ペンシルベニアのSAPなどとの連携体制を構築していく構えだ。
SAPが提供する製品は、統合基幹業務システム(ERP)以外にもビジネスインテリジェンス(BI)や顧客管理(CRM)、サプライチェーン管理(SCM)、インメモリデータベース、モビリティなど、年々その数を増やしている。
すでに、今年1月から8月にかけて合計38回開催した無料教育プログラムでは、インメモリデータベースに関するセッションで外国人講師がパートナー企業に“生”の情報を提供した。85%以上のセッションがERP関連以外の内容で、セールス・プリセールス向けのソリューション知識に焦点を当てた。インメモリデータベースに関するセッションは、英語での講義にもかかわらず、150人以上が参加する盛況ぶりをみせた。佐藤部長が「パートナー企業のとくに若い担当者は英語力が向上している」と指摘するように、英語への抵抗感はそれほどない。「すべてを英語化するわけではないが、今後はテーマを絞って開催していくかもしれない」という。
SAPの海外拠点で、パートナー企業の幹部に最新情報を提供する機会も設けた。今年7月、パートナー企業13社20人を独本社に招き、1週間のワークショップを実施。開発責任者や製品ロードマップの作成の責任者などが直接最新の状況を説明した。また、8月には、パートナー企業8社25人向けに、上海拠点で1週間をかけて最新情報を提供した。
佐藤部長は、「中国などでSAPシステムを導入する場合、ローカライズした国内向けのものを横展開しようとすれば問題が生じる。上海では、二十数か国で提供しているベストプラクティスの『Baseline Packages』を活用してもらうための情報を提供した」と説明する。パートナー企業のこうした招待の機会は定期的に設けていくことを検討している。
表層深層
SAPジャパンが打ち出した新しいパートナープログラムである「SAP Partner Globalization Program」は、国内のパートナー企業がSAPの戦略、製品動向を関する詳細な最新情報を迅速に入手し、ユーザー企業に還元する環境を用意している。
SAPジャパンの佐藤知成・パートナー本部本部長は、「内容が限定された日本語の資料は、正確には明らかではないが、英語版の10~20%程度にすぎないだろう。そのため、SAP製品の機能が正しく伝わらないことがある」と打ち明ける。日本語での最新情報は、英語版の発表から数か月遅れて伝わることもある。
SAPの海外拠点で、パートナー企業の幹部に最新情報を提供する1週間のワークショップの機会を設けた際には、実は外資系ベンダーにも声をかけていたのだという。しかし、「間に合っている」との返答があったそうだ。一方で、ワークショップに参加した国内のパートナー企業からは、「SAPが想像していた以上に進んだ取り組みをしている」「製品コンセプトをよく理解できた」などという肯定的な反応が寄せられたようだ。裏を返せば、これまでは十分に伝わっていない情報が少なくなかったということになる。
今後SAPは、これまでの取り組みを一歩踏み出して、独本社を中心とする最新の情報提供の仕組みづくりを進めていく方針だ。国内のパートナー企業にとって、海外事業を伸長させる強力な後押しとなることは間違いない。(信澤健太)