「ITを抜本的に見直す」動きが顕在化
──共同利用型の総合証券バックオフィスシステム「STAR-IV」では、2013年1月からいよいよ野村證券が加わり、証券分野の共同利用型サービスでのトップシェアが盤石なものになりました。 嶋本 「STAR-IV」は準大手から中小証券会社を中心に50社余りのユーザーを抱えているのですが、これに業界最大手の野村證券が加わったことで、他の大手証券会社への訴求力も高まりました。当社が狙うのは、「STAR-IV」のような事実上の「業界標準ビジネスプラットフォーム」を数多く打ち立てることです。例えば、ネットバンキングサービスの「Value Direct」は、2012年末までに10社の採用が決まっているだけでなく、2013年1月からは金融商品のコンサルティング型営業を支援するフロントシステムのサービスも始めました。一つのシステムを複数のユーザーでシェアすることで、1ユーザーあたりのコストは下がりますし、それだけ多くの資金をシステム開発に投入できます。ユーザーの要望や意見を貪欲に採り入れながら使い勝手を高める手法です。
──2015年度をめどに大阪でも「業界標準ビジネスプラットフォーム」の拠点となる最新鋭DCの建設を決定されましたね。 嶋本 現行の大阪DCはすでに容量がほぼ満杯で、設備的にも古くなりつつありますので、“売って借りる”オフバランス化を行うことでコスト削減効果を得ながら、新しいDCへとつなげていく考えです。詳細はまだ未定ですが、今回の東京第一DCほど大規模ではないにしても、それなりの規模を想定しています。東日本大震災以降、大手ユーザーを中心に、災害に強い情報システムのあり方を真剣に考え直すようになっており、首都圏のバックアップとして最もニーズが大きいのは、やはり関西圏なのです。
震災後は当面のBCP(事業継続計画)やDR(災害復旧)に取り組んだユーザーが多かったのですが、中長期的なBCP、DRに耐えうる基盤システムの再構築という面では、まだ課題が多い。先に述べた二つ目の成長要因である「IT戦略のサポート」は、こうしたユーザーの基盤システムを刷新していくニーズを取り込んでいくことも含んでいます。規模のメリットによってITシステムの維持コストを削減し、災害に強い堅牢なDCをベースにして運用される時代にあって、ユーザー単独の情報システム部門だけの力では、正直、力が及ばないケースが増えるとみています。見方を変えれば、当社のように重点的に投資が行える専門ベンダーのビジネスの展開余地が大きくなっているということです。
「真の成長を証明する」局面に突入
──三つ目のグローバルITサポートの取り組みはいかがですか。シンガポール拠点をアジア・太平洋地域における中核拠点として、本格的に機能し始めているようですね。 嶋本 台湾・台北支店と韓国・ソウル支店をそれぞれ現地法人化するとともに、タイ・バンコクにNRIグループ20番目の海外拠点として現地法人を立ち上げたところです。いずれもシンガポールのNRIアジア・パシフィック傘下にあり、インドやインドネシア、香港、マニラなどの拠点を含めて計9か所を統括するポジションにあります。また、シンガポールに本社を置き、ASEAN主要国やインド、オーストラリアなどでITサポートを展開する地場有力SIerのマインドウェーブソリューションズに約9%出資するなどASEANやインド地区でのビジネス基盤の充実に取り組んでいます。
──中国はどうですか。 嶋本 当社の中国事業は上海を中心としたコンサルティングビジネスが非常に好調に推移しており、開発拠点として中国国内9地域・21社・約4000人のオフショアソフト開発パートナーを組織しています。ただ、ユーザー企業は自らのビジネスを中国だけでなく、アジア成長市場全域へ展開しようと考えているので、ASEANやインド方面のコンサルティングやシステム構築、ソフト開発の各拠点の広域化は欠かせません。アジアに第二のNRIをつくるという当社の目標にも沿った動きなので、これからも積極的に拡充していきます。
日本の業務や日本語、NRIの品質重視の開発手法に見事なまでに適合してくれるのは、今のところ中国のオフショアパートナーだけで、例えば、インドは国際標準のCMMIにのっとったかたちで、英語による開発が主流です。インドのやり方も重要ですが、一方で、ソフト開発の分野でまだ発展途上にあるミャンマーやベトナムに中国同様の日本式のビジネスパートナーを育成するという考えもあります。これには少なくとも5~10年の期間がかかるので、腰を据えた取り組みが必要です。
──中期経営計画の「ビジョン2015」で掲げた年率7%成長は達成できそうですか。 嶋本 「ビジョン2015」を策定したのが2008年。正直、厳しい時期が続きましたが、今年度(2013年3月期)連結売上高は前年度比5.8%増の見込みと、6%近い成長の見通しまでこぎ着けられました。来年度は、今回話した三つの成長分野をしっかり捉えて、真の成長を証明する年にしたい。
・FAVORITE TOOL いわずもがなの「iPad」。NRIではスマートデバイスで閲覧できる社内ポータルサイトの構築を進めている。「私が使い勝手がいいと判断したら全社展開したい」と、日々、トップの厳しい目で吟味する。全社で使えるようになれば、NRIの社員は重いパソコンを持ち歩かなくて済むようになるかもしれない。
眼光紙背 ~取材を終えて~
NRIの経営計画「ビジョン2015」では、年率7%の勢いで連結売上高を伸ばす成長基盤づくりを目標に掲げている。しかし、この計画を策定した2008年の直後に襲ったリーマン・ショックで、成長どころかマイナスに陥ってしまった。
野村ホールディングスやセブン&アイ・ホールディングスなど多数の優良顧客に支えられたことも追い風となり、2012年3月期の売り上げは前年度比2.8%増まで回復。今年度(13年3月期)は「主要顧客以外でも売り上げ増の傾向が強まった」(嶋本正社長)ことから同5.8%増を見込む。
目標とする2015年度までに、年率7%増を安定的に継続する収益基盤の確立を急ぐものの、一方で、野村證券への「STAR-IV」導入の大型案件も山を越え、2013年度以降は「真の成長が試されるフェーズ」へと突入する。クラウドやIT戦略ナビゲーション、グローバルITサポートといった重点分野で成長基盤を盤石なものにすることができるかどうかの正念場だ。(寶)
プロフィール
嶋本 正
嶋本 正(しまもと ただし)
1954年、和歌山県生まれ。76年、京都大学工学部卒業。同年、野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。01年、取締役情報技術本部長兼システム技術一部長。02年、執行役員情報技術本部長。04年、常務執行役員情報技術本部長。08年、専務執行役員事業部門統括。08年、代表取締役兼専務執行役員事業部門統括。10年4月1日、代表取締役社長。
会社紹介
野村総合研究所(NRI)の今年度(2013年3月期)連結売上高は前年度比5.8%増の3550億円、営業利益は同4.3%増の450億円の見込み。野村ホールディングス向けの大型案件だけでなく、クラウドやグローバルといった注力分野でのビジネス拡大も成長を支えるなど、収益基盤強化の成果が現れ始めている。