野村総合研究所(NRI)の「金融クラウド」事業が本格的に立ち上がろうとしている。11月21日、およそ200億円の巨費を投じて、最新鋭の第3世代データセンター(DC)「東京第一データセンター」を全面開業。「金融クラウド事業の中核拠点にする」(中村卓司執行役員)と、強みとする金融業界向け情報サービスビジネスのシェア拡大を加速させる。NRIの取り組みは、ミッションクリティカルがとくに強く求められる金融機関の基幹業務システムのクラウド化が一段と進展することを意味している。クラウドの安全性を補強する事例として、他業種への波及効果もありそうだ。

中村卓司執行役員 NRIの「金融クラウド構想」は、証券や銀行、保険など金融業界の基幹業務システムのクラウド化を推進していくもの。最新鋭の高効率のDC設備を使ってシステムの集積度を高めることによって、「IT基盤にかかるコストの40%削減を目指す」と石橋慶一専務が語るように、ユーザーにとってのコストメリットを前面に打ち出す。
ただ、これだけではNRIの売り上げは減ってしまう。そこで打ち出しているのが、共同利用型システム「業界標準ビジネスプラットフォーム」によるシェア拡大を同時に推し進めることで売り上げも伸ばす戦略だ。IT基盤費用の4割削減を実現すれば、市場競争力は格段に高まるわけで、これまで他社のシステムを使っていたユーザーのNRIへの乗り換えをより強く促すことができる。この原動力となるのがラック換算で約2500ラック、受電能力約4万kVAを誇る第3世代DC「東京第一データセンター」である。
NRIは、東京第一DC以外にもラック換算2000ラック相当の横浜第二DC(受電能力約1.5万kVA)、横浜第一DC(同約1万kVA)、日吉DC(同約1万kVA)の三つの大型DCを首都圏で運営している。中村卓司執行役員は「DCは受電能力で性能が決まる」として、東京第一DCは既存の首都圏三大DCのすべてを収容してもまだ能力に余りがあるという集積能力の高さを誇示する。1ラックあたりの標準電源能力は7.5kVAで、第2世代DCの2kVAクラスの4倍近くで、最大で30kVAまで耐えられる。
クラウドの基本技術の一つにサーバー仮想化がある。これによって、電源と冷却能力、床荷重が許す限り1ラックにほぼ無尽蔵に仮想サーバーを詰め込むことができる。集積度を高めることで、コストを圧縮するだけでなく、複数のユーザーが同様の基幹業務システムを共同で利用する「業界標準ビジネスプラットフォーム」と組み合わせることで、より一層のコスト削減と収益性の向上を目指す。

11月21日に全面開業したNRIの最新鋭の「東京第一データセンター」
「業界標準ビジネスプラットフォーム」とは、例えば証券業向け基幹業務システム「STAR-IV」や投資信託の窓販業務システム「BESTWAY」、ネットバンキングサービス「Value Direct」といったNRIの主力商材の共同利用化を促進する。STAR-IVは2013年1月から証券業最大手の野村證券がユーザーとして加わり、この分野で「これまでの約3割から5割を超えるシェアに拡大する」(石橋専務)見込みだ。Value Directも10月時点でスルガ銀行とさわかみ投信が新たにユーザーとなり、11月に入ってさらに1社の受注が決まって、計10社へとユーザーが増える。もちろん、既存の共同利用型システムは、既存DCで稼働しているので、東京第一DCへすぐに移転するわけではない。ただ、既存DCの稼働率がすでに高水準で推移していることから、東京第一DCは新規の案件や顧客の誘致を活性化する起爆剤の役割を期待されている。東京第一DCに対する顧客からの引き合いは好調で、「早ければ向こう8年ほどで完売できる見込み」(中村執行役員)と確かな手応えを感じている。
IT調査会社のIDC Japanによれば、50m2以上のDC(ユーザーの電算室を含む)は国内におよそ460か所。その多くは第2世代以前の効率しかないとみられる。NRIは、旧世代のDCは高集積のクラウド化には耐えられないとみており、まずは東京第一DCにラックごと移設してもらい、そこから段階を経て仮想化による高集積化、さらに業界標準ビジネスプラットフォームを利用できるタイプのシステムに対して積極的に共同利用方式を提案していくことで、シェアを拡大する。(安藤章司)