中国の対日オフショア開発は、日本の開発者不足を背景に受注増を見込んでいるが、足下では人件費の高騰と急激な円安元高の進行によって、利益の捻出が難しくなっている。対日オフショア開発大手の上海海隆軟件(上海ハイロンソフトウェア)は、コスト負担を軽減するための対策を進めるとともに、中国国内向けのビジネスを開始し、2014年度(14年12月期)の連結売上高は、前年比約64%増の6億5408万元に及んだ。包叔平董事長総経理に、対日オフショア開発と中国国内向けビジネスを今後いかに広げていくのかを聞いた。
日本に必要な“リソース”になる
──現在の対日オフショア開発の市場環境について、どのようにみておられますか。 包 日本はアベノミクスで全体景気が上向いて、ソフトウェアの発注量が増えています。当社の受注量も昨年は前年比で20%程度増えました。日本では、大規模なシステム案件が続いて開発者が足りない状況ですから、15年以降も10%程度増えていくとみています。しかし、受け手側のコスト負担は増大して、利益捻出が難しくなっています。
──対日オフショア開発会社は、どこもコスト負担の増大という共通の悩みを抱えています。 包 とくに日系の会社は、資本関係がない中国の開発パートナーに案件を委託する例が増えています。自社のオフショア拠点を売却し、後はローカル企業に安い価格で開発してもらいコストダウンを図ろうという戦略です。当社にオフショア拠点を売却したいという声も多く聞かれるようになってきています。
典型的な例が、当社に資本参加していたオムロンです。2014年に、オムロンは当社の株式を売却して、資本を引き揚げました。ただ、当社にとって悪い話ではなくて、株式を売却して以降、オムロンからの受注量は以前よりも30%ほど増えています。
──市場環境が厳しくなるなかで、御社ではどのような対策を進めているのですか。 包 稼働率の向上や、高付加価値な上流工程の開発へのシフトに加え、コストが安い地方の活用も進めています。最近では、江蘇省昆山市の100人規模のオフショア会社を買収しました。昆山は人件費と社会保険料が安くて、トータルコストを上海の半額程度で抑えられます。年内には、200~300人規模に拡大したいですね。
価格調整も行っていて、現在の当社の開発単価は、一人月30万~35万円です。しかし、大幅な値上げは難しい。オフショア開発は、日本より安いことが前提ですが、日本国内の開発単価がそれほど伸びていないのです。日本の単価が上がって、中国側も上がる好循環に期待したいですね。
──どのような対策をとれば、オフショア開発で持続的に成長を図ることができますか。 包 オフショア開発の考え方を変えることは必須でしょうね。今の日系企業は、完全に“安さ”をあてにしてオフショア開発を利用しています。しかし、これから先は、“リソース”として扱ってもらいたい。オフショア開発は、日本以上の開発単価でさえなければいいじゃないかと思うのです。日本は今、開発者を募集しても確保しづらい状況で、とくに若いPG(プログラマ)は集まりません。この状況で、必要な人的リソースの確保を考えた場合、“安さ”だけを追求した現状のオフショア開発では、日本側と中国側の双方が納得するビジネスは望めません。当社は、日本に必要な“リソース”としての活用に耐えうるために、品質の向上や上流工程への対応を強固に推し進めていきます。
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