台湾の大手EMS(製造受託サービス)ベンダーの金宝グループ。その傘下の「新金宝グループ」を率いる沈軾栄総経理は、3Dプリンタで世界シェアの拡大を目指す。EMSで培った製造技術を駆使し、コストパフォーマンスが高い3Dプリンタの新機種を次々と市場に投入。本社を置く台湾では、LED照明技術を応用した「植物工場」も業界に先駆けて手がけるなど、自社ブランドを前面に押し出して、新領域へ意欲的に進出している。沈氏は「子どもたちが大人になる頃の生活スタイル」を常に想定しながら、EMSベンダーとしての強みを生かせる新規事業の創出に取り組んでいる。
「私がやりたかった」から
──3Dプリンタで世界シェア3割獲得を狙うと聞いていますが、ずいぶん野心あふれる目標を掲げておられますね。 沈 そんなに無茶は言ってませんよ。現に2014年の3Dプリンタの世界出荷台数はおよそ10万台。うち当社の「XYZprinting」ブランドのシェアはすでに3割に達しています。2015年は出荷台数が倍増するとみており、引き続きシェア3割を狙っていきます。
──アメリカの3Dシステムズとストラタシスが、3Dプリンタ界の牙城だと聞いています。 沈 うちの戦略は入門機で10万円台、光造形方式の上位機でも20万円台と、戦略的に普及価格帯に設定していますので、台数ベースではシェアを獲りやすい。米国の二強は周知の通り製造業の“生産設備”向けの3Dプリンタで伸びてきた会社ですので、今のところ強みの領域が両社とは違うという事情もあります。
私どもはEMSで伸びてきた企業グループで、当社「新金宝グループ」が属する「金宝グループ」全体の年商は日本円で3兆円ほどあります。ノートパソコンや携帯電話、プリンタなどの電子機器を、いかに品質を保ちながらすぐれたコストパフォーマンスを発揮するかがEMSの腕のみせどころですから、3Dプリンタの製造でも当社グループの製造ノウハウを生かして、戦略的な価格を打ち出しているのです。
──そもそもEMS大手の企業グループが、どうして「XYZprinting」の自社ブランドで3Dプリンタを手がけることになったのでしょうか。 沈 いくつか理由がありますが、最大の理由は「私がやりたかった」からです(笑)。イノベーション、イノベーションとよく言われますが、世の中をひっくり返すようなイノベーションって、そうそう生まれるようなものじゃない。パソコンからスマートフォンに主役が変わるような大きなイノベーションは、30年に1度くらいしかない。人間の短い一生のなかで、こうしたイノベーションに出会え、かつ自分自身がそれをビジネスにできるポジションやチャンスがあるケースって、そうそうはありません。だから3Dプリンタがイノベーションを起こすと知ったときは、「これだ!」と思いましたね。
幸いにも、私たちの会社が通常の2DプリンタのEMS製造を手がけていますので、その発展形で3Dプリンタについては、なんとか行けそうだと手応えも感じていました。目の前にチャンスがあるのにみすみす逃す手はないということで、今から3年ほど前に3Dプリンタの研究に着手。最近になってようやく入門機や上位機の品揃えが整ってきたところです。
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