ファーストサーバは、長年手がけてきたレンタルサーバーの事業を切り捨て、レンタルサーバーの手軽さとクラウドの柔軟性をあわせもつ新サービスを打ち出した。クラウド基盤技術は親会社で押しも押されもせぬ国内最大ポータルサイト“ヤフー”のものを活用し、ファーストサーバはシステム運用とサービス開発、顧客サポートに専念。盤石なクラウド基盤技術をテコに、ファーストサーバの主要な顧客層である中小企業に特化したビジネスの展開を加速していく。村竹昌人社長に話を聞いた。
痛恨のデータ消失事故からの再スタート
──レンタルサーバーをクラウド化するという大胆な施策に出ましたね。御社の創業時の事業であるレンタルサーバーというアーキテクチャが、クラウド時代に馴染まないものになっていたということでしょうか。 村竹 当社は1996年のインターネット草創期からレンタルサーバーを手がけてきましたが、2012年、不手際でユーザーのデータを一部消失してしまうという痛恨の事故を起こしてしまいました。以来、再発防止に取り組んできたのですが、長年にわたってレンタルサーバー事業を続けてきたこともあり、正直、どう手直ししても抜本的な解決策が見つからない。システム的な言い方をすれば“ソースコードがスパゲッティ状態”である点は否めなかったわけです。そうしたなか、親会社のヤフーがITリソースの外販事業に力を入れていましたので、じゃあ、いっそのことヤフーが提供するIaaS型クラウド基盤を活用しようと決めました。
ヤフーは国内最大のポータルサイトで、「Open Stack」というOSS(オープンソースソフトウェア)を活用した独自のクラウド基盤を構築しています。ヤフーのグループ会社を含む外部顧客に向けては、ヤフー自身のクラウド基盤で培った知見をもとに、外販向けのIaaS型クラウド基盤を別途構築しています。
今回、当社はこの基盤を活用し、運用管理や監視制御は当社が担いつつも、ベースの部分はヤフーの外販向けのものを採用。サービスを「Zenlogic(ゼンロジック)」と名づけて、今年2月にサービス基盤を抜本的に刷新しました。コンセプトは、ずばり「サーバー区画貸しからサービス業態への事業転換」です。
──ヤフーと同じアーキテクチャのクラウド基盤なら、丈夫そうですし、安心できるとは思うのですが、既存のレンタルサーバーのユーザーはどうなりますか。 村竹 既存のレンタルサーバーのユーザーには、「Zenlogic」への移行ツールを提供するなどして、できれば新サービスのほうへ移行いただくようお願いしていきます。いや、むしろ、ユーザーが「ぜひ移行したい」と思えるようなサービスへと、より一段と磨きをかけて、付加サービスの充実も進めていく考えです。
「Zenlogic」の開発にあたっては、当社の主要ユーザー層の従業員数100人未満の企業ユースに特化した設計にしました。Amazon Web Services(AWS)に代表されるパブリッククラウドは多数ありますが、ITに詳しい人材がいない中小企業であれば、いわゆる一般のパブリッククラウドは敷居が高い。多彩なサービスを享受できる分、課金も複雑でわかりにくいのです。
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