すべての社内システムをパブリッククラウド上に構築するという事例は、もはや珍しいものではなくなった。エンタープライズ分野におけるクラウド活用のすそ野が広がってきたことで、パブリッククラウドかオンプレミスかではなく、いかにクラウドを有効活用するかに視点が移ってきている。クラウドの採用理由をコストメリット以外で議論されるようになってきたことからも、その傾向を垣間見ることができる。「欧米と比較して、日本企業が遅れているということはない」と、アマゾン データ サービス ジャパンの長崎忠雄社長は断言する。
AWSの活用増を支えるキーワード“デジタル”
──昨年の夏頃から、クラウドに対する企業の反応が変わったということを頻繁に聞くようになりました。それまでは、ウェブサイトなどのフロントシステムやゲーム用などが多く、業務システムでの採用は一部の先進的な企業に限られていたというわけです。あれから約1年が経ちますが、その後の変化にはどのようなものがありますか。 長崎 エンタープライズ分野では、AWSを導入する敷居がさらに下がってきていると思います。クラウド、あるいはAWSに対する“感情的な障壁”がずいぶんとなくなりました。先進的な企業でもなく、先進的なアプリケーションでもなく、本当に普通のアプリケーションをAWSで活用するケースが増えたと思いますね。背景にあるものとして、一つは多くの事例が出てきたということ。もう一つは、“デジタル”がキーワードだと思っています。
──そのデジタルとは、どのような意味ですか。 長崎 例えば、IoT(Internet of Things)もその一つです。何かにセンサをつけて、そこで得た大量のデータを処理する。担当者の経験に頼っていた匠の世界が、デジタル化される。同様にモバイルや電子媒体など、さまざまなビジネスシーンでデジタル化が進みます。そのための環境が、クラウドなら短期間で構築できるというわけです。
──IoTはともかく、モバイルなどは最近始まったことではありませんよね。 長崎 AWSの認知度が徐々に広がってきているということでしょう。そもそも、日本法人ができて5年ほどの歴史しかありません。まだ始まったばかりなのです。
──約5年という歳月で日本法人の位置づけは、どのように変わってきていますか。 長崎 AWSにとって、日本のマーケットは非常に重要という点では、変わりませんね。
──グローバルでみると、日本のユーザーにはどのような特徴があるのでしょうか。 長崎 日本企業は、テクノロジーに関する感度が非常に高い。以前は、日本のマーケットは米国よりも何年か遅れているとされていましたが、差はありません。とくに、最近の日本企業は、先進技術をキャッチアップするのが早いですよ。ミッションクリティカルなシステムをAWS上で稼働させるという事例は、日本でもかなり増えています。
──日本企業は、新しいものに挑戦しないといわれがちですが。 長崎 意外とそうではないのです。先進的な取り組みをしていても、表に出てこない企業がたくさんあるということでしょうね。
──活用においても、日本企業は世界と比較して先進的ということですか。 長崎 使い方は、だいたいグローバルの傾向と同じです。ビジネスに起因していると思っていまして、グローバル展開のスピードを上げるとか、サービスインのサイクルを速くするなどは、世界で共通のキーワードになっているからではないでしょうか。
以前は、コスト削減に焦点が当たりやすかったのですが、私どものお客様にお聞きしますと、コストもさることながら、やはりスピードですね。何かに取り込むときのスピードです。インフラを早く準備できるというのは、ビジネスに対する貢献度がわかりやすい。それが一つの共通事項だと思います。
[次のページ]